朝からお元気「グランツ、朝だぞ。今日も間違いなく朝だぞ」
「ぷっ、ふふふ……っ」
「お布団の中でたぬきになってもおれには通用しない! おまえの笑い声がお布団の中から聞こえてきている! 深く潜ったところでむだだ。こうして、こうして、お布団の上からコネコネ……」
「あっ……」
ベッドに頭までしっかり潜っても、朝の眩しさはもう遮ることはできず、瞼の裏はすっかり白い。これ以上寝坊のしようもないくらいだ。
しかしそれよりも、キミの大きな手がブランケットを揺さぶることの方が。いや揺さぶられているのはブランケット、というか。
分厚くふわふわの布地越しに、大きな手の存在を感じる。キミはうどんでもこねてるみたいにブランケットと、それからその下のおれの腰のあたりを鷲掴みにして、ゆさゆさと揺さぶっている。鼻歌を歌いながら。
朝は眩しくて、キミのご機嫌な鼻歌と、ブランケットの隙間から漂ってくる焼き立てのパンとバターの匂いが幸福で最高だ。が。
キミの手がそうやって腰や尻を揉んでくるから。
「あっ……ひっ♡ んん……っ!」
「わっはっは! そんな声を出しても……え!? そんな声を!?」
ブランケットが勢いよくめくられる。目の前が一気に眩しくなった。朝の空気が涼しい。ちょっと、全身が熱くなってしまっていたから。
「あっはははは、冗談だ……ははっ」
「じょ、じょうだん? グランツ、そ、そうは見えないが……。おれはまたうっかり、やってしまったのか?」
「気持ちよかった」
「むむむ」
キミの手が火照った頬にそっと触れた。でもキミの手のひらの方が、ずっと熱い。これじゃ熱は冷めない。
「こんな朝早くから、い、い、いやらしいことを……! わざとではないんだ! おれには大根のみそ汁が待っておりまして……」
「ふふ、夜に続きをしてくれよ」
「夜! ……その手があったか」
感心したようにうなるキミに両手を伸ばすと、快く抱き起こしてくれた。やっぱりキミは体温が高い。ベッドの上でキミに抱きしめられていると、おれの熱は冷めるどころか……だが、そういう意味とはまた別で、安心する心地よさに包まれる。
「今朝はパンとみそ汁なのかい?」
「うむ。スープにうっかりみそを溶いてしまって」
「どっちにしろ美味しそうだ。お腹がすいた」
「うん。よし、起きるぞ。うーん。グランツ……夜は、遠いなぁ……」
「あははは。こんな日に限って、一日予定がびっしりだもんな!」
ムムとうなるキミの顔も耳も、さっきからずっと真っ赤だ。ほんの冗談のつもりだったけど、うれしいな。