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    umei3588

    @umei3588

    らくがきとSSと、時々小説の創作アイデア元ネタコラム(予定)。
    SSは今後発表していく小説の土台に使うことも多いです。

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    umei3588

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    4月中に終わらなかったゼスティヴァルの冒頭部分です。
    🐣ヴァレンティノくんが芋虫です。
    🐣現時点でのゼスティアル氏、本編とちょっとキャラが違います。
    🐣蜘蛛の子がチョロチョロしてる描写があります。
    🐣めちゃくちゃ捏造設定が多いです。

    ゼスティヴァルの冒頭のみ「吾子(あこ)よ、蜘蛛の子を虐めるでない」
     本来であれば被捕食者であるはずの小さな芋虫が、捕食者たる蜘蛛の子の尻に噛み付いている。指先で割って入って蜘蛛の子を解放させ、芋虫を掌に載せると、背を精一杯伸ばし牙を剥いて威嚇してきた。その牙の間には、どの子の一部であったかもう分からない、千切れた脚が挟まっている。
     ……これは良くない兆候だな。このままでは将来、蜘蛛の子を虐めるのが癖になってしまうのではないか。それは、あまり良くない気がする。なぜかは私の知ったことではないが。


    ビューティフル・ネーム


    1

     蘇生するように目を覚ます。つい先程まで、自我は意識の底に沈み、己の身体と空気の境さえ曖昧になっていた。沼に沈澱した泥のようにもたりと崩れていた魂が、鋳型に流し込まれ元の形を取り戻す。
     目が覚めてしまったことに惝怳(しょうきょう)しつつ数度の瞬きをする。数百年にわたり棲家にしている古城の、生前の妻より長い年月連れ添っている寝台の上。私は嘆息を繰り返すような渋い呼吸を数度繰り返した。
     そのうちに、私が覚醒したことに気付いた数十の蜘蛛の子らが、若い草葉を控えめに揺らすような可愛げのある足音を立てて集まって来た。こちらが問うまでも、魔力で撫でてやるまでもなく、彼らは口々に私の眠っていた間の出来事を足音に紛れて話し出す。
    「ふむ、ふむ……よかろう、わかった」
     健気な彼らにはかたじけないと思いつつ、私は適当に返事をした。蜘蛛の子らはこの階層中に散らばり網を張っている。その文字通りの情報網が集約されるのは、この私の掌中だ。だが、最近はいかんせん何を聞いても私自身の心の網にも記憶の網にも引っかかることなく、蜘蛛の子らの噂話はただの音として消えていく。何を聞かされても、いつかどこかで聞いたようなことばかりだった。
     長生きの弊害か、この頃は蜘蛛の子らが話しているのが百年前の昔話なのか、昨日の出来事なのかすら判断できなくなっている。それほどに、退屈なのだ。
     油断すると子守唄代わりにしてしまいそうな噂話の中で、最低限必要そうな情報のみ、かろうじて拾い上げた。今日のところは、二つだけ。
     一つ目に、私は六日ぶりに目を覚ましたということ。二つ目に、私の眠りを妨げた原因は、私の棲家であるこの古城のすぐ近くに落ちている、ということ。
    「そう怖がるでない。どれ、私が見てこようではないか」
     恐ろしい何かの気配に怯えて私に縋る蜘蛛の子らを宥めてやりながら、仕方なく身を起こした。身体中の節が、数日ぶりの動作に軋みを上げる。本心としては、今すぐ二度寝してしまいたかった。

