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    わたる。

    @yamasorakakeru

    過去ログとその他もろもろ

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    わたる。

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    カイヤーとガネットが初めて会った時の話。
    やっとかけたー。えーあいくんに添削はしてもらってます。

    青の瞳と赤の魔術師カイヤーが初めてガネットに会ったのは、キャラバンの護衛を依頼したときだった。

    最初の印象は、「細いな」。

    護衛を引き受ける傭兵は、たいてい屈強な男たちか、腕に覚えのある者ばかりだ。
    だが、目の前の黒髪の青年は、筋骨隆々というわけでもなければ、剣を腰に下げてもいない。
    代わりに持つのは、身長と同じくらいの杖。

    (本当に護衛なのか?)

    そう思うのも当然だった。

    しかし、ガネットはその疑問に答えるように、掲示板に貼られた依頼書を眺めながら、淡々と質問を投げかけてきた。

    「ルートは? 危険地帯の有無は? 商隊の規模は? 警備の配置は?」

    冷静で的確。必要な情報を無駄なく整理しながら、慎重に見極めようとしている。
    その目には、場数を踏んできた者特有の鋭さがあった。

    カイヤーは、その瞬間に確信した。
    この男は、ただの護衛じゃない。

    「戦うことより、生き残ることを知っているやつだ」

    キャラバンの旅の最中、それはすぐに証明された。

    護衛はガネット以外にも何人かいたが、誰も彼のようには動かなかった。
    大半は魔物や盗賊の襲撃があれば力でねじ伏せるつもりでいたし、警戒していると言っても、せいぜい剣の柄に手をかける程度だ。
    だが、ガネットは違った。

    無駄な戦闘を避け、最小限の手間で最善の選択をする。
    敵の襲撃を未然に防ぎ、必要なときだけ魔術を使う。
    ただ守るのではなく、リスクそのものを減らしていく戦い方だった。

    カイヤーは、その姿を見ながら思った。

    「こいつは、俺の商売に向いてる」

    腕っぷしの強さよりも、状況を読む力。
    戦いではなく、生き残る知恵。
    そして何より、ガネットのように考え、動ける者はほとんどいない。
    お前みたいなやつがいれば、俺のビジネスももっと広がる。

    だから、カイヤーはキャラバンの護衛が終わった後、こう言ったのだった。

    「なあ、ガネット。お前、一人でやるより、俺と組んだ方が稼げるんじゃないか?」

    ガネットは少し驚いた顔をしたが、やがて考え込み、静かに口を開いた。

    「……俺と? 俺はしがない魔法使いです。護衛を頼むなら、もっと適任がいますよ」

    「いいや、俺はお前と組んでみたい。気に入ったんだ」

    =====

    カイヤーの言葉を聞いた瞬間、ガネットの思考が一瞬止まった。

    「……俺と?」

    自分の耳が間違ったのかと思った。

    護衛の依頼が終われば、商隊とはそこで縁が切れる。
    それが当たり前で、今までもそうしてきた。
    護衛は一時的な仕事であり、継続的な関係を求められることなどまずない。

    だが、カイヤーは違った。

    「お前、一人でやるより、俺と組んだ方が稼げるんじゃないか?」

    まるで商談を持ちかけるように、当然のように言ってくる。
    その目は冗談ではなく、本気だった。

    ガネットは、何か言おうとしたが、すぐには言葉が出てこなかった。

    (なぜ俺なんだ?)

    考えてみると、カイヤーとは道中、そこまで深く話をしたわけではない。
    護衛の仕事として最低限の会話は交わしたが、個人的なことを語るような間柄ではない。

    「……俺はしがない魔法使いです。護衛を頼むなら、もっと適任がいますよ」

    そう答えたのは、ほとんど反射的だった。
    誘いを断る理由を探すよりも、ただそう言うのが当然だと思った。

    カイヤーの商売にどう関わるのかもわからないし、そもそも「組む」というのが具体的に何を指すのかも曖昧だ。
    商人である彼と、冒険者である自分では、そもそもの生き方が違う。

    だが、カイヤーは即答した。

    「いいや、俺はお前と組んでみたい。気に入ったんだ」

    「気に入った?」

    その言葉に、ガネットは戸惑いを覚えた。

    "気に入った"。

    そう言われることに、慣れていない。

    彼が今まで組んできたパーティーは、彼を「必要」としたことはあっても、「気に入った」と言ったことはない。
    回復役として、サポート役として、便利だから一緒にいた。
    だが、それは役割の話であって、ガネット自身を見ての言葉ではなかった。

    カイヤーは違った。
    彼の言葉には、「お前の能力が役に立つから」ではなく、「お前と組みたいから」という意志があった。

    (そんな理由で、俺を選ぶのか?)

