お酒はほどほどに そろそろ危ないぞ。いつもは背筋をピンと伸ばしているグランツが、おれの隣でテーブルにくたっと突っ伏してしまった。
「もうだめだぞ」
くったりしながらも、テーブルの上のジョッキを探して手がさまよう。幸いなことにテーブルの食事も飲み物も、もうほとんど片付いてしまっている。
そのかわりに、もうすっかりこのように出来上がってしまっている頃合いなのだ。
「こちらにどうぞ」
ふにゃふにゃのグランツの腰を抱えてこっちに引っ張ると、うーんと唸った。力を入れすぎたかな? 具合が悪くなってはいないだろうか。心配になって顔を覗き込むと、なんだか夢見心地のように目を細めていた。安心して肩に寄りかからせる。
「ここでいいのか? ……まくら……」
「もちろんだ。お家の枕よりは硬いかも知れないが」
「ンッ……ははははっ……いつもの枕より大きい……」
「大きいということは、お得だということだな! やったぞ! フフフンフン」
「なーあ、デグダス。たまにはおれが、酔ったキミの介抱をしてみたい」
「できるかな? 自慢ではないが、おれはかなり酒に強い! こらこら、もう麦ジュースはおしまいだ。次はアップルジュース」
「おれもそれなりに強い方のはずなんだがな……」
「どんなに強くても過ぎてしまってはいけないのだ。そう、鉱石ごと鉱床を粉々に粉砕してしまってはいけないように、採掘師とは繊細な仕事も求められるライフであり……あれっ? これはアップルジュースだ!」
「じゃあこっちが麦ジュースだな」
「あっ、こら! むむ? 甘い! こっちもアップルジュースだ。いったいいつの間に注文したんだっけ」
おれの席の前にあったのもアップルジュース、グランツの席の前にあったのもアップルジュース。飲みすぎないようにさっき注文したのだったかな? うむむ。
「フフッ、キミも酔っ払ってるんじゃないか」
「いやいや、これはいつもの正常なうっかりです」
「あっはっは、そうか。なあ、おれもやっぱり喉が渇いた」
「どっちもアップルジュースで、どっちもおれの飲みかけだぞ?」
「ああ、わかってる」
「麦ジュースだと思ってアップルジュースを飲むとびっくりしてしまうからな」
おれの飲みかけのアップルジュースの、まだ沢山入っている方をグランツの手に持たせる。しっかりした手付きでグラスを握る。よし、少し酔いが醒めたみたいだな。