     無骨な岩肌の山々に囲まれたペンダゴンシティの外れに、他の場所とは一線を画す豊かな森がある。それがこの私――ゼスティアルの縄張りの中でも象徴的な区域と言える。
     この地は数百年に渡り私が手にかけた数多の死体や臓物、血肉を吸い、分解し、次第に肥沃な土壌となった。
     地獄に落ちたばかりの私は、若気の至りで最初の百年ほどは殺戮と暴虐の限りを尽くした。そのうち私の名がこの階層中に知れ渡るようになると、自然と悪魔たちは私を畏れ、距離を置くことを覚えた。そのおかげで、この地でわざわざ大虐殺を起こす回数も減り、この土地において大量の死骸の腐臭も土中に分解され霧散するには十分な時間を得た。その結果、此処は地獄の中であることを忘れてしまうような鬱蒼とした美しい森になったのだ。
     街の喧騒から離れ、静寂と小さな生命の息遣いに満ちたこの場所を私は気に入っている。だからこそ、よくわかる。今、この森の全てが己の身の内に突如堕ちてきた脅威に震え上がっていると。
     古城を出て暫く、重い足取りで、木々の合間を縫うように歩く。この数年あまり、退屈を持て余し惰眠を貪るばかりの日々を過ごしてきた。今では上級悪魔としての役割を果たさねばならぬ時以外、滅多に外出することもない。故に、街に向かう以外の目的でこの森に来るのは実に久しぶりのことだった。
     地獄の生ぬるい夜風に揺すられて微かに音を立てる木の葉。他所で抉り取ってきた何者かの目玉を樹上の巣に運ぶ親鳥。私の来訪に驚き茂みに隠れて震えている下級の悪魔の押し殺した息遣い。どれも悪くない。だが、地獄に似つかわしくない静謐(せいひつ)なこの空間ではもう匂うはずのない、わずかな腐臭がどこかから感じられたのが少し気になった。
     そのうち森の中央部の、ちょうど木々の重なりが途絶え、ぽっかりと空に穴が空いたように見える空間に辿り着く。一見何もない、小さな草原の広がる穏やかな景色が広がっていることにむしろ違和感を覚える。
     逡巡(しゅんじゅん)した後、誘われるように天を仰ぐ。真夜中の地獄の空に、血を丹念に塗り込めたような色をした月がよく映えている。しばらく空を見上げていると、鷹揚(おうよう)に月見をしている私を急かすように、古城から付いてきていた蜘蛛の子らが外套の袖を引いた。よほどの恐怖を感じているのだろう。
     私は小さくため息を吐いてから、ようやく月に照らされた草むらの中心にまで歩を進めた。急かされなくとも、そこに何かしらはあるのだろうと本能が察している。

    「ほう。……これはまた、」
     悪魔となって得た長駆では屈み込んで地面を見やらねばわからないほど小さなそれは、草葉の陰にすっかり隠れてしまうほどちっぽけなモノだった。
    「なんともまあ、無様だな。芋虫の悪魔とは」
     見たそのままの感想をつるりと零す。すると、言葉は理解ができるのか、ギチギチと不快を示すような鳴き声のようなものが聞こえた気がする。鳴き声というより、歯軋りだろうか? とはいえ、小さすぎるのでよくわからない。
     私の愛する森やそこに棲まうあらゆるものを怯えさせている、元凶であるその芋虫は、見たところ3インチ程度の大きさしかない。私の親指の半分もない大きさだ。全体的に薄紫の体色で、頭部の節の周囲だけふわふわとした白い毛に覆われている。黒い触覚を角のように立たせているのは、今できる精一杯の威嚇なのだろう。赤い目と牙を見せ、歯軋りとは別にプイプイと魔の抜けた警戒音まで鳴らす姿はなんとも貧弱でいじらしい。
     しかし、この芋虫の本来の姿はそんな可愛いものではないと私はわかっている。だからこそ、二度寝の誘惑をなんとか堪えてここまでやってきたのだ。

     上級悪魔を長年やっていると身につく感覚がある。地獄という環境への適性が高すぎる罪人――つまり、地獄堕ちが決まった段階で即上級悪魔に昇格できてしまえるようなポテンシャルをもった悪魔――が新しくやって来ると、自然と魂が反応するのだ。ちょうど、ほんの三十数年前にも似たことがあった。その時の悪魔は悪趣味にも上級悪魔を次々と屠る様子をラジオで放送するという異常さで、またたく間に地獄にその名を轟かせた。 
     この度は堕ちてきたのが私の縄張りの中だったので、一応の見定めのためにわざわざ足を運びはした。しかし予想を上回る面倒ごとの気配に、私は寝起きの頭が痛むのを感じる。
     通常、罪人として地獄に堕ちてきた元人間の悪魔の身体は不老不死なのだ。老いず、死なず。多少体質の変化を起こすことはあれど、本来は成長などしない。地獄に堕ちた時点で与えられた身体が基本となるのだ。
     では、目の前の芋虫も一生そのままかと言われると、そうではない。この芋虫の悪魔は、明らかに身体に細工をされている。
     その姿を見た瞬間。ここよりずっと高いところ……所謂「天国」と呼ばれる場所に住まう者からの、遠回しな意図と伝言のようなものを、私は確かに受け取ってしまったのだ。

     曰く、「賢明な判断をせよ」。

     この芋虫の悪魔が本来の姿を取り戻すまで成長すれば、確実に上級悪魔として頭角を現すだろう。そして、その後は? あのラジオの悪魔のように、地獄に混乱にもたらす存在になるのか。もしや、天国にまで牙を向くような存在になるのでは? この芋虫は、その素質が十分にあると判断されてしまったのだろう。
     いと高きところに住まう者どもは、大義名分を掲げたエクスターミネーション以外では地獄に極力関わろうとしない。その上、彼らは常に平等で正しくあらねばならない。いくら罪人の魂が強大な悪意と天国にとっての脅威に満ちていて、そのまま地獄に堕としては不安だからといって、魂をこっそり間引くような真似はそう簡単にできないのだ。