    困惑とともに、わずかに胸の奥がざわつく。

    不思議だった。
    カイヤーとはまだ数日しか共にしていない。
    それなのに、彼の言葉は、これまで組んできたどのパーティーの言葉よりも「強い」。

    ガネットは、ふっと小さく息を吐いた。

    「……考えさせてください」

    とっさにそう返したのは、即答するにはまだ、自分の気持ちが追いついていなかったからだ。

    だが、その胸のざわめきは、どこか悪いものではなかった。

    =====

    荷物を商会に引き渡し、身軽になったカイヤーは、まっすぐギルドへ向かった。

    昼間の喧騒が少し落ち着き、夕刻の静けさが街に広がり始めている。
    露店からは香ばしい焼き肉の匂いが漂い、商人たちは客を呼び込む声を張り上げていた。

    ギルドの扉を押し開け、中へ足を踏み入れると、天井の高い広間には冒険者たちが談笑していた。
    壁には無数の依頼書が張られ、奥では受付係が忙しなく書類を処理している。

    カイヤーはまっすぐ受付へと向かい、軽く指を鳴らして声をかけた。

    「魔法使いで、ガネットって奴を雇いたいんだが、彼は今どこに?」

    受付の女性は顔を上げ、少し考えるように眉を寄せた。

    「ああ、ガネットさんですか? 先ほど護衛任務の報告を終えたところですが……今どこに行ったかまでは分かりませんね」

    「そうか」

    軽く肩をすくめ、カイヤーは踵を返した。

    ──まあ、いずれ見つかるだろう。

    そのままギルドを後にすると、商店街の通りへ足を向けた。

    街灯がぽつぽつと灯り始め、店先のランプが暖かな光を放っている。
    人の流れはまだ途切れず、賑やかな笑い声が交差する中、カイヤーは品物の流通を確認しながら、ちらりと周囲を見回した。

    ガネットは金にならない時間を過ごすタイプではない。
    用があればすぐに動くし、必要がなければ静かに過ごすだろう。

    (となると、どこかの商店か、道具屋あたりか)

    当たりをつけ、カイヤーは魔術道具店の前で足を止めた。

    ──その瞬間。

    ちょうど店の扉が開き、中から一人の男が出てきた。

    黒髪の青年──ガネットだ。

    「よお、探してたんだ」

    軽く手を挙げながら、カイヤーは笑みを浮かべた。

    ガネットは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに普段通りの表情に戻った。

    「……何か用ですか?」

    「夕飯は食ったか? まだなら奢るぜ」

    カイヤーがそう言うと、ガネットは僅かに眉をひそめた。

    「……先ほどの返事はまだ考えたいのですが」

    「急かしていねえよ。飯食いながら雑談でもしようぜ」

    そう言いながら、カイヤーは肩をすくめる。

    ガネットは一度ため息をつき、ちらりと夜空を仰いだ後、小さく頷いた。

    「はあ……構いませんが」

    そうして、二人は並んで歩き始めた。

    =====

    「好きなもんはあるか? 好きな酒は?」

    カイヤーは気軽に問いかけながら、足を止めた。

    「好き嫌いはないです。お酒は……飲まないんです」

    ガネットは少し間を置いて、淡々と答えた。

    「じゃあ、俺の好きなとこにするな」

    そう言って、カイヤーは歩き出す。

    街はすでに夜の色へと染まり始め、行き交う人々の足取りもどこか軽やかだった。
    灯された街灯が石畳を照らし、店先からは夕飯時を彩る香ばしい匂いが漂ってくる。
    カイヤーは活気に満ちた通りを抜け、馴染みの創作料理店へと足を向けた。

    「魚料理が美味いんだ。酒がなくとも楽しめる」

    店の暖かい光の中に足を踏み入れ、適当な席へと腰を下ろす。
    店内は落ち着いた雰囲気で、木造のテーブルにはキャンドルが灯され、ほどよく空いた空間が心地よい。
    カイヤーは手慣れた様子で料理を数品、それと果実水を頼み、自分用に酒を注文した。

