季節外れのせい 横でグランツが腹を抱えて笑っている。いや腹を抱えて笑うのをこらえている。きっとおれにお気遣いしてくれている……。しかし笑いとは止めようと思って止められるものではないのだ。一緒に座っているソファにはグランツの笑いの波動がカタカタとした揺れとして伝わり、おれの全身にも伝わり、おれの手元も揺れ、おれが掴んでいるこの真っ白なかき氷もまた、小刻みに揺れている。
「あっ」
かき氷が崩れる! ……上の方だけ。ガラスの器の上にきりたつ雪山のように積み上がったかき氷の先端が、ホロリとあえなく崩れてしまった。
「フッ……プハッ、そいつはもう食べちゃうしか道はないんじゃないか?」
「ウームムムム。やはりか……融けてしまうものな……」
「今からシロップを買いに行くのも作るのも間に合わないだろうからな」
「大変なことになってしまった」
隣でグランツが再び吹き出した。その衝撃でテーブルの上の純白のかき氷がまたホロリと。
純白、純真無垢、無色でシンプル、プレーンなかき氷。つまりただの氷。削ったあとに、味付けとなるものが台所に一つもないと気が付いた。いや、冷蔵庫の中に作り置きの山キノコの煮物はある。しかしそれをかき氷にかけることはグランツにやんわりと止められた。
季節外れのかき氷にチャレンジしようなんて思うもんじゃないな。いくら今日が真夏のように暑かったからといって。ちゃんと削ったあとのことを考えておくべきだった。もう一つ先の食べることに関しては、ばっちり考えていたんだが。
「しょうがない。いただきます! ム」
「どうだ?」
「ひんやりしていてうまい」
「ふふっ、ただの氷だしな」
「そう考えるとなかなかどうして悪いものではないな。フワフワだし。ムムっ」
「今度はどうした」
「頭がっ」
「あははは。やっぱりキミは期待を裏切らない!」
「キーンが、ここっ、このあたりに!」
「ここか?」
「そこじゃない! もっと上、というか頭の方だ! こめかみのあたりを重点的にお願いいたします!」
さすさすっとグランツのあたたかめの手のひらがさすってくれるので、安心してかき氷が食べられる。かき氷で心配なことといえばこれだけだものな。あとはシロップの買い忘れ。
「そうだ、グランツは食べないのか?」
「キミが一口くれるなら」
ニコニコのグランツが自分の唇を人差し指でぽんぽんと叩いて催促する。断る理由はない。グランツにもおいしいものを食べてもらわなければ!
「もちろんだとも。はいアーンだぞ。もごご」
「うん?」
口いっぱいにかき氷を頬張ったら非常に冷たい! グランツがちょっとびっくりして首を傾げているが、当然一口は大きい方がいいに決まっている。冷たいけれども!
それにしてもグランツはあんまりアーンというほど口を開けて待っていない。だが急がなければかき氷は融けてしまう。四の五の言っている暇はないのだ!
ポカンとしてるグランツのお口に、急いで顔を近づけて、チュウ。
「どうだ!? おいしいだろう?」
「ンッ、おいしいことには違いないけど……ふっふっふっふっふ、これじゃほとんどただの水だ」
「なにっ? しまった、融けてしまったのか!」
「キミの体温が高いせいだな」
「そんな盲点があったとは……ムムム。そうだ! 逆だったらうまくいくんじゃないか?」
「逆?」
「おまえの方が少し体温が低いから」
「なるほどな。そうか、逆、試しちゃってもいいのか?」
「もちろんだとも。おれはアーンしておくからな。はいアーン」
アーン。まず意気込みを示すために先に口を開けて待っていると、まずグランツはおれの真似をしてスプーンにのせたかき氷を口いっぱいに頬張った。ソワソワだ。