引き分け 手をかければ、直ぐに折れそうだ。青白くなよやかな、首。嘗てから見慣れた通りに、脈拍と呼気のために微弱に上下する、首。生きたままの、首。故に致命的な急所と成り得る、首。
手をかけようか。伸し掛かったこの身体を跳ね除けもせず酷薄に笑う、首。
「やってみりゃいい」
柔らかく膨らんだ喉仏の揺れる、首。
ゲコゲコ、と蛙の声色で笑いながらも、人の形を保つ、首。
「どうせ今日もあんたにゃ無理さ。明日もな。これまで何百年も、こっから何千年も」
掌を、首へ。ヒヤリと冷たい、濡れたように冷たい、しかし脈拍と呼気の通る、首へ。
力を込めれば、直ぐに折れそうだ。
力を――屍の己の肉体に力を。
果たして吾輩の掌に力が込められたその時を同じくして、組み敷かれた此奴の全身にも力が込められる。
何千何億回目かの火蓋が切られた。