    しばらくして、湯気を立てる料理と、鮮やかな色合いの果実水、琥珀色の酒が揃う。
    カイヤーはグラスを持ち上げ、ガネットに向かって軽く掲げた。

    「護衛任務に感謝する。お疲れ様!」

    「……ありがとうございます」

    ガネットはわずかに表情を緩め、静かにグラスを合わせた。

    料理をつまみながら、カイヤーは改めて自己紹介を始める。

    「改めて、自己紹介をさせてくれ。俺はカイヤー。商人ギルド所属だが、一応、冒険者ギルドにも名を連ねてる。パーティーに入ることもあるんだけどな……まあ、あんまり長続きしないんだ」

    はは、と笑いながら言うカイヤーに対し、ガネットは静かな表情を崩さず、必要最低限の自己紹介を返した。

    「ガネット。魔術師です。回復とサポートのスキルは一通り使えます……」

    「一通りって、すげえじゃん」

    「いえ……俺は治癒魔法が下手なんで……致命傷レベルは無理なんです」

    「護衛任務中、慎重だったもんな」

    「治せないので……」

    ガネットは淡々とした口調で言ったが、その声音にはわずかに苦さが滲んでいた。
    カイヤーは軽く頷くと、酒を飲み干し、すぐに二杯目を頼む。
    ついでにガネットにも果実水を勧めようとしたが、「水でいい」と言われたため、水を追加注文した。

    グラスが置かれ、カイヤーが改めて話を振る。

    「カイヤーさんは──」

    「カイヤーでいい。敬語もいらないよ」

    「……カイヤー、俺と組みたいと思った理由を教えてくれ」

    ガネットの瞳がまっすぐこちらを見据える。

    「そうだな……お前のその慎重さが気に入った。状況を把握する能力も高い」

    「……冒険者なので」

    「お前は、生き残るための戦い方がうまい。さっき治癒が下手だって言ったな。でも、その分、無茶をしない確実さが俺は好きだ」

    「はあ……」

    「冒険者ってのは、どうにも無謀なんだよ」

    カイヤーはグラスを回しながら、ゆっくりと語る。

    「回復魔法に全てを頼るパーティーよりも、常に大怪我を警戒して戦うほうが安心できる」

    淡々とした語り口の中に、確かな経験が滲む。

    「俺は回復魔法を侮ってるわけじゃないけどな……いつヒーラーが倒れるか分からない状況で、"手がちぎれても腹の臓物をぶちまけても治せる"と思って戦う奴らのほうが信用ならねえよ」

