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    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
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    土蜘蛛さんと大ガマさんの出会いの話

    ##妖怪ウォッチ

    袖振り合うも……


    「ナァナァ、兄さん、案内人何んか、探してんじゃねえか」
     しつこく何度も馴れ馴れしく話しかけられ、仕方なしに振り向いた。
    「お」
     と相手は驚いた顔をする。二の句を失ったかのようで、あんぐり口を開いたまま立ち止まったその男を置いて、吾輩は再び踵を返して歩き出す。街道の人の波に押されてその顔は遠ざかる。
    「あ、おい。おい。そう睨むことはねえだろうよ」
     数歩遅れて再び追いかけてくる。にしてもなんと人の多い街であろう。人もそうだが、妖怪も多い。人に紛れた者もあれば、人には隠れて往来をうろつく者もある。この中から探すのは、いかにも骨が折れる。
    「あんた田舎から出てきたんだろう」
     派手な緑の小袖を尻端折り、白いふんどしを顕にし、そのくせ肩には獣の毛皮を巻いている。いかにも傾いてだらしがない。ろくな相手ではないだろう。とはいえやくざ者と呼べるほど年季の入ったようにも見えないし、まともに取り合うだけ無駄なこと。
    「どうも歩き慣れていねえようだし、案内役を買ってやってもいいぜ」
    「田舎ではない。上方からだ」
    「やっぱりそうか。しきりにキョロキョロしてるから、そんなこったろうと思ったぜ」
    「なにも物珍しくてあちこちを見ているわけではない。人を追っているのだ」
    「へえ。罪人か何かか? なおさら案内が必要だな」
     なるほど、という風でその若い男は頷いた。まったく心得たとでも言いたげな様子だ。しかし実際は吾輩の探しているのは人ではなく、妖怪だ。人の案内など要らぬし、役にも立たぬ。
    「ともかくその下ろしたての裃やら差し慣れねえ腰のモンやら、そんな様子じゃ良いカモにされちまうぜ。気づいちゃいねえか」
    「カモだと?」
    「その睨む目をやめてくれよ」
     言い合っているうちにいつの間にか、街道の人出はますます増えていた。祭りでもやっているのだろうか。
    「おおい、おやかた様」
     その人混みをかき分けて、若者がやってきた。目の前の男よりもいくらか若く、奴をおやかた、と呼んだ。こんな風体の傾奇者にも、子分というのがあるらしい。
    「いいんですか、こんなことをして」
    「いいんだよ。善行さ。ほら」
     若者から受け取った品物を、こちらに投げて寄越す。
    「これは……、吾輩の」
    「言っただろう? そんな田舎者丸出しで歩いてちゃ、掏摸にでも目を付けらちまう、と」
     一体いつの間に、と袖に入れていた筈の財布を探る。もちろん、見当たらぬ。奴に手渡された品物が、間違いなく吾輩の財布だ。
    「悪いことは言わねえ、田舎に帰るべきだろうよ」
     ケラケラ笑って奴は踵を返した。人混みに紛れて去っていく。
     いつの間にこんな目に遭ったのか? 考えても思い出せぬ。とんと気付きもしなかった。まさか、吾輩が人の悪党にこうもうまくしてやられるとは。いくら人にすっかり化けているからといって、油断などしておらぬ。それに吾輩が気が付かなかったのを、あの男は先に気づいていたというのか。まさか。
    「待て、そこの!」
     遅れて呼びかけたところで既に姿は消えている。すっかりうまく紛れている。あれは何んだ? 妖怪か?


    (了)
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