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    付き合ってないマイスターさんと美少女司令官

    「へぇ……そちらのチョコレートは誰に作っているんです?」
     覆い被さるように直ぐ真横に立った大きな体で天井の光源が遮られた。聞こえた声は部屋に満ちる甘く優しい香りに似ていたが、薄い影の中で光るバイザーの青はいつもと異なる冷たさを感じさせる。
    「羨ましいですね。あなたの心を射止め、あなたからの思いを受け取れる人間がいるとは」
    「どうした、マイスター。随分大袈裟な言い方だが、これはスパイクやカーリー達に渡す分だ。いつも世話になっているお礼に。君たちの分も用意してある。味はまだ保証できないが」
    「君たちの?」
    「エネルゴンにチョコレートを混ぜて香り付けをした。甘味も足してある。ラチェットに混ぜた物を食べても問題ないか確認を取った。おそらく大丈夫だと思うが……」
     四角く成形まで終えているエネルゴンの塊を指差しながらそう言うと、ようやくマイスターの強い視線が横に逸れた。可能な限り大きなサイズにするよう努力はしたが、どうしてもこの体では限界がある。
    「口に入れたら一瞬で無くなるとは思うが、皆喜んでくれるだろうか」
     エネルゴンを見つめていた視線がこちらに戻ってくる。驚かせないようにという気遣いなのだろう。ゆっくりと静かな動作でマイスターが片膝をついた。顔が一気に近くなる。
    「あなたから贈り物を貰って喜ばない者などおりませんよ。特別な気持ちがこもっているとなれば尚更」
    「そうか、君も楽しんでくれるといいのだが。この姿になってから迷惑や心配をかけてばかりだ」
     『君に気持ちが伝われば』とは言えなかった。長年戦場で生きてきた厳つい年上の上官に思いを告げられたところで困らせるだけであろう。しかしこの小さな人間の体であれば、感謝の気持ちと称して菓子を渡すくらいは許されるかもしれない。
     全員に平等に、全員に同じものを。ただ、マイスターに渡す時だけほんの少し気持ちを込める。それであれば迷惑をかけることもない。そう思ってチョコレートを作ることにしたのだが。
    「私だけに特別な菓子はいただけないのですか?」
    「特別……?すまないが、高純度のエネルゴンは用意できていなくてな」
     この男が仲間を差し置いてそんなものを欲しがるだろうかとは思ったが、他に特別という言葉に該当するものが見つからない。
    「全員に同じものを?誰にも、我々だけでなく人間にも特別な物は用意していない?」
    「ああ、全員同じものだが……」
     マイスターは感情が読み取れない不思議な笑みを浮かべた。
    「何かあったか?マイスター」
    「いいえ。実は私も司令官にお渡ししたいものがあるんですよ」
     近かった顔がさらに近づいて、秘密を囁くように小さく唇が動く。
    「そちらのチョコレートが作り終わったら、皆に配りに行くのでしょう?手が空いてからで大丈夫です。遅い時間でも問題ありませんので、後で部屋にいらしてくださいね。私は、受け取るのは一番最後で結構ですから。できればこの甘い香りを纏ったままで」
     マイスターはこちらを見つめたままゆっくりと立ち上がり、「ではまた後ほど」と言葉を残して部屋から出ていった。配る順番など特に考えていなかった。マイスターの部屋に行くのは一番最後、とブレインにメモしておく。
     渡したいものとは何なのだろう。チョコレートだろうか。いや、まさか私にそんなものを用意するはずがない。きっと決裁が必要な書類が溜まっているのだろう。
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