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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    他愛のない喧嘩未満の土蜘蛛さんと大ガマさん

    ##妖怪ウォッチ

    追いかけっこ

     トン、トン、トン、と小気味の良い足音が空に響いている。閑静な町並みには些か騒がしいのではないか、と思われるのだが、かといって誰も天を見上げるものはない。
     人の耳には聞こえぬ音だ。彼奴が屋根から屋根へと伝って駆け跳ね回る足音。昨今の人家はかつて昔の城や要塞のりも高く天に向って伸び上がったものも多く、そこを跳ねる彼奴の足取りも、嘗てと異なる。時代の流れと共に少しずつ変わっている。
    「遅えなあ!」
     空で叫んだ。次いで、高らかに笑った。蛙の声色は、弾けるような音色である。これも天から地から四方八方あちらこちらへ響き渡ったが、無論それを聞いたのは吾輩だけであっただろう。人には聞こえぬし、低級の妖怪にも禄に聞こえまい。あれは疾すぎる。
    「早く捕まえねえとオレが全部食っちまうぜ」
     高い高い玻璃で造られた塔の上で一度立ち止まってそう言った。小袖の胸元に隠したそれをちらりと見せる。
     全く小癪な輩である。
    「まだ本気を出しておらぬだけだ」
     糸をたぐりたぐり、吾輩も塔を駆け上がる。笑い声がよく晴れた空に吹く風と一緒になって、ゆっくりとちぎれちぎれの雲を押し流す。
    「食い意地張ってんなァ」
    「なにもその中身が惜しいわけではない。吾輩はただそこないたずら蛙に仕置をせねばならぬ」
    「ああ、そうか」
     塔の上からぴょんと跳んで、隣の塔へ。
     さてどう追い詰めるか。単に跳ぶなら、彼奴の方が早い。しかしこの入り組んだ町並みであれば吾輩に理がある。考えを巡らし、糸を巡らし、虚を突いて捕まえる――。撒かれたふりで、彼奴の死角へ入り込む。
     が。
    「ならこの中身はいらねえな」
     懐の包から一つぶ、彼奴が摘んで口の中へ放り込む。
    「待て待てお主、お主はそういった物など好まぬであろう」
     思わず影から飛び出してしまった。
     ゲコゲコ、ゲラゲラ、蛙が腹を抱えて笑っている。
    「囮だ。単純な野郎だな。そもそもさ、こいつはオレのだぜ。確かにあんたにくれてやってもいいとは言ったが、それはオレを捕まえられたらの話だ」
     指先に付けた白砂糖の粉を、ひらひらと散らして見せて、またぴょん、と届かぬ高さへ跳び上がった。してやられた。


    (了)
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