    そう言って、カイヤーは酒をひと口煽った。
    グラスの中の琥珀色が、微かに揺れる。

    ガネットはその言葉を静かに聞き、何かを思案するように視線を落とした。

    料理をつまみながら、カイヤーはグラスを軽く揺らし、琥珀色の液体を眺めた。
    ろうそくの明かりが、酒の表面に揺れる波紋を作る。

    「商売は駆け引きだ」

    彼はグラスを置き、テーブルに肘をついた。

    「命をかけることはそうそうないが……とはいえ、金額次第では命もすっ飛ぶし、品物によっては命も落としかねない」

    淡々とした口調だったが、その言葉の裏には、幾度もそうした場面をくぐり抜けてきた者の重みがあった。
    ガネットはスプーンを置き、静かに返す。

    「護衛ならば……やはり、他のジョブの方が適任かと思うが……」

    「別に、護衛だけしてもらいたいわけじゃない」

    カイヤーは軽く笑いながら、酒をひと口飲んだ。

    「商売は人対人だからな。交渉や取引において、相手の心理を読むのは何より重要だ。その見極めの目は、多ければ多いほどいい」

    そう言って、カイヤーはガネットを見つめる。

    「お前からは……人を見極める力を感じる」

    「……そんなことない、誰でもできる」

    ガネットは目を伏せ、スープの表面に視線を落とす。
    カイヤーは肩をすくめ、口元に笑みを浮かべた。

    「そうでもないぜ? お前は──商人と同じ目をしてる」

    ガネットはわずかに眉をひそめた。

    「……」

    沈黙の中、グラスの中の氷が、静かに音を立てる。
    カイヤーはその表情を面白そうに眺めながら、軽く手を振った。

    「まあ、あんまり気負わないでくれたら嬉しい。お前が引き受けてくれたら、俺にとっちゃ助かるってだけさ」

    そして、酒をもうひと口流し込み、さらりと続ける。

    「それに一応俺は、罠の解除とか、魔物の生態学とか、色々役に立つ知識は持ってるつもりだ。冒険のお供にどうだい?」

    「……商人なのに?」

    ガネットが疑問を口にすると、カイヤーはにやりと笑った。

    「学ぶことが好きなんでね」

    店のざわめきの中、二人の会話だけが、静かに交わされていた。

    =====

    店の灯りが少しずつ落ち、賑やかだった客の声もまばらになってきた。
    カイヤーは最後の一口の酒を飲み干し、グラスを置くと、満足げに息をついた。

    「俺は一週間くらいこの街に滞在する。もし、パーティーを組むことに異論がなければ、商人ギルドを訪ねてくれ」

    ガネットは少しの間、考え込むように視線を落としたが、やがて静かに頷いた。

    「……わかった」

    それ以上、深く詮索するようなことは言わず、カイヤーは微笑んで席を立った。
    店を出ると、夜の冷たい空気が肌を撫でる。

    「じゃあな、考えてくれよ」

    カイヤーは軽く手を振ると、夜の街へと消えていった。
    ガネットはその背中をしばらく見つめた後、自分も静かに踵を返し、暗がりへと歩き出した。


    ---

    一週間後。

    朝靄が残る街の外れ。
    カイヤーは馬車の荷台に腰を下ろし、商隊の準備が整うのを待っていた。
    もうじき街を発つ──そう思っていた矢先、聞き慣れた足音が近づく。

    「……仮契約でよければ、しばらく組ませてほしい」

    低く、落ち着いた声が響いた。

    カイヤーは顔を上げると、そこにはガネットが立っていた。
    相変わらず表情は淡々としていたが、その目には迷いがない。

    「それでいいよ」

    カイヤーは口角を上げ、立ち上がった。

    「お互い、見極め期間だな」

    そう言って手を差し出すと、ガネットは一瞬ためらった後、静かにその手を取った。
    こうして、二人のパーティーは結成された。

    =====

    ガネットは宿への道を歩きながら、静かに考えを巡らせていた。

    カイヤーは、今までに出会ったことがないタイプだった。
    人の価値すら見抜くような深い青の瞳──それを思い出すと、不思議と興味が湧く。

    ガネットは長い間、誰かと長く組むことを避けてきた。
    基本的にソロか短期契約。いつ契約を打ち切られるか分からない不安を抱えるより、確実に短期で雇われるほうがいい。

    なぜなら──

    "中途半端なヒーラーはいらねえなあ。"
    "悪いが、もっと強い術者を雇うよ。抜けてくれ。"

    そんな言葉を何度も聞いてきたからだ。
    ガネットの治癒魔法は、致命傷を癒やすほどの力はない。
    いずれ見限られるのなら、最初から深く関わらないほうがいい。

    ──なのに。

    「お前が気に入った」

    カイヤーの言葉が、ふと脳裏に蘇る。
    あの商人は、なぜ自分を選んだのか。
    本当に、"慎重さ"や"状況判断力"が理由なのか?
    それとも──まさか、性的な意味で気に入られたのでは?
    いや、さすがにそれはないだろう。

    それでも、カイヤーの言葉は妙に引っかかる。
    商人らしい話術に取り込まれただけなのか?
    それとも、自分が知らない何か別の意図があるのか?

    宿へと続く石畳を踏みしめながら、ガネットは思考を巡らせ続けた。
    答えは出ない。
    何度考えても、納得のいく結論には至らない。

    ──だが。

    マイナスにさえならなければ、それでいい。
    損をしない範囲で試してみても、悪くはないはずだ。

    そうして一週間の間、ガネットはギルドの掲示板で任務を確認し、装備やアイテムを補充しながらも、結論を出せずにいた。
    しかし、最終的に"組んでみる"という選択をしたのだった。

    その選択が、いずれ唯一無二の出会いへと繋がっていくことを──
    ガネットも、そしてカイヤーもまた、まだ知る由もなかった。

    おしまい。
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