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    @W20190308

    ラフとか元線画とか

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    『オレたちは圧倒的に言葉が足りない!!』
    完結編のかきかけ①

    #マイ武

     目覚めて一番、視界に映るのはキラキラと眩いばかりに輝くシャンデリア。わぁ、すごい。
     人生で初遭遇したシャンデリアに呆然としながら、武道は瞬きを繰り返す。
     シャンデリアの周囲を囲うよう配置されたベッドの屋根を起点に、幾重にも重なって垂れている虹色のシースルーカーテンは、幻想的な雰囲気を演出するのに一役かっている。
     自宅のせんべい布団とは月とスッポンレベルで違う寝心地の良さを誇る布団に手を滑らせれば、つるつるとシルクのような最高の触り心地である。
    かさり、と触れた軽い感触に、掴んだものを面前へと持ってくれば、バラの花びらだった。しかも、造花ではなく生花だ。
    (物語のお姫さまが眠ってるベッドみたいだな……)
     しかし、残念。今現在寝てるいのは冴えないアラサー男だ。宝の持ち腐れ感半端ない。武道は豪華なつくりをしているベッドに対して非常に申し訳ない気持ちになった。
     アロマでも焚かれているのか。室内のバラのような甘い匂いに気を取られる。
     そのまま鼻をひかつかせて起き上がろうとするが、途中で走った激痛にその試みはあえなく断念せざるを得なかった。
    「うぅううう~頭が割れるぅうううう~!!!」
    (これ、二日酔いのときのやつぅ)
     もう体面なんか気にしている余裕はない。頭を抱えて全力でベッドの上を右へ左へ縦横無尽に転がった。
     その衝撃で花びらが舞い散ったが、やはりそれどころではなかった。
     割れるような頭の痛みをこらえながら、ぼんやりと思い出すのは偽装妻がつくってくれたカクテルのこと。
    (やばい、それ以降の記憶が……ない!)
     痛みが原因だけではない、全身からバッとふきだす汗の感触に、武道は震えた。
    「え? あの? いや? ここもしや???」
     今度は頭ではなく顔を覆う。そして、指と指の合間からちらりと室内の空間をもう一度じっくり観察する。
     やたらムーディーな照明に照らされる室内の装飾。カーテンで隠されているが窓はふさがれている。ガラステーブルの上には何やらメニュー表のようなものがおいてあり、巨大なテレビにはホテルの宣伝PVが流れている。あと、装飾の中でやたら浮いているマッサージチェア。
     いくら童貞とはいえ、入ったことはなくたって、武道だって知っている。
     こんな非日常な空間がそうそうないことを。そして、可能性として一番高いのは……。
    「ら、らぶほ???」
     ぎゃん、と悲鳴を上げる。
    (ヒナとも行ったことなかったのに! 今後も行くことないと思うけど!!)
     まさか、自分は偽装妻と一夜の過ちを犯してしまったのだろうか。
    (いや、でも彼女の性的志向じゃオレは範囲外、でも失恋でやけになったとかとか、いやでもっ)
     ばっ、と勢いのまま掛け布団をめくれば、多少胸元は寛げられていたが服を着ていた。ホッと安堵の息をつく。
     なんとなく落ち着かなくてパタパタと服を軽く手のひらで叩いていれば、ざぁああ、と雨が降っているかのような音が響いているのに気づく。
     まぁ、こういうところなので防音だ。
    (それでも響くってことは……)
     ぎぎぎ、と油の切れたブリキのような音を出しながら、武道が発生源を見る。
     サイコロ上にカットされた曇りガラスを積み重ねた壁の向こう、こもる様に聞こえてくるそれは「シャワーを浴びる音」だった。
    「え、大丈夫だよね? セーフだよね? 誰かオレは致してませんっていってっ!!」
     悲鳴のような声を上げる。
     そして、そんな自分自身の悲鳴でダメージを受けてもだえ苦しむことになった。
     がんがん、と金づちで直接頭を叩かれているかのような痛みと内なる戦いを繰り広げた結果、武道は一つの結論を導き出す。

