ki/o/ku「ねーレッド、起きてる?」
「あ?」
騒がしい声に振り向いた瞬間、白いフラッシュが視界を奪った。カメラアイが絞られる。そのアナログで軽微な作動音が片目の中で短く鳴った。
フラッシュで一瞬ぼやけた映像の中で、小柄な身体が手を振っている。
「なんだ、そんなものわざわざ持ち出して」
「オモチャみたいで楽しいじゃん」
そいつは素体むき出しの軽装で部屋の中をちょこまかとうろつき周り、その手にした古式ゆかしいカメラをあちこちに向けた。
手のひらの中の直方体の上部にシャッターボタンが付いている。そいつがシャッターを切るたびに、室内が白く眩しく点滅する。まあ、直接オレに向けたとき程には眩しくはない。その直方体の前面に取り付けられた扁平なカメラアイの絞りの作動音は、オレの身体で鳴った音よりも随分喧しい。
「どこで見つけてきたんだ」
「ストリートセブンのジャンク屋! レッド、こういうアナログなの好きでしょ」
名前を呼ばれて、また振り向く。するとその瞬間を待ってましたとばかりに、再びフラッシュが焚かれた。
「今じゃなくてもいいだろ。こっちは裸だぞ」
「逆に裸じゃないトキはいつでも撮れるし」
「撮ってどうするんだ」
「ただの記念写真。はいピース」
「するわけないだろ」
そう答えた瞬間にまたフラッシュに視界を奪われた。オレは眉間にシワを寄せていたと思うが、なぜかカメラを片目で覗き込むアクセルの方が片手にピースを作っていた。
「記録ならお前の中のストレージで事足りる」
「保全を考えたら外部ストレージって重要じゃん。これならボクかレッドのどっちか、あるいは両方が壊れても」
アクセルはよっぽどそのオモチャが気に入ったのか、歌でも歌ってるかのような上機嫌でペチャクチャ喋り、再びベッドの上に戻ってきた。
カメラのレンズを内側に向け、天井にかざす。
「このカメラさえ生き残ってれば、ボクとレッドの記録が世界に残り続けるね」
フラッシュ。至近距離だ。カメラアイがキツく引き絞られる。
「今のちゃんと二人写ったと思う? このカメラちょっと古すぎて、中のデータ、取り出さないと見れないみたいなんだ」
「……どうだろうな。しかしオレとお前の裸の写真が後世に残っても、見た奴が困惑するだけだろう」
「あはは! そうだね!」
「そういうわけで、消しとけよ」
「んー、それはどうしよっかな」
カメラをオレの前にかざしながら、挑発するようにケラケラ笑う。
奪ってやろうかとも思ったが、やめた。好きにしたらいい。もう寝るつもりだったんだ。