Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
    平和なのと燃えとエロと♡喘ぎとたまにグロとなんかよくわからないもの

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🐟
    POIPOI 413

    masasi9991

    ☆quiet follow

    いつもの土ガマ

    ##妖怪ウォッチ

    かくれんぼ


     どうせそんなところであろうと予測の通りであった。気配が感ぜられたなどといった理屈のあることではなく、予感と言えば聞こえはよかろうが、それすら些か言葉が上等過ぎる。どうせ、だ。呆れを含んだ慣れた感情である。どうせそんなところであろう。して全くその通りであり、その影を薄明るい蔵の中にみつけた瞬間に、一つため息すら漏れた。
    「あれ? いつ来たんだよ」
     地べたにあぐらをかいたそれが、振り返ってノンビリと言う。明るくよく弾む声は薄明るく静かな蔵のあちこちに跳ね回って響き、さながら泉のさざなみのようであった。止まった水面の透明なそこに、ぴょんと小さな蛙が飛び込んで、沸き立たせたような。
    「吾輩の気配にも気付かぬほど、宝を物色するのに夢中になっておったのか」
    「いつまで経ってもあんたが来ねえから、今日はどこかにお出かけかと思って油断しちまった。随分遅かったじゃねえか。そっちこそ、おれが来たのに気付かないなんてな」
    「わざと忍んで来たのではないのか」
    「それでもあんたはどうせ気付いてくれると思ってさ」
    「曲者が入り込んだことには気付いてはおったが、どうせお主であろうから急ぐこともないと思ったのだ」
    「それじゃ負け惜しみみたいだぜ」
    「挑発には乗らんぞ」
     肩越しに振り向いたままケラケラと笑うその声は、やはりよく響く。締め切った蔵の中の密やかな空気につられているのか、日頃の騒がしさは鳴りを潜め、細やかな声だ。しかしよく響く。恐らく蔵の外には出ぬであろう笑い声。
    「なんだ、遊んでくれねえのか?」
    「そう暇ではない」
     と言いつつ、眼前に座る大ガマに向かって手を伸ばし、肩を掴もうとしたところ。
     ぴしゃん、と水の跳ねるような音がして、手のひらがすり抜けてしまった。
    「ゲコっ」
     愉快そうな一声を上げて、姿が崩れる。水の塊となって……妙な術を使ったな。己の眉間に皺の寄ったのが、鏡を見ずともよくわかる。蔵の中は水気厳禁だ。玉や器や刃物など、あらゆる宝を仕舞ってあるため。はた迷惑。
     宙に飛び散る一塊の水球、つい今しがたまで大ガマの姿に化けていたそれを如何せん。水が落ちるのはホンの寸の間だ。考えあぐねるだけ無駄というもの。眺めていれば瞬きの次の間、蔵の床に乾いた音を立てて落ちたのは、水ではなく玉であった。
     大粒の翠玉。透き通った緑色の一粒を摘み上げてみれば、これは見覚えがある。いいや見覚えどころか、これはそこの棚に仕舞っておいたもの、要するに吾輩のものである。
     いったいどこから水を運んできたのか不思議であったが、その水すらも幻とは。ここに忍び入って、吾輩が現れるまでの暇の間に見つけたのだろう。で、手慰みに術を……暇をつぶしに謀りを。
    「かくれんぼしようぜ。もうちょっと頑張って探してくれよ」
     声だけ蔵のどこかから聞こえた。あちこちに跳ね返って、響く。当の本人はあの棚の影か、それともあすこか、梯子を上った二階か三階か、梁の上か。外ではなかろう。
    「まさか遊びといって、そのような遊びだとは」
     やはり呆れる。ため息を吐いた。
    「まあま、たまに童心に返ってもいいじゃねぇか」
     ため息が止まらぬ。が、どうせそんなところだと、始めからわかっていたではないか。どうせこのようなことになる、と胸に広がるのは呆れと何故か安堵のような、静かな安らぎのような……。


    【了】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works