    「そうだ。逃げよう」

     京都への旅行を推奨する某CMのフレーズがごとくのリズムを刻んで呟いた。
     何度もタイムリープした結果、逃げ癖は大分鳴りを潜めていたが、もともと武道は後先考えずに逃げるのが大好き人間だったのだ。
     キャパオーバーになれば、元からの人間性というものが浮き上がってくるものである。
     それに、この状況は武道の人生の危機は訪れていようとも、大事な誰かの危機ではないから余計気軽に逃げ腰になるというものだ。
     幸いと服は着たままだし、ソファに転がっているリュックを抱えて出口だろう扉へ抜き足、差し足、忍び足。
     少しだけ扉を開けて廊下をのぞきこもうとした瞬間。
     どごん、とすごい音がたつ。しかもすごく近くで。なんだったら、耳元ぐらいの近さだった。
     武道は近くの壁に蜘蛛の巣上のヒビが入ったのを真ん丸と見開いた目で凝視する。
     ヒビの中心であり元凶だろう拳が抜ける動きに合わせてぱらぱらと舞い散る破片。
     これ、弁償かな、と少しだけ現実逃避するが、いくら那由多の彼方まで思考を飛ばそうが目の前に立つ人間の正体は変わらないだろう。
     力を込めた時に浮き出た血管と盛り上がった筋肉、前腕部から上腕部にへと視線を流していけば、予想通り水を滴らせたマイキーがいた。
    「……気分はどう? お姫さま」
    「ひぇ」
     やりすぎな壁ドンを披露してくれた王子さまに「最悪です」と返す度胸はなかった。
    「とりあえず、ドアノブから、手ぇ離そうか?」
    「へ、ひ、はい」
    あと一歩で開くはずだったドアは無情にもマイキーの手によって鍵までかけられてしまった。捻るだけの内鍵だからもちろん武道にも開けられるが、マイキーの視線が向けられているなか試す勇気はなかった。
     慌てて出てきたのか。トランクスは履いていたがバスローブの前はばっちりとはだけていた。ろくに拭けていない髪から滴った水がぽたぽたと武道の頬にあたる。至近距離過ぎないか? と武道は思った。
    「あ、あの、マイキーくん。前閉じた方がいいッスよ」
    「あ? 今更じゃね? 一緒に銭湯はいったことあんじゃん?」
     相変わらず綺麗に割れている腹筋は男だったら一度は憧れるものである。ただ、今の武道にはそれを凝視する勇気はなく、そそ、と視線を左下へとそらす。
     視界に映るのはカーペット。敷いてあるカーペットは風呂場から出口までマイキーの足型に濡れていた。
     恥じらいなど持ち合わせていないとばかりにバスローブの前をはだけさせたまま髪をかき上げると、マイキーは踵を返してベッドへと向かう。
     その手は武道の右腕をしっかりつかんでいたので、当然のように武道もベッドへ舞い戻ることと相成った。
     マイキーはベッドのフチに腰掛けると、同じように隣に武道を座らせてから「大体、タケミチっちのせいだからこれ」と不満そうに唇を尖らせた。
    「オレのせい?」
    「うん。そう。ベロベロに酔ったタケミチっちがゲロ吐くから」
    「!? もしかして、マイキーくんに!!!?」
    「うん。店着いた瞬間笑顔でやられた」
    「あー……」
     そういえば、とようやっと思い出しかける。
     確かに、言われてみればマイキーからの電話を取った気がする。
     そうか。あの後、迎えに来てくれたのか。
    (そして、ゲロったのかオレ。最悪じゃん……)
     武道は自己嫌悪で顔を歪める。
    「もしかして、送ってくれようとしちゃったり?」
    「あんな状態ほっとけるわけないじゃん?」
    「ですよねー……ほんっと、すみませんんんん!!」
    (とりあえず、一夜の過ちじゃなかったのはよかった! けど、これはこれで最悪だ)
     マイキーは総長時代から武道がピンチの時はいつもかけてくれる大変義理堅い性格の持ち主だ。
     その義理堅さ故に極端から極端に突っ走ってしまうこともままあったからこそ、武道は心配をかけたことを大変申し訳なく思った。
    (しかも、今日の夜仕事っていってたじゃん。オレ、まじすっげぇ迷惑……)
     その場で土下座しそうな勢いで90度きれいに下げかけた武道の頭を、マイキーの両手が掴んだ。
     がしり、と音がしそうなぐらい結構な力で掴まれたので、視線がそのままベッドに固定される。
    「いいよ別に。それで、タケミチっちベロベロだしろくに歩けないしタクシー乗せても家着く前に揺れでまた吐きそうだし、仕方ねぇから近場のラブホに入ったんだよ」
    「ア―――、やっぱラブホなんスね……レンタルルームでよかったのでは?」
    「あれ、基本一人用じゃん。オレ、狭いのキライ」
    「さいですか……」
    「うん。ラブホってホントは男同士って入れないんだけど、さすが新宿。入れる穴場、教えてもらった」
    「誰に?」
     つい反射で聞き返してしまった。
     その瞬間、頭を掴んでいた腕に力が込められた気がした。
    「タケミチっちの……奥さん」
    「……………それは……あー……そうですか…」
     ぽつりと頭上から落ちてくる言葉に特定の感情は何も感じられない。
