タイトル未定「多分アンタに何言われても止まれねぇから、そのつもりでいて」
三年ぶりに再会した元後輩の険しい顔に唖然とする。少なくとも、恋人に向ける視線じゃねぇだろ。どっちかっていうと、ぶちのめすって感じの目。バイオレンスには懲りている。コイツにしてみりゃ、オレが言うなって話かもしんねぇけどよ。
高校の二個下の後輩。クソ生意気でにくたらしくて無口で不愛想で生意気で、バスケ以外には見向きもしない。人生のすべてをバスケに捧げている、バスケの申し子。オレがかつて一度だけセックスをした相手。
アメリカ留学を終えて、流川が日本に一時帰国したのは大学二年の頃。オレが高三だった当時よりも十センチ近く身長を伸ばして、それでも、手持ち無沙汰に前髪を弄るあの癖は変わってなかった。
「好きっす、付き合ってほしーんすけど」
ぶっちゃけ、オレはアイツのことを好きでも何でもなかった、と思う。でも断られる可能性なんざ微塵も考えずに、真正面から堂々と突き進んでくるアイツのまっすぐさは気に入っていた。要は「断らねぇよな」って言外の声が聞こえるほどの圧に抗うことができなかった。一体、何なんだっつうんだろうな、アイツの目は。まさに蛇に睨まれた蛙状態。考えるより先に首を縦に動かしていた。まさか、そのまま押し倒されるとは思ってもみなかったけどよ。
流川楓という男に、そもそも性欲があったことさえ驚きだった。なにせバスケの神様の寵愛を受けているような奴だし。腹につくくらいにチンコをおっ勃ててるのを見て、むしろ感心しちまった。アメリカへ留学してデカくなったのはガタイだけじゃねぇってか。いや、アメリカ行く前がどうだったかなんて知らねぇけど。
結論だけを言うと、すげぇよかった。分かりきってはいたものの、アイツは童貞で、オレも男とは初めてで。色々と行き当たりばったりだったけど、すげぇよかった。ケツで感じるとか笑えねぇけど。身体の相性がいいって、こういうことを言うんだろうな。
とはいえ事前の準備も何もない、行き当たりばったりだ。結果、たった一回の挿入に三時間くらいかかっちまった。だから、あの夜の成果としては一発だけ。試合にフルで出た時ほどとは言わねぇけど、お互いに満身創痍。服やらシーツやらがカッピカピになった状態での目覚めは最悪だった。
こうして訳も分からないままに付き合うことになったが、流川とセックスをしたのはその時の一度限りだ。アイツはすぐにアメリカに戻っちまって、いわゆる遠距離恋愛。つうか、一度セックスしただけだし、恋人って実感もねぇけど。翌年の夏には一度帰って来る予定だったのに、サマーリーグなんかがあって帰国できず、かれこれ三年。メールや電話でそれなりに連絡はとっているが、それだけでは満たせないものもあるわけよ。
(もう三年になるってのに、たかだか一発ごときで)
アイツには悪いけど、浮気してやろうかなって思ったことはある。性欲なんて勝手に溜まっていくもんだし。二十代になったところで、まだまだお盛んな年ごろってやつ。せめて一人で抜こうって、お気に入りの女優が出てるAVを見てもイけねぇの、笑えるだろ。いちいち流川とのセックスを思い出しちまって、気持ちいいって感覚が途中で堰き止められちまう感じ。チンコを何度も扱いて無理矢理に意識を集中させて、ようやく射精できるレベル。得られるものは達成感だけで、全然スッキリしねぇ。まさかと思って後ろを弄ってみても、あの時のような気持ちよさは感じない。そもそも、あの晩はお互いに必死過ぎて、何が気持ちよかったのかは覚えていない。単に気持ちよかったという記憶だけが独り歩きして、勝手にハードルを上げているのかも。いっそ、そういう店の世話になろうかとも思ったが、そんな時に限ってアイツから連絡が来る。エスパーかよ、何か見えてんのか。
(アイツはどうせ、バスケのことしか考えてねぇんだろうな、相変わらず)
