夏のお楽しみの前の夜 ベッドに入る前のキミの背中を見てるだけでも、キミが今どれほど明日を楽しみにしているかよくわかる。その大きな広い肩と背中が物語っているんだ。今にもスキップをし始めそうだけど、さすがに寝室はそれほど広くはない。だからキミは我慢してうずうずしている。かわりに鼻歌を控えめに、そう、夜だから騒がしくならないように控えめにフンフンと歌っている。それで背中が上機嫌に揺れている。
「なあ、もう準備は大丈夫じゃないか?」
「そうかな。水着に上着に替えのパンツにお弁当に……」
「お弁当は明日の朝に準備しなくちゃな。それか、海の近くに店でも出てるかもしれない」
「ほおぉう。それもいいなあ。ということはお財布と」
「デグダス。もうさっき全部確認しただろ?」
「うむ。それはまあ、そうなんだが」
「キミの心配性にも困ったもんだ。ほら、もう寝るぜ」
ブランケットをめくって、自分の横をポンポンと叩いてみせる。振り返ったキミはまだうずうずしているのか、への字に結んだ口で笑ってる。なんとも複雑な表情だ。
「眠くないのか?」
「ムムム。お布団には、入りたい。でも明日が楽しみで眠れそうにない! お布団が海だったらいいのになあ!」
「うっかりここに飛び込んだりしないでくれよ。きっとベッドが粉々になってしまう」
「さすがにそれはわかっているぞお」
渋々、だけどベッドに吸い込まれるようにこっちにやってきたキミは、ブランケットを泳ぐようにかき分けて、おれの隣に潜り込む。
「ああ、楽しみだ。泳ぐのは久しぶりだ。手をこうして、足をこうして」
ベッドの上でジタバタと、泳ぐマネ。ブランケットがめくれてしまうけど、今夜は少し暑いからちょうどいいかな? お互い裸じゃ、さすがにまずいか。
「ダイナミックだな。海で泳ぐキミは、きっと人魚みたいなんだろう」
「えっ!? 人魚? なんだって、おれが人魚!?」
「ああそうだ。おれも楽しみになってきた。明日に備えて早く寝ようぜ」
「いやいやちょっと待ってくれ、おれが人魚? 人魚って、あの海で泳いだり歌ったりする人魚? 沈没船を助けたりとか? どういうことなんだ!? わからなすぎて余計に眠れなくなってしまったぞ!?」
目を白黒させて首をかしげるキミの顔を眺めてると、このワクワクした気持ちでいい夢でも見れそうな眠気がやってきた。いつまででも眺めていたいけど、まぶたを開けていられない。