いい起こし方 ここはどこかな? ぱちっと目が覚めて、一番最初に考えることはそれだ。いつもと違うところだ、ここは。
少々狭くて大いに眩しい。狭いのはまったくおれのせいだ。二人用の寝袋にきゅっと詰まって眠っている。しかし狭いのは悪いことばかりではない。なにしろとっても温かい。いつものベッドの上よりも、ぎゅっとグランツにくっつける。ころんと転がって離れてしまうこともない。いつでもぴったりなのだ。
そして朝は天幕越しに、とても眩しい朝日で目覚めるのだ。
ということはここは山の中のテントの中の寝袋の中だ。そして朝だ。
「グランツ、朝だぞ」
寝袋の中でくっついて、背中に回した腕で腰のあたりをちょんちょんする。……べつに腰を触りたかったわけではないぞ。ただ純粋にグランツをちょんちょんしたかっただけなんだ。
「うん……」
小さく唸ってグランツがみじろぎする。顔はおれの胸のところに埋まっている。青いきれいな髪が、天幕からの淡い朝日を浴びてキラキラふわふわしている。
おれの胸板が邪魔で朝に気が付いていないのかな? 罪な胸板だ。
「こっちだこっちだ」
背中の腕をもぞもぞ動かして、今度は頭の方をちょんちょんさせてもらおう。もぞもぞ、もぞもぞ、と。こうしていると色々なところを触ってしまうのはわざとではない、仕方がないのだ。グランツもおれの胸板だけじゃなく腰やら足やら太ももやら色々なところに寝ぼけながらスリスリしている。狭すぎるせいなのだ。
うーん? 寝袋が狭いのはおれのせいだから、それもこれも全部がおれのせいなのか?
考えるとよくわからなくなってきた。ともかくグランツに朝をお伝えするために、おれの胸板に埋まっている後頭部のかわいいつむじをツンツンしたい。
「おはよう、グランツ」
ちょんちょん。
「んっふ、ぷはっ。あっははははは! くすぐったいな! どこを触っているんだ!」
埋まっていた頭がぽんと上を向いて、寝袋とおれの胸板の中から出てきた。大きく口を開けて元気に笑う顔が、柔らかく眩しい朝日の中で輝いている。
「どこって、つむじだ。ここだここだ」
寝癖と大笑いでふわふわする髪の間に指を入れて、ちょんちょん。そんなにくすぐったいだろうかな?
「あっはっはっはっは! 普段そんなとこ、あんまり触られないからさ!」
「うんうん、いつも髪をしばっているものな。ふと珍しく思ってしまって、つい」
ちょんちょん、ぐりぐり。グランツは腹を抱えて笑っている。頭をかばおうにも二人用の寝袋が狭くて自由に動けないのだ。
「あはははははは!」
大きな笑い声が朝に響く。お互いすっかり目が覚めた。この起こし方はなかなか楽しい。明日もこうしようか。
ちょんちょんしてぐりぐり、なでなで。