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    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
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    masasi9991

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    近未来とホラーっぽい大ガマさん

    ##妖怪ウォッチ

    バシリカの入り口へ


     ゴーストを知っているか? いいや、昔話じゃない。現代の話だ。ネットワーク上の話でもない。本当に居るんだ。俺は見た。隣の部隊の奴らも見たと言っていた。カメラに? もちろん映っていない。そうさ、何度も確認した。だが俺の目には見えたんだ。見えたはずだ。思い出せない。見えた筈なのに、どんな姿だったのか記憶にゃ残っていないんだ! 嘘じゃねえさ! 俺は見た、他の奴らも見た、嘘なものか。
     俺の目は壊れちゃいない。故障なんかあったら、今日この仕事もしてられんだろう。そうさ、そうさ、点検は入ってるよ。俺の記憶にゴミが混じってるってわけじゃねえ。見たのは俺だけじゃないんだからな。今にお前も見るさ。俺が見たのもこんな夜だったんだ。
     へへ。面白がらせてやろうって腹じゃねえよ。ゴーストってのは恐ろしいもんなんだぜ。昔話だ。死んだ人間の魂がどうのというやつだ。ありゃ一種のホラーだろうよ。居るんだよ、それが。死んだ人間がさ……そりゃごまんと居る。この研究所で死んだのも、居るわけだろう。そういうゴーストだ、多分。
     なんだ? ノイズが。足音? いや、聞こえねえな。お前のマイクの方が故障してるんじゃねえか。フッハッハッハッハ! それもゴーストかな? 面白くなんかねえ、のに、何で笑ったんだ、俺は。
     足音ね。研究員が、歩き回ってるんだろう。居るんだろう誰か。居ねえのかな。知らねえなあ、俺らなんか只の警備員だからな。
     でも建物の中の足音が聞こえるもんかな。そいつは本当に足音か? どんな音だ? 解析してみるか。暇なんだもんな。アハハ。何でこんな研究所に警備員なんか必要なんだろうなァ。人間は誰も寄ってこないのにな。
     録音できたか? フフッ。聞こえねえ。でもお前の方には聞こえるんだろ? こりゃほんとのゴーストだな。昔話の方じゃねえ。だってデータにしかねぇってんだもん。お前の方で解析してみろよ。えーと、位置、人数、身長、体重、体型、年齢、服装、どんなもんだ? 他には。水の音。
     あ? 待て、足音だ? 外か? 中?
    「うるせえ野郎どもだ」
     どこだ? どうした? 今喋ったのは? いない。いない! ……居る! ……見えない!

     巨大な鉄格子の門の彼方に満月の見える夜だった。その明るさがじわじわと霞む。まるで薄い雲に隠れるように。あるいは、これは錯覚というものなのだろうか。男の脳髄にいくつかの仮説が浮かんだ。どれも彼らが体験したことのないものだった。つまり一種の昔話だった。
    「静かにしろ。何度も言ったぜ、おれは。どうも聞こえにくいみたいだな」
     庭を彩る木々や草花が風に揺られた。まるでそこを誰かが掻き分け、男の方へ向かって来ているかのように。
     まるで、ではない。流石に彼も感づいている。以前一度見たものだ。
     しかし今夜は一段と、はっきりと輪郭を纏って見える。彼らのまだ見たことのないゴーストは。
    「あっ」
     と彼が思わず口を開いたとき、驚愕に彼の両眼が揺れたとき、次の瞬間には彼の前にはゴーストが立っていた。
     それは人の形に似ていた。青白い肌、赤い瞳、長い髪……。人間離れした濡れて光る肌、異様に大きく形の良い瞳、まるで意思を持ったかのように蠢く髪。
     しかしそれは彼らとも似ていない。
     通信機越しの断末魔が彼の脳髄に響いた。通信相手の身体が何かに押し潰され拉げた音だった。
     もちろん、親しい同僚だった。同じ仕事で、付き合いも長かった。従って彼もまた何かしらの悲鳴を上げそうになったが、ゴーストの伸ばした腕によって首を押さえつけられ声が出ない。彼の身体はそこに発声機があるのだった。
    「あんたらに用はないが、無駄に死なれちゃ目覚めが悪い。……なあ、そういう感覚は、わかるかい?」
     軽妙な口を利いて、ゴーストはニッと唇の端を釣り上げて笑った。その口の中が真っ赤なのが、背後の建物のガラス窓に乱反射する月明かりに照らされて、見える。
    「見つからないようにするんだ。それか、静かに逃げるのもいい。そこの門が開けられるならな」
     ゴーストは親指を立て背後を指差す。門は硬く閉まっている。では、このゴーストはどこから入ってきたのだろう?
    「何にせよ振り返るなよ。何かが聞こえたとしても」
    「あ、足音……」
     彼は、締め上げられた発声機を震わせて、たまらず呟いた。
    「し」
     と短く、ゴーストは囁く。唇の前に人差し指を立て、風のような音色で。
     発声機から手が離される。その途端、遂に彼の記憶は月光に照らされたかのように明るく、まざまざと輪郭を取り戻した。
     足音が聞こえる。ひとつ、ふたつ、みっつ、姿が見える。うじゃうじゃ居る。子供……か……人間の、子供……くらいの……池いっぱいの……。彼の脳髄のデータによると。
     彼が以前見たものは、今、出会ったゴーストとは違う。内部の警備をしていた際に見たそれ、その足音が、また聞こえる。
    「しーっ」
     再び囁き、唇に人差し指を当てたゴーストの仕草は、それもまた昔話の一節のようだった。
     彼は声の方向へ振り返ろうとした。が、既にゴーストは、彼の巨躯をすり抜けて研究所の扉へ手をかけている。
     それは本当にゴーストなのか? 昔話の通り、死んだ人間の魂なのか。或いは、物や動物のゴーストも、昔話にはあったはずだ。そうなのかもしれない。今彼が見たゴーストの正体は?
     彼は振り向いて今一度その姿を両眼に収めようとした。機械の心に湧いた好奇心だ。しかし同時に、忠告の声を思い出した。振り返ってはいけない。足音……。そうだ、昔話にあるような一種の怖気を、彼は感じていた。

    (了)
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