手遅れ? この状況に慣れちまってるのは、少々まずい。何がまずいって、まずドアを開く前からわかっちまってるってことが、だ。
「おかえり! 遅かったね?」
……ほらな。こいつは予測できていたことだ。だが予測できてたってのが、問題だ。
自室の外からは特に侵入の形跡なんてなかった。侵入? こいつも鍵持ってんだからその言い方はおかしい。でもここはおれの部屋であってこいつの部屋じゃない。部屋の主に断りなく入ってるんだから侵入と言えなくもない。いや問題はそんなことじゃなくて――。
気配だとかなんだとか、そんなものを分厚い金属の扉越しに感じたわけでもない。仮にそうだとしたらそれはそれで気味が悪いだろう。こいつは一人室内で騒いでいたわけでもなさそうだ。ベッドの上でだらけている。そこは誰のベッドだ。アーマーを脱いでいるからまだ良いが、違う良くはない、むしろ悪い。
ともかく――日中に約束したわけでもない。当たり前だ。
だというのにオレはドアを開く前からこいつが来ているのがわかっていた。これがまずい。相当、やられちまってるじゃねえか。
どうしてこんなことになっちまったんだ。
「そんなとこに突っ立って難しい顔してさ、何やってんの? なんかやましいことでもあんの」
「ねえよ、なんにも」
「そーなの? じゃあ早く入ってきなよ」
「お前に言われるまでもねえ。オレの部屋だよ、ここは」
元々、拾ってきてからのこいつは半分ここに住んでるみたいなモンだ。つまり今更と言えば今更。しかしな……。
「やっぱなんかヘンだね。やましいこと」
「ねえな」
ベッドに座ったアクセルの後ろにオレも腰を下ろして、顎を掴んで上を向かせた。それを上から覗き込む。
何? って顔だ。もうちょっと警戒しろ。
「やましいのはお前の方こそ」
「そんなのないよ! だってボクはレッドとセックスしにきただけだし!」
自信満々で単純明快。
こういうのが、まずい。オレに効く。
「……そういうとこだよ」
「えー。これは『やましい』じゃなくて『やらしい』だよ」
「バカ。何の色気もねぇくせに」
まずいんだよ、こういうのに慣れてんのが。もう、かなり前から、だが……。