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    masasi9991

    @masasi9991

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    江戸時代の土蜘蛛さんと大ガマさん

    ##妖怪ウォッチ

    いざゆめまぼろし そこはまるで昼間よりも煌々として眩しい。夜通し喧騒は続く。朝になれば死ぬ。まったく近頃人の世は怪しからん。コンナ夜には人でなしも隠れやすかろう。
     全くどちらで紛れたのだか。ヤンヤヤンヤと茶屋の呼び込み、如来眩しき張見世の甲高き笑い声、テンテツトンの清掻、三味線。昼より眩しく、騒がしく、捜し物にも苦労する。
     だから迷わぬように、吾輩の近くを離れるなと散々言い含めておいたのだが。それこそ田舎者らしく昼見世にでも満足しておけば好かろうに。いやそも、客の振りなどせずともいい、吾々は人の目には見えぬ。だがそれこそ巧く人に化けらるるかと唆したのは吾輩であるが。とはいえ人に見えぬとしても巨大な化け蛙なんぞを江戸中に連れ回す訳にもいかぬから……。
     さて仲の町のあちらからどよめきが。コロンコロンと下駄の音も高く、ゆったりと進む列がある。客らは足を止め感嘆の息を吐く。あれも田舎者らしくこれを一度見てみたいと駄々をこねていたのだが、果たしてどこかで見物できておるのかどうか。慣れぬ術で人に化けた、青白い若造の顔を思い浮かべる。大蛙の顔ばかり見ていたから、どうもまだ記憶に馴染まない。しかしそこな大門をくぐったときに見せたポカンとした顔は、ようく思い出せる……。
     などと足を止めて思いに耽けているうちに、どこかから絹の裂くような声が聞こえた。良くない予兆だ。次に空より、ポン、ポン、ポン、と裸足の足音。立ち並ぶ引手茶屋の屋根の上。草履は履かせた筈なのだが。
    「大ガマ!」
     ともかく大声で呼ばわった。屋根の上でにわかに足を止め、チロリとこちらを見返した。前髪立ちの白面郎の、長い髷が風に靡いた。
     そうして助けを得たとばかりに、屋根を蹴りこちらへ向かって転がるように跳び下りる。大きな荷物を抱いている。その上、追手がある。
     ざわめき、怒号、悲鳴。茶屋の表から駆け出してきた者と大ガマの間に、我が身を滑り込ませた。腰に下げた柄に手をかける。引き抜いた。縦に一閃。
     煌々たる吉原の灯りが、俄に吾輩の手元で真っ二つに引き千切れた。追手はこの店の者だったのであろう。しかし今は、真っ二つに割れた額から赤く膨れた瘤だらけの悪鬼の顔が溢れ出ている。
     臭気が漂う。全てが溢れる前に、左の拳で糸を投げた。割れた頭を縛り上げる。あっと言う間、一呼吸にて、元通り。追手は人の形に戻って、その場にバタンと倒れ事切れた。
    「なんで戻すんだ」
    「面倒を起こしおって」
     昏睡した禿を腕にかばって、大ガマは騒ぎの中に立ち上がった。
    「置いてゆけ」
    「そうは行かねぇ、事情があるらしい」
     などと答えつつ、彼奴はハタと目を見開いて、通りの花魁道中に目を遣った。ヤンヤヤンヤのざわめきの中、列が無惨に崩れている。屋根の上から降りてきた不届き者のせいであろう。
     なかでも尻もち付いて心も失せた花魁へ俄に駆け寄り、
    「お嬢さん、大丈夫かい」
     などと言い、手を差し伸べようと禿を抱いたまままごついている。
    「阿呆め」
     眩しく、ざわめきがそこかしこで続いている。今宵は常より騒がしい。妖怪が紛れるのに、これほど都合の善い夜もない。
     故に、足早に引っ返した。朝になれば全てゆめまぼろし、そんな町だ。裸足の足音も、慌ててこちらを追っ掛けている。
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