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    masasi9991

    @masasi9991

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    バレンタインのデググラ

    ##デググラ

    この世界はみんなバレンタイン初心者


     やっとだ。今日は一日、いつもより長かった気がする。仕事を終えてキミとこうして寝室で落ち着くまで、ずいぶん。仕事の帰りが遅くなったってわけでも、普段より他の予定が多かったってわけでもなく、ただ単純に待ち遠しくて、ソワソワして。
     もう夕食も風呂も済ませて明日の準備も問題なし、後は寝るだけ。しかしまだ眠る気はない。まだ眠くない。キミも同じか偶然か、まだまだ目が冴えているようで、ベッドの縁に腰掛けて、おれを待っていた。
    「グランツ! 遅かったじゃないか!」
     寝室に入ってすぐに、キミはパッと顔を上げて出迎えてくれた。
     すごく嬉しそうな顔をしてる。もしかしたらキミも今日のイベントのことをどこかで知ったのかな?
    「何をしていたんだ? 湯冷めしてしまうぞ!」
     ベッドのブランケットをめくって、ポンポンと叩いて催促する。まだ眠くないから、ベッドに入る気はないんだ。でも。
    「デグダス!」
     キミに誘われたのが嬉しくて思わずそこに飛び込んだ。ベッドの上……じゃなくて、キミの胸に。
    「うわっ、わわわっ」
    「ふっ、あは! あははっ! デグダス、キミはやっぱり強いな! 不意打ちで押し倒してやろうかと思ったのに」
    「力には自信がある」
     ムフ、とキミは鼻息を強くして胸を張った。その胸にしがみつきつつ、キミの背後に持ってきたプレゼントを素早く隠す。これ、温度の低いところで保管しないといけないから、キミに見つからないように家の中に隠しておくのが大変だった。風呂上がりに理由をつけて取りに行くのも。
     キミは甘いものが結構好きだし、きっとよろこんでくれる思うんだが。どうかな。
     シーツの波に埋もれたプレゼントは、ラッピングの表面が少し結露して白くぼんやり曇っている。キミの肩越しにそれを見て、表面を指で少しなぞる。触れたところだけ色が変わった。よく冷えている。ドキドキする。
    「グランツ、あのー、なんだ。実はその、昨日が何の日か知っているか?」
    「昨日?」
     抱きついていた腕をちょっと緩めて、キミの顔を間近に見る。妙に緊張して飛び込んでしまったから、中途半端な姿勢でベッドとキミの上に乗っていた。座り心地が悪い。キミの膝の上に改めて跨りなおす。
    「うむ。昨日は……実は……街で噂に聞いたのだが、バレンとインというものが始まったらしい!」
    「ぷはっ! それはそこで切るもんじゃないぜ! あっはっはっはっは!」
    「エッ? 着ちゃいけないのか!? ンン? でもおれは今パンツしか履いていないのに、パンツもダメか!?」
    「あっはっは! パンツ、パンツは……ふふっ、履いてても……いや、どっちでも、フフ、脱いじゃってもいいけど……、そうじゃない。『バレン』と『イン』じゃなくて、『バレンタイン』だ。それに日付はまだ今日だぜ、二月十四日は」
    「ほー! やっぱりおまえは知っていたか。さすがだなあ」
    「ファンタジール中、その話でもちきりだ。なんでも好きな人にチョコをプレゼントするんだとか」
    「そう、それだ!」
     とキミは大きくうなずいて、曇りのない目でジッとおれを見つめた。口元は、ニコニコしている。
    「楽しみにしてたんだ」
    「そ、そうなのか? キミは……その、おれでいいのか?」
    「もちろんおまえだ。おれはおまえが好きで、おまえはおれが好き、だな!」
    「うん。もちろんだ」
    「よし!」
     そんなに真っ直ぐに言われると、さっきまで笑ってちょっと落ち着いていた気持ちがまた、ドキドキし始めた。身体も熱くなってくる。湯冷めどころか。というかこんなに熱くなったら、箱の上からでもチョコを融かしてしまうんじゃないかって心配になる。
     でもちゃんと、これをキミに渡さないと。
     シーツの上からチョコの包みを拾い上げると、やっぱりまだほのかに冷たい。
    「よかった。さっきからおれはもう、ドキドキソワソワしまっていてな。日頃ちゃんと伝えているつもりではあるんだが、改めてとなると緊張するな。アッ、もしかして日頃もお伝え足りないかも知れないのだが」
    「そんなことはないさ。キミはいつも……いつもおれは幸せだ」
    「おまえが幸せでいることが一番うれしいな! でも今日は特別、改めまして」
    「ああ。キミにプレゼントだ」
    「おまえにプレゼントがある!」
     ……え? ……あれっ?
     どっちがどっちを言ったのか。差し出してから一呼吸分ぐらいの間、ぽかんとしてしまってわからなかった。
     二人で同時にぽかんとして、同時に首を傾げる。同時にあれ? なんて声を上げる。それより前に、同時に二人で、お互いの前にプレゼントを差し出している。
     まだ冷たい二つのチョコレートの包み紙が、お互いの手のひらの温度でやっぱり少し結露して、白くなっている。こうして目の前まで持ち上げると、包みからは甘い匂いも漏れているような気もする。
    「んっ、ふふ、あはは。そういうことか!」
    「むむむ?」
     キミは自分で握ったチョコレートと、おれが差し出したチョコレートを交互に見つめて首をかしげる。
     どうやらキミは枕の下にそれを隠していたらしい。というのも、キミの後ろで枕がひっくり返っている。
    「こ、困ったことになったぞ! 寝る前に食べるにはチョコの量が多すぎる!」
    「ふはっ。食べ切れない分は、明日の採掘のおやつにしようぜ!」
    「そんな方法もあるのか!」
    「ふふふ、余ったらな。さ、どっちから食べる?」
    「うーん。待て待て、ここは慎重に……」
     キミは二つの包みを見つめて真剣に考え始める。おれはキミの喜びそうな、キミが好きそうなお店で選んだから多分おいしいとは思うけど、キミがおれのために選んでくれたチョコもきっとおいしいに決まっている。だからどっちからでもいいな。キミの好きな方で。
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