オレだって、バスケやってる時はバスケのことしか考えてねぇし、オフシーズンには仕事もある。でも、いわゆる三大欲求だし、自分じゃどうしようもない。ぶっちゃけ、それなりにムラムラしてる。発散できない熱が、腹の奥底で渦を巻いている感覚。オレはアイツほどストイックには生きられない。いや、あの晩はアイツもそれなりに興奮していたように見えたけど。気持ちよさそうにするアイツの顔は悪くなかったし。男のケツにチンコを突っ込んで、おキレイな顔を歪ませて。可哀そうな奴だよ、せっかくモテんのに。部活の元先輩なんかに欲情して、余裕のない顔で腰を振って。いや、駄目だ、あの夜のことを思い出すだけでチンコがイラつく。
一度セックスをしたところで、オレの中でアイツはバスケ馬鹿の童貞のまま。いや童貞はオレで捨てたんだったか。とにかく、流川は流川、オレはオレ。そもそも三年前のことなんて、アイツは覚えてすらいないかもしんねぇし。
『早くアンタのこと抱きたい』
三年前のあの時だって、アイツが性欲を自覚していたのかは分からない。経験したことのない行為に対する好奇心、って可能性は十二分にある。バスケより気持ちいいものってのは、やっぱりどうしても思いつかねぇし。
「は……え?」
でも実際には、アイツも人の子。お年頃ってやつらしかった。
『オレのねじ込んで、思い切り揺さぶってやりてぇ』
「いや、待て待て、落ち着けって」
『オレのだって自覚させてやりてぇ』
それが滲み出るようになったのは、渡米二年目のオフシーズン終盤あたり。試合終わりなのかって突っ込みたくなるくらいに余裕のない声で、頼んでもないのにアイツは繰り返した。野犬の唸り声かと錯覚するくらいには低く掠れた声を出すせいで、揶揄ってやることもできない。二年目までは割と大人しくしていたくせに。いや今にして思えば、片鱗はあったような気もするが。
とにかく、発禁モノの単語を惜しげもなく口にしやがるから気が気でない。つうか、コイツはどこで電話してんだよ、自分の部屋だろうな。しっかりと煽られちまったものの、受話器越しの声をオカズに一人で致すのも何かちげぇし。結局は平静を装いながら、受話器を握って蹲るだけだ。余裕のない声で電話がかかってくる度に、粘土みたいな焦燥感が蓄積していく。
(オナニーすら、経験あったか分かんねぇもんな)
刺激が強すぎたのかもしれない、と今になってみれば思う。だって、セックスってすげぇ気持ちいいし。あの一度限りがなけりゃ知らずにいられたのに、ご愁傷様。お互い様だから同情はしねぇけど。
(我慢する必要はねぇと思うけど。それこそ別に、他の相手を探したっていいくらいなのによ)
もっと身近で、手軽な相手。オレを相手に選んだ理由もよく分かんねぇし。思いの外マメに連絡は寄こすけど、他愛もない会話をするくらい。セフレとまでは言わねぇけど、アメリカで彼女の一人や二人、つくったって罰は当たんねぇのに。
(実際は分かんねぇけど。いつ我に返ってもおかしくねぇし)
アイツから電話があったのは一か月前のこと。今月末に帰国するからって、諸々の用事が済んだら二週間くらい泊めてほしいって。その連絡があってからは、ずっとソワソワして落ち着かない。まだその手の行為をすると決まったわけでもないのにコンドームまで用意して、取り出しやすい位置にローションとティッシュを配置して。即物的すぎて笑っちまう。流石に引かれちまうかも。でもよ、仕方ねぇだろ。普段はあんなにポヤポヤして可愛いのによ、セックスの最中はすげぇエロかった。当時、十八かそこらであの色気だ、否が応でも期待しちまう。対面で会うのも、アイツが成人を迎えてからは初めてだし。とはいえ雑誌やテレビではちょくちょく見かけるし、今のナリがどんなモンかは理解している。一発ヤっちまえば、案外拍子抜けするかも。むしろ、そうであってほしい。