     それでも、こめられる力からなんとなく気まずい思いを感じて、武道は言葉を濁した。
     違うんです、と否定の言葉が喉的まで上がるが、ぐ、と無理やりに飲み込む。
     武道の気持ちはともかく、事実、籍を入れているのだから、客観的に見たら何も違わないのだ。
     なんとなく落ち着かなくて、そわそわと視線を揺らしながら下唇を噛む。
     相変わらず頭は固定されたままなので、それ以上の身動きは難しかったのもある。
    「それで、タケミチっちはオレに、なんかいうことないの?」
    「それは……いい年して前後不覚になるほど酔いつぶれるなんて、しかもマイキーくんに迷惑をかけるなんて大変申し訳なく」
    「そういう話じゃねーよ」
     ぴしゃり、と、言い切る前に言葉尻を奪われた。
     ぐぐぐ、とこめられる力に「いだだだだ」と武道は悲鳴を上げる。
    「まままマイキーくん、ちょっ、オレの頭ミシミシいってますっ……!!」
    「力こめてんだからミシミシぐらいいうだろそりゃ」
    「人体が上げちゃいけない音な気がするっ!!」
     二日酔いの痛みも相まって、脳みそがシェイクされているようだった。あと少しで、見えちゃいけない幻覚が見えそう、というぐらいのグロッキー状態になりかけたあたりで、ふっ、と唐突に頭の痛みが消えた。
     痛みから解放された安心感で、そのまま布団に倒れこむ。
    布団と仲良くなった武道の顔の両端に、追随するようにマイキーの手のひらがおかれる。
     二人分の体重を受けて、ぎしり、とベッドがきしむ音を立てた。
     武道を両の腕で閉じ込めるようにおおいかぶさったマイキーを見上げる。
     シャンデリアの光を背に受け、武道を見つめるマイキーの瞳は、底が見えない濃い闇を湛えていて、粘度の高いそれがいまにもどろりと零れ落ちてきそうだった。
     深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
     ニーチェの言葉通り、武道がマイキーの瞳に気を取られている間、マイキーも武道の日本人離れした深い湖のような透明度の高い瞳を見つめていた。
     正反対の輝きの瞳を持つ者同士ながら、誰よりも深くお互いの人生に関わり合ってしまった同士。
     言葉を発することを思いだしたのは、マイキーが先だった。
    「それで……、なんかいうことは?」
    「あっえっ」
     いまだ湿ったままの白髪から伝い落ちる雫がシャンデリアの明かりを受けて乱反射を起こす。
     肩からずり下がったバスローブで隠せていない身体はシャワーで温まったからか仄かに上気していた。
     なにより体勢が悪い。武道の答えを待つように細められた双眸と相まって、まるで最中のようだ。
     そう脳が認識してしまった瞬間、武道は両腕を交差させて視界を自らさえぎった。
    「は? なにしてんの?」
    「いや、目に毒だなぁって……」
     もはや武道の顔は熟れたリンゴのように真っ赤だ。
     しかも、数時間前、偽装妻に己が心の内をいい当てられたことも相まって、願望を再現したかのようなマイキーを直視できなかった。
    「タケミチっちさぁ、人に迷惑かけて毒扱いとか」
    「あっ! やっ、そういう意味ではっ!!」
    「じゃあ、どういう意味」
     はぁ、とため息をついたマイキーの声に、武道は慌てて否定した。
     だが、マイキーが腕をつかんでどかそうとしていると気づいて全力で抵抗する。
    「……いい度胸じゃん」
    「ぴぇっ」
     ばり、と音を立てんばかりに力いっぱい引きはがされた。
     所詮、武道の力は雑魚レベルなので、本気を出したマイキーにかなうはずがない。開けた視界の先には青筋を立てて笑顔を浮かべる懐かしの総長さまがいた。ガチギレであった。
     そのまま縫い留めるように両手とも恋人つなぎをされてベッドに押し付けられた。
    (に、逃げ場がない)
     罪悪感と居たたまれなさで浮かび上がる涙で潤んだ双眸は、シャンデリアの光を浴びてキラキラと宝石のように輝いていた。
     八の字に歪んだ眉と上気した頬も相まって、ひどく煽情的なありさまだったが、武道は気づいていなかった。
     マイキーは腕の中に閉じ込めた武道の額に、己のそれをこつんと合わせる。
    「ねぇ、なんでそんなに顔赤いの?」
    「う゛っ」
    「オレ、そういう意味でとるよ?」
    (……どういう意味ですか?)
     距離が近い距離が近い距離が近い、と念仏のように繰り返していた武道は、マイキーの言葉の意味が本気でわからなかった。
     だんだんと近づいてくるマイキーにこのままではゼロ距離になってしまうと懸命に身を引くが、残念なことに後ろはベッドであるし両手は拘束されていてピクリとも動かない。
     ついに、マイキーの形の良い薄い唇が武道のそれに触れた瞬間、武道は声にならない悲鳴を上げて―――己の全力でマイキーの腹を蹴飛ばした。



     それは、火事場の馬鹿力というやつだった。



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