何もしていなくても 困ったことに、何もしていなくてもかわいい。
二人とも床にコロンと転がって、先日師匠に資料として渡された雑誌を眺めている。
自分たちが掲載される予定の特集シリーズのページなんかはほぼチェック済みだ。いま二人が眺めているのは、自分たちの仕事とは直接の関係はないレシピのページ。うまそうだ、とかこっちがいいだとか、時々じゃれ合うように言い合いながらページを巡っている。
今度作ってやるためにも後でしっかりチェックさせてもらおう。それはそうとして、こうして何をしているわけでもない瞬間でも……雑誌を読んでいるだけの瞬間でも、タケルと漣がかわいくてしょうがない。
そう思っていると、いつのまにか自分の手元が緩んでいたらしい。開いていた資格本がパタンと音を立ててて閉じた。その音で二人揃ってこちらを向く。
視線がバレてしまった。
「ンだよらーめん屋ァ」
「円城寺さん? 俺たちの顔に何か付いてるか?」
不思議そうに丸くした目が、やはりかわいい。
「顔ォ? ……何もついてねーじゃねーか」
「そういう意味じゃねー。離せって」
漣がタケルの顔を両手で掴んで、じろじろと覗き込んだ。タケルが頭を振ってその手から抜け出す。子猫や子犬がじゃれ合っているみたいだ。……と思うほどに、かわいかった。
「じゃあどういう意味なんだよ」
「ん? いや……」
ただ見てただけ、だ。何しろお前さんたちは何をしていてもかわいいから……。
そう素直に言ってしまうと、二人はどんな反応をするかな。声に出す前にちょっと想像して、顔がニヤけていたかもしれない。起き上がって自分を見上げる目が四つ、また不思議がって丸くなる。
「わかった。らーめん屋ァ、ンっ」
「おっ……と」
漣がずいっと頭を近づけてきた。頭突きでもされるのかと思って一瞬構えたが、全く違う。漣はご機嫌で口元を綻ばせ、きゅっと目を閉じている。
これは……。つまり、いいのか?
「そんなに触りてーなら触らせてやってもいいぜ」
「オマエが触られたいだけだろ」
「ァ?」
「……んっ、あはは、じゃあ遠慮なく」
「くはは! 寛大なオレ様に感謝しろ!」
こちらに突き出された漣のおでこを前髪の上からがしがしと撫でる。正解だったようで、ますますご機嫌だ。……ちょっと危なかったな。触るだけ、か。
「コイツ調子いいな……」
「タケルのことも触りたいんだが……許してくれるか?」
「……い、嫌なわけねぇ、けど」
頷くタケルの額を指先でくすぐる。くすぐったそうに目を細める。そんなタケルを漣が横目で見ている。漣の視線にタケルも気付いて、もっとくすぐったそうに唇をもごもごさせた。
まったく、何をしていても、何をしていなくても、お前さんたちはかわいいな!