スポンサーへの挨拶、実家への帰省、日本に滞在する間のトレーニングメニューの調整、諸々。それらを予定通りに済ませたと連絡があったのが昨日の夜。居候させてやるにあたってのセッティングだとかベッドメイキングだとか、ついでに後ろの準備とか、自分でも情けなくなるくらいには用意周到。いや、流石にいきなり、ってのは分かんねぇけど。流川も日本へ帰国してから、ほとんど休めていないだろうし。余裕がないと思われるのも不本意だ。久しぶりに会えるというのも、純粋に楽しみではある。アメリカでの話も色々聞きたいし。時間が許せば、久しぶりに1on1とか、すげぇ楽しそう。もうアイツにとっては、オレなんか相手にならねぇかもだけど。いや、オレだってそれなりに頑張ってるし、次の選抜候補にだって名前が挙がってる。アメリカで鍛え上げられたフィジカルにどこまで対抗できるかは分かんねぇけど、現役のプレイヤーとして負けられない部分はあるわけで。
「もしもし、どうした?」
なんて平静を装ったところで、根底にあるのは諸々の下心だ。風呂場で準備をしていた段階で、もうそれなりに盛り上がっちまってる。だから到着予定の時間にかかってきた電話には少し動揺した。
『先輩』
「どうした、都合悪くなったんかよ?」
『ちげぇ、もう家の前』
「はあ? なら、インターホン鳴らせばいいだろが。部屋番号、教えてたよな?」
最近手に入れたばかりの携帯電話を片手に玄関へ向かう。アイツがあまりにうるせぇから、安月給で無理して買った。ただでさえ国際電話は高いのによ。今は日本にいるから、別にいいけど。つうか、何でオレんちの前から電話かけてくんだよ。
『先、謝っとかねぇとって』
玄関のカギを開けようとした手が止まる。まだ閉じられたままの玄関扉の向こう側に、確かに気配がある。携帯の向こうから聞こえる声とわずかに重なる低い声。
「何をだよ」
『多分、アンタに何言われても止まれねぇから」
「は?」
『そのつもりで、ちゃんと覚悟できてから扉開けて』
この時点で、嫌な予感はしたんだ、確かによ。言葉の意図は理解できてなくとも、心臓の音が勝手にデカくなっていく。だからって、迎え入れてやらない選択肢なんてないわけだ。そのために色々と用意していたし、期待もしていた。むしろ責任を取らせようと思っていたくらいだった。扉をあけるまでは。
「お……あ?」
いらっしゃい、とか、おかえり、とか、最初に発するべき言葉としては色々あった。それでも、最初に出そうになった言葉は「ジョギングでもしてきたのか?」って、妙な突っ込み。だってすげぇ呼吸が浅いし、顔が険しい。三年前とは身体の厚みが違うせいか、圧迫感もすさまじい。いや、ジョギングっていうか、後半戦が始まる直前って感じもする。オレの知っている流川は割とスロースターターで、前半で過剰に圧縮させた熱を後半に爆発させる。今のコイツはどうだか知らねぇが、性質の悪さも嫌というほど理解している。こうなっちまうと、手がつけらんねぇってことも。
「バカヤロ、外から見えるだろが!」
「先輩、会いたかったす」
骨が軋むくらいに抱きしめられて、身体と一緒に心臓が縮こまった。オレだって学生時代に比べたら、ガタイはそれなりによくなったと思う。それが、こうもすっぽりと囲われるもんかよ。改めて海の向こうにいる猛者達と現役で競い合う流川楓という選手に思いを馳せる。こうしていると、ただの甘えたなのによ。
「なぁっ、先に、閉め……ん、ぐっ」
勢い任せに唇を塞がれて、体温が一気に上がっていく。三年ぶりだってのに、容赦ねぇ。いや、三年ぶりだから、なのか?強引に舌をねじ込まれて、危うく腰が砕けそうになった。まだマトモに会話すらしてねぇのによ。口づけというよりも食らいつかれたって感じ。荒っぽすぎて前歯がガチガチと音を立てる。勢いを逃がそうにも、後頭部に添えられた手に固定されてどうしようもない。相変わらず、無駄に力が強ぇんだよ。
「るか、っ、ん、む……ッ、流川、っ、落ち着けって!」
合間に聞こえる息遣いが、全力疾走後のそれだ。どう考えたって息苦しそうなのに、やめようとしねぇ。マジでどうなってんだよ、コイツは。
「んれっ、う……っ、るか、あ……って」
