小さな声で 自分にもたれかかっている重量が心地よく、随分あたたかだ。このままだと熟睡してしまいそうだ……と考えてから、慌てて意識を引っ張り上げる。ちょっとした仮眠のつもりだった。資格の勉強をしていた途中で睡魔に負けて、こたつに足を突っ込んだままそこに突っ伏して寝ていたんだった。
身じろぎして目を覚ます。自分の左の太ももを枕にして眠っているタケルがまず目に入った。ちょうどいいあたたかさと重量の正体の一人。もう一人は自分の右肩にもたれかかっていたようで、自分が急に机から頭を上げたせいで一緒に目を覚ましてしまった。
自分の肩からずり落ちてしまいそうになった漣は、そっとその両手で自分の腕にしがみついてきた。眠たそうに瞬きを繰り返している。それに体温が高くなっているようで、頬がほんのり赤い。
自分が仮眠を取っているのを見て、二人も睡魔に襲われたんだろうか。
「おはよう。よく眠れたか?」
「んん」
うなりながら額を自分の肩にこすり付けた。額には前髪と自分のシャツのあとが付いていて、そこも赤くなっている。
「らーめん屋……と、チビ……」
「そう。ここは自分のアパートだ」
漣が寝ぼけ眼で不思議そうにあたりを見回す。昼寝で熟睡すると、目が覚めたときに自分がいったいどこにいるのかわからなくなったりするもんな。ということは漣も自分の肩で気持ちよく眠ってくれていたらしい。
「自分の居眠りに付き合ってくれてありがとうな」
右の肩に寄りかかった漣の頭を撫でていると、次第に目が覚めてきたようだ。自分の顔を見上げながら、何かを思い出したように吹き出した。
「ん。……くははっ、そーいやらーめん屋、すげーアホ面で寝てたぜ! チビが写真撮ってた」
「え? どんな顔だったんだ? ちょっと恥ずかしいな」
「知りたかったらチビに頭下げて見せてもらうしかねーなァ。くははは!」
と、漣が上機嫌で笑っている。その声がいつもと少し調子が違う。ほんの少しだけ柔らかく、囁くような声。
タケルの話をしながら笑って、自分の膝の上のタケルをちらりと見て、声をこらえてにんまりとまた笑う。
漣が静かにおしゃべりしてくれているからか、タケルはまだぐっすり眠って目覚めそうもない。自分の膝の上でかすかな寝息を立てている。
枕にされてる太ももに柔らかい頬が押し当てられているのを意識するとたまらない気分になったが、これは自分もこらえないといけないところだ。
「腹減った」
「このテキストのきりのいいところまで進んだら晩飯を作ろうか」
「まだ時間かかんのかよ」
ご機嫌の顔がちょっと口をとがらせたが、すぐに許してくれたようだ。再び自分の肩に額を押し当てて目を閉じる。その姿勢だとまたおでこにあとが付きそうだな。
自分にもたれかかっている二人の心地良い重量とあたたかさは、そのままもう少し付き合ってくれるそうだ。