星を見る話 前を歩いていたレッドが急に立ち止まったから、そのまま背中にぶつかりそうになった。
急にどうしたの? って抗議しようと思ったけど、思いとどまって飲み込んだ。あんまり喋れる状況じゃない。多分、ここまで来たら大丈夫だろうけど。
メカニカルな木々の合間から空を見上げている。何か異変でもあったのかな。ボクの位置からはただ暗いだけの夜空しか見えない。レッドの目線からなら? 立ち止まったレッドの背中にもっと近付いて、同ように夜空を見上げる。
「アクセル」
「ん」
押し殺した声でレッドがボクを呼んだ。だから小さな声で返事をした。やっぱり大きな声で喋れる状況じゃない。ちゃんとレッドに聞こえたかな? とボクが疑う前に、レッドは振り向いてボクの前でちょっとしゃがんだ。
「お前、星を見たことはあるか」
耳元で声。真っ暗な夜にふさわしく、すごく静かだ。
「星? そこから見える?」
「ああ」
ここからじゃ見えないって言う前に、レッドが急にボクを抱き上げた。
レッドと同じ目線の高さまで持ち上げられる。けっこー高い。それでさっきのレッドと同じ木々の隙間から空を見上げようとした、けど。
「どこ? なんにも見えない」
「そっちじゃない。北西七三三だ」
「あ!」
言われたとおりの方角の、濁ったような黒い空の中に小さな光る点がある。白い光。あれが星だ。
地球の空はかつて地上に落下したコロニーのデブリに薄く覆われ、一方の地上は昼夜を問わず活動するレプリの活動光に溢れ、結果星なんてものはこの時代じゃよっぽどの条件が揃わないとほとんど見えない。今夜はそのよっぽどの日だ。こんな辺境の森を夜通し歩いてるおかげ。
「以前は夜になれば空いっぱいの星が見えたモンだ。もしそれを見た覚えがあるなら」「ボクの記憶の手がかりになるかもしれないってことだね」
「そうだ」
「うーん、でもよくわかんないな。もうちょっと近くで見たらわかるかも!」
「星ってのはちょっとやそっと近付いたからってよく見えるようなもんじゃねえよ」
レッドが吹き出した。大きな声にならないように、我慢した笑い方だけど。その割にはボクをもっと高くに持ち上げて、肩に座らせる。
「普段なら子供扱いするなと騒ぐところだろうが」
「アジトに戻るまではしょうがないじゃん、一応敵から逃げてる最中なんだし」
「ずっと大人しくしといてくれてもいいぜ」
「絶対無理だね。あっ、星、二つある!」
「どこだ?」
レッドもまた子供みたいに空を見上げた。ボクと同じ目線になるようにキョロキョロしてる。でもレッドは今のボクより星から遠いし、見えるかな?