流し込まれた唾液が含み切れずに口端を伝う。どこでこんなヤラシイのを覚えてきやがったんだ、オレとヤるまでは童貞だったくせに。そもそも、まだ靴も脱いでねぇってのに。
(いや、先ずは扉、閉めねぇと)
誰かに見られたら恥ずかしいとか、そんな次元の話じゃねぇ。コイツは見た目が派手だから目立つし、襲われているのかと勘違いされたら面倒だし。いや、間違いなく襲われてんだけどよ。
「んんん、ぐ、っ、う……んん、っ」
駄目だ、マジで酸欠になってきやがった。太ももから膝のあたりがガクガクと震える。どうにか引きはがそうと服を引っ張ったところでビクともしない。何で出会い頭で、いきなり理性ぶっ飛ばしてんだよ、コイツは。
「え、れう、っ、ん……っ、も、まて……待てってぇっ!」
「ムリ、覚悟できてから扉開けてって言った」
「言葉足らずが、すぎんだって……っ、せめて、うおぁっ!?」
膝はガクガクだし、口の周りはベッタベタ。そんな状態でようやく解放されて、気付いた時には尻もちをついていた。何事もなかったかのように流川が後ろ手で玄関の扉を閉める。たしかに覚悟しろとは言われたが、流石に想定しきれねぇだろ。
「おまえ、なぁっ」
射抜くような視線が頭上から降り注ぐ。チェーン越しに状況を確認してから扉を開けるべきだった。
「先輩、これ」
「は……?」
腕に引っ掛けられたコンビニの袋に首を傾げる。軽く中を覗き込んで、すぐに視線を引いた。
(コイツ、マジかよ。身も蓋もねぇじゃねぇか)
ビニール袋に大量に詰め込まれたコンドームの箱に息を呑む。自分でコンビニへ行って買ってきたのか、とか、絶対に誰かに見られてんだろ、とか、この無駄におキレイな顔をした男が、とか。考えることは山ほどあれど、わざわざ買ってこなくても用意してやってたのに、なんてことは口が裂けても言えなかった。
「こんなに、どうすんだよ」
「足りねぇかも」
「足りねぇわけねぇだろ、バカか!何発ヤる気だよ!」
「明日、予定入ってねぇよな」
質問というよりは念押しだ。予定が入ってたって関係ねぇって感じ。相変わらず息が荒いし、目が完全に据わっている。やばい薬でもやってんじゃねぇの?って思うくらいにはガンギマリ。もう我慢できねぇんだって、言われなくとも分かるくらい。ホント、勘弁しろよ。
「え、あ……まぁ、お前がしばらくうちに泊まるっていうから」
「ちゃんと事前に許可取ったから、もう文句は受け付けねぇ」
「わぁったから、とりあえず、靴くらい脱げって」
興奮している割に、素直に言うことを聞いた流川を部屋の中へ招き入れる。こうして横並びになると、身長の差が明らかだ。やっぱり伸びたよな、最後に会った時から比べても。
(それよか、やっぱ身体の厚みが段違いっつうか)
以前から細身というわけではなかったが、同世代の選手の中では特別当たりが強いタイプでも無かった。どちらかといえば軽さもある感じ。でも今となっては、隣に立っているだけで圧を感じるくらい。重量級とまではいかないが、重心に重さがあるというか、密度が大きいというか。さっき抱きしめられた時も、簡単には逃げられない感じがした。こんなのにプレスされたら、たまったもんじゃねぇ。
「茶でも入れてやるから、ちょっと待ってろ」
とにかく今は気が高ぶっているようだし、少し落ち着かせねぇと。
「って、おい!邪魔すんじゃねぇ!」
「どこ行くんすか」
「どこって、だから、茶でも入れやるって」
「必要ねぇ」
「はあ?」
キッチンに向かおうとするなり腕を取られて、それをした犯人を睨みつける。人がせっかく労ってやろうと思ってんのによ。文句を言おうにも、にじみ出る焦燥感に気圧される。高校の頃より性質が悪くなってどうすんだよ。
「コッチすか」
「何がだよ」
「寝室」
吐き捨てられた台詞に背中が震える。ああ、マジなんだなって、今更のように考えちまった。
躊躇いも遠慮もなく勝手に扉を開けて、嗅覚で探り当てられた寝室に押し込まれる。他人の家だってのに、不躾がすぎるぜ。行動に迷いがなさ過ぎて、碌に抵抗も出来ない。抵抗する気があるかどうかは別問題だ。
