「今日って、キスの日なんだって！」

　いつものように遅めの朝に僕を起こしにきてくれたクロエは、賢者様からなにか良いことをきいたらしい。だいぶあたたかくなっている陽の光を眺めていたら、窓枠に仲良しの小鳥たちがやってきてこちらもまた可愛らしく挨拶をしてくれる。
　クロエはてき、ぱき、と僕の身支度をしながら、でもさあ、となにか良い話の続きをする。うん、とあいづちを打ちながら、その忙しそうな手を両手で包んで一度とじこめてしまう。そうするとクロエは炭酸水が弾けるみたいにしゅわ、と赤くなり、諦めたようにもう、と呟いてから僕にそっとキスをする。

「おはよう、ラスティカ」
「おはよう、クロエ」
「ほらあ、キスの日って言ってもいつもと何も変わらないよ」

　けれどこれがなくては僕の一日は始まらないので仕方がない。身支度の仕上げにハンドクリームとリップバームを塗り終えて、クロエに引っ張られて立ち上がる。小鳥にさよならと微笑むと、彼らもさよなら、と美しく羽をふるわせて飛び立っていく。

「あっ、じゃあ逆に――今日はキスをしない日にしよう！」
「それは良いね。さすがクロエ」

　腰を抱き寄せてくるりと一回転ののちキスをすると、またしゅわ、となったクロエが可愛らしくこちらを見つめてくる。

「あんた俺の話聞いてた！？」

　けれど、可愛らしいクロエにはキスをしないといけない決まりなので。

　そうしてはじまった一日は、驚きに満ちてとても愉快だった。ティータイムに淹れた紅茶とお茶菓子が踊りたくなるくらいに美味しくて、笑い合ううちにごく自然にキスをして、してしまってからふたり「あ！」と気がついてまた笑う。クロエがくしゃくしゃにしたデザイン画の余白に、この間一緒に観た戯曲のまねをしてラブレターを書いてお腹を抱えながら笑い合って自然にキスをして、また「あ！」と笑う。
　この「あ」があまりに多いのだ。僕たちにとって今日だけじゃなく毎日が特別なのだということは、星のように数えきれない幸せだから、それはとても素敵だと僕は思うよ。

「俺たちっておかしいね？」
「おかしくて面白くて楽しいね？」
「「キスしすぎ！」」