証明写真「おい、もう少し顎を引け」
「うっ……はい……」
「うん、良いぞ。そのまままっすぐレンズを見ろ」
僕の前髪を綺麗な指先で整えて、啓護くんは満足気に笑った。
啓護くんが一歩下がると「撮りますよ〜」と朗らかなおじいさんの声が聞こえた。同時にバシャッ、キュイーン、とびかびかの光とシャッター音が何度か。
はぁ、なんだかお腹痛くなってきた。
「おい! 背筋は伸ばす!」
「はいっ!」
応えると同時にシャッターが切られた。まって、いま完全に目をつむってたけどいいの?
ニコニコとファインダーを覗いているおじいさんと、締め切り前に家に押しかけてきた時の編集長ばりにどんどん指示を飛ばしてくる啓護くんに気圧されながら早くこの拷問みたいな時間が終わらないかなと願った。
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