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    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
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    masasi9991

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    土蜘蛛さんと大ガマさんと巻き込まれる大やもりさん

    ##妖怪ウォッチ

    血だるまで火だるまで災難


     うわ鼻血出てる。
     うららかな午後の日差しに大ガマの鼻血は全く心臓に良くない。しかしぎょっとして目を逸らした先にも、血が点々と……いや、そんな生易しい量じゃない。おびただしい量の血を垂れ流し、庭に血痕を引きずりながらこっちに歩いてくる。
     咄嗟に目を逸らしたけど、正解は『このまま何事もなかったかのように帰宅』だったかもしれない。
    「お、大やもり」
     声をかけられてからではもう遅い。おれはカモネギだ。
    「なに、やってんの」
    「そりゃこっちのセリフだよ」
     鼻血を手の甲で擦りながら喋るから何を言ってるのか聞き取りづらい。よく見ると顔もボコボコに腫れてるし、大ガマの声が変なのは鼻血だけのせいじゃないのかも。
    「いやおれは別に頼まれたもの持ってきただけなんだけど。いや大ガマに頼まれたやつじゃないから。ただの通りすがり」
    「いや、が多いな。なんでもかんでも否定から入るんじゃねえぞ。どんどんめんどくせえ奴になる」
     喋る途中で横を向いたかと思うと庭の池に向かってプッと唾を吐いた。唾というかほとんど血の塊。汚……見たくなくてまた目線を逸らす。こいつ人んちで何やってんだ。こんな、きちんと手入れされた庭で鼻血ダラダラ垂らしてさ。
     地面に敷き詰められた白い砂利も池に生い茂る花もこいつの血で薄汚れてかわいそうだ。
    「なんでおれが土蜘蛛んちに居るのか疑問に思ってんだろ」
    「えなんでわかんの。すごく嫌だ」
    「逆に言うと他に疑問の余地もなさそうだけどな」
     そう言われれば確かにそうだ。大ガマが鼻血を出していること自体はかなりどうでもいい。
    「おれが土蜘蛛んとこに来たのは、特に意味とかはねぇ」
    「ふーん。は?」
    「ただ何となく入り浸ってるだけなんだ。馴染みだからよ。重大な秘密なんてない。悪いな、期待に添えなくて」
    「いやそうじゃなくて別に」
     あえて聞け、みたいな雰囲気出しておきながらそんなにめちゃくちゃどうでもいい解答を出してくるとは思わなかったというか、何、さっきの間。
    「また否定から入ってるぜ」
    「いやどうでもよすぎて」
     大ガマと会話するだけ無駄。会話するたびに思うけど、おれが会話する相手の九割が大ガマだからもうどうしようもないけど、もう本当に無駄。帰ろ。
    「なんだ帰るのか。あっち通ったほうがいいぜ」
    「あっちって屋敷の裏じゃん……裏口とかあんの? いや、別に知りたいわけじゃないし裏口の場所を大ガマが知っていることもどうでもいいし家主そっちのけで裏口を案内してくるとこもどうでもいいよ」
    「裏口はそっちであっちは結界と警備の薄い穴場だ。屋根伝いに行けば塀の高さもちょうどいい」
    「大ガマって毎日ろくでもないことしてるの?」
    「親切心から教えてやったんだが」
     どんな親切だ。これ以上話をしてても一つも得なことがない。
     話してる間にも大ガマの足元に血溜まりが広がっていく。よくよく見れば出血は鼻血だけじゃなさそう。まあ、顔はボコボコだし、腕とかもボコボコだし、着物の上から腹部もばっさり切られてるし、片足ブラブラしてるし、そりゃそうだ。
     当人が平然としてるから別に大丈夫……なんだろうけど。妖怪だし。いや、ホントに大丈夫? 裏口の場所よりそっちの方がやっぱ気になるんだけど。心配とかじゃなくて。大丈夫だとは思うけど。顔色いいし。
     でもなんか、なんというか、大ガマにそれを確認するためになんて言えばいいのか正直よくわからない。こういうの苦手。やっぱ帰る。
     ともかく屋敷の門に向かって、庭の小道を歩き出したところだった。
    「ま……でもいいか。多分あいつもいい加減落ち着いてるだろ」
     非常に物騒なつぶやきが聞こえた。
     それってすごく重要な情報じゃない? 瞬時に悪い予感はしたものの、大ガマにそれを聞くために振り返るのか? やっぱあっちの屋根の上通りたいなぁ、なんて? 嫌だ。なぜか、謎のおれの中のプライドが。
     とか考えてるうちに、うららかな青空を遮って、巨大な影がズルリとおれの目の前に現れる。
     おれの何倍もの大きさの真っ黒い巨大な塊は、午後の日差しを一時的に飲み込むほどに禍々しかった。
    「う、うわっ!」
     飛び退き様に思わず口から火が出た。人んちで、放火。いや、でもこれは正当防衛に、あたる!
     とっさに出したから加減もできず、炎が黒い影を飲み込んでしまう。え? ほんとに? そんなにでっかい火、出しちゃったっけ?
    「あー……」
     なんで大ガマはそんなに呑気なの?
     あっという間に炎は火柱になって、天高くそびえ立つ。日差しを遮るどころの騒ぎじゃなくなくなった。黒い影が悶えてゴロンゴロンと庭をのた打つ。火が、やばい、火が、屋敷に燃え移る。
    「ちょっと危ねえなぁ」
    「い、いやっ、ていうか、それ」
     黒い影黒い影とおれは心の中でモノローグを流していたが、もうごまかせない。正直に言うと火を吐いた直後ぐらいに気付いてた。
     それ土蜘蛛さんじゃん。大蜘蛛の姿になってるけど。
    「おーい、落ち着いたか? そんなに弱っちまって、らしくねぇな」
     血まみれの身体を引きずって、大ガマが気安く土蜘蛛さんに近づいていく。まるで街の中で偶然出会ったレベルの軽さだ。
     そのまま燃えてる土蜘蛛さんの身体をポンポンと叩く。ジュッと音がして、そのたびに火が弱まる。多分水の気でなんとかしてるんだろうと思う。お願いだからなんとかなって欲しい。祈るような気持ちだ。損害賠償とか、恐ろしいことが頭に過ぎった。
    「あ、いや、あの、ごめんなさい」
    「あん? 何が? 正当防衛だろ」
    「いや……」
     大ガマがおれと同じこと考えてる……。
     そんなことに愕然としている間にも、丸焦げの土蜘蛛さんが出来上がっていく。
     しかしとにかく大ガマによって火は消されていった。土蜘蛛さんは大蜘蛛の姿のままだけど、どうやら動いているようにも見えるから多分、きっと生きている。大丈夫だ。だいたいおれが火を付ける前からボロボロだったらしいし?
     おれの目の前に満身創痍の妖怪が二人いる。そうか、この二人同レベルなのか。
    「ちょっとな、さっきまで手合わせしてたんだよ。興奮しちまってさ、このザマだ」
    「いつもそんなことしてんの……?」
    「ま、たまにな。いつものことだからさ、そんなに心配すんなよ。有難えけどな」
    「いや心配とかしてないけど」
     大ガマも土蜘蛛さんもこんなになるまでいつもやってるって、マゾなのかな。引く。


    (了)
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