「お前、さっきから、ちったぁ落ち着けって!」
勢い任せに押し倒されて、見慣れた天井を見上げる。軽く腕を押さえられているだけなのに、マジで動けねぇの。この、育ち盛りめ。今やパワーフォワードで入ってることもあるもんな、力量を発揮するのはコートの中だけにしてほしいもんだぜ。
「先輩、石鹸の匂いする」
すり寄るみたいにして、流川が首筋に顔を埋める。サラサラとしたクセのない髪がくすぐったい。仕草一つ一つはかわいいのに、やってることは全くかわいくねぇ。
「アンタも、期待してたんじゃねぇか」
「ちがっ、普通に風呂入っただけだっつうの!」
「こんな中途半端な時間に?」
焦げ付きそうな視線が刺さる。こんな昼下がりに元先輩を押し倒してる男の台詞か。
「ロードワークして、それで……って、おい!だから待てって!」
「待たねぇ」
文句は聞かねぇと言わんばかりに唇を塞がれて、んーんーと意味のない声が漏れる。玄関でされたみたいに荒っぽいだけのやつとは違う、でもすげぇネチっこいやつ。口ん中を全部暴かれるみたいな、縦横無尽。バスケのスキルは言われるまでもなく上達してんのに、キスはあんまりうまくなってねぇの。当たり前か、三年前のあの日で経験値もストップしているんだろうし。こんなに勇ましくても、オレしか知らねぇんだから。
(それがすげぇ、不思議なんだよな。ろくに会えてもなかったのに)
ルックスも実力もピカイチで、寄って来る奴は男も女も関係なく多い筈なのによ。それが玄関開けて一秒で盛る相手が部活の元先輩って、意味が分からない。告白をされた時にも、初めてセックスをした時にも考えまくったが、いまだに結論は出ていない。
「ちゃんと電話でも言った」
流川の手のひらが、下腹部のあたりを押し下げる。腹の奥に響く声と相まって、知らずに喉が動いていた。
「ここにオレのねじこんで、思い知らせてやるから、三年間分」
余裕のない面で何を偉そうに。そう思っても、身じろぐことさえできない。電話越しでさえそれなりのインパクトがあったのに、心臓が馬鹿みたいに跳ね回る。勝手ばかりをさせるのは気に食わねぇのに。
「アンタが誰のか」
それなのに、勝手に腰が揺れそうになる。三年も前のことなのに、当時のことが生々しく脳裏によみがえる。初めてで、勢い任せの下手くそで、すげぇ苦労して。でも、最後に残ったのは気持ちよさばかりだ。それが独り歩きしているせいで、まだ何も始まっていないのに息が上がる。ほしいって思っちまう。
ねじ込まれなくても、今更だっつうの。
「ちょっと前まで、っ、童貞だったくせしやがって」
「もう三年前の話」
「で?そこから、少しは成長したのかよ」
わざと煽るように笑う。笑わないとやってらんねぇ。やっぱりコイツと一度でもセックスをしたのは間違いだった。我慢させるべきだった。三年間も焦らされることになるなら、知らずにいられたままのほうがよかった。お互いに。知ってしまっているから、こんなにも我慢して我慢して、我慢できなくなった男が今目の前にいる。
「なめた口きけるのも今の内」
「コッチの台詞だわ……っ、あ、何っ」
「もうムリ、犯す」
膝裏を左右に押し広げられて、股間に流川の腰がピッタリとくっつく。まだズボンも下着も脱いでねぇのに、どんだけデカくしてるか明白だ。勘弁してくれ。流石に盛り過ぎなんだよ、人のことは言えねぇんだけどよ。
「……っ、う」
ぐっぐって硬いのを何度も押し付けられて、自然に声が漏れる。チンコがイラついて仕方がないのか、流川が小さく舌打ちをした。相変わらず、治安が悪くてよくねぇな。ゆさぶられる度にベッドが軋む。宣言通りにさっさとすりゃあいいのに、どうしてもオレの許可がほしいらしい。かわいい奴め。
「バカ、っ、まずは風呂入ってこい!話はそれからだ」
「む」
「お前が買ってきた大量のゴムの箱開けて、待っててやるから、な?」
流川が不服そうに眉根を寄せる。わざと腰を擦りつけて煽ってやれば、下着ごとズボンのゴム紐をずり下げて、本気で襲われかけた。