     ここからは私の想像だが、このような時、しばしば天国では「業務上の些細なミス」が起こるのだろう。
     例えば、エラ呼吸の機能しか持っていない悪魔をうっかり地獄の中でも岩肌剥き出しの山地の奥に堕としただの。本来成虫の状態で堕ちるはずの悪魔が、たまたま幼虫の身体に押し込められて堕とされたりだの。
     これらのミスが天国のどの立場の者によって引き起こされるのかは知った話ではない。どうせ昼食に何を食べたかという世間話と変わらない程度の報告だけが為され、それを誰も咎めないのだ。後に残る面倒ごとは全て、地獄の問題であって彼らには関係ないのだから。

     改めて芋虫の悪魔をよく観察する。見た目だけではなく、魂の状態も。
     滑稽な見てくれに押し込められているが、これほど地獄に馴染む魂というものも珍しく感じた。地獄の瘴気や、住人たちから漏れ出る負の感情に中てられた空気は、きっとこの芋虫の肌に合う。天国の者が今以上の細工をしなければ、半年もすれば呪縛――と言ったら天の者は嫌がるだろうが、実際そのようなものだから仕方ない――が解け、成長して本来の姿を取り戻すのであろう。それまでの間に、邪魔さえ入らなければ。
     さて、どうしたものかとしばらく腕を組んで考える。
     今すぐにでも踏み躙ってしまえばいい。そして、芋虫の身体が再生を繰り返すたびにまた何度でも踏み潰してしまうのだ。
     何十と同じ方法で蹂躙し続ければ、いくら素質のある魂といえどそのうち芯が折れて使い物にならなくなるだろう。そうなってしまえばこの芋虫は、捨て置いたところで地獄にも天国にも何ら影響を与えない、有象無象の悪魔と同い存在に成り下がる。
     このプランなら、週に一度ほど起きる生活を長くとも数年続ける程度で、私の安らかな眠りの日々は続く。うむ、その程度なら悪くない。
     いや、いっそのこと、召使に全てやらせてもいい。いくら潜在能力を秘めていたとて、今は所詮非力な芋虫なのだから。私の出る幕でもないだろう。
    『お膳立てはしてやったから、お前たちの為にもこのモノは確実に仕留めておけ』
     ――これこそ天から望まれた「賢明な判断」の中身である。
     天国の者たちも、全てを見越した上で私の縄張りにこの芋虫を堕としたのだろう。上級悪魔同士は他者の縄張りでの魂絡みの厄介ごとには干渉しないという、暗黙のルールがある。

     そうと決まれば、さっさと済ませてまた寝てしまおうではないか。そう判断し、私は芋虫を踏み潰すために一歩歩み寄った。だが、緩慢に片足を持ち上げようとしたところで、小さいながらも目を惹く赤い双眸と目が合った気がした。
     私のやろうとしていることに勘付いているだろうに、惨めに逃げ惑うでもなく正面から迎え撃つように威嚇を続けるその姿勢は好ましく思えた。……ここでふと、止せばいいものを、余計な疑問が湧いてしまったのだ。
     ――そういえば、この芋虫は本来、どんな姿でこの地獄に降り立つ予定だったのだろう。
     幼虫としての形からして、蝶か蛾のあたりだろうか。久しく眠ることだけ考えていた曇った脳内に、薄紫色の芋虫の色彩は思いの外鮮烈な印象を与えた。何かに興味を持つことなど、いつぶりだろうか。
     天国も警戒するほど「悪魔として相応しい悪魔」の真の姿。それが世に出るかどうかは、私次第なのだ。そう思い至ると、このまま思考を放棄した愚者のように天国の意向にのみ従うことが、非常に馬鹿らしく感じられた。
     久々に血が身体を巡る感覚がして、気分が高揚していく。
    「……そうだな。殺すだけなら、いつでも出来るではないか」
     思わず声に出していた。そう。暴力と業にまみれたこの地獄で、私ほど長く上級悪魔としての地位を保っているものはほとんどいない。この芋虫がいくら素質のある者だろうと、新参者の若造に私が遅れをとることなどあり得ないだろう。
     このまま捨て置いて、成長しきる前に獣や他の悪魔に殺されては勿体無い。暫く手元に置いて、真の姿を一目見てやってから、必要ならこの手で始末してしまえば良いだろう。
     永遠に続く、魂の牢獄たる地獄の暮らしの中で、これはほどよい暇つぶしになるはずだ。
     頭の片隅で、天国のことがチラリと浮かんだが、所詮向こうもこちらの行動を制御できるわけでもないのだ。叛意を向ける気もないが、何もかもあちらの思惑に合わせてやる理由もない。少なくとも、今はそう思うことにした。

    「気が変わった。そなたを生かしてやろう。……こちらへ」
     踏み潰すことをやめ、かがみ込む。この私が、地に膝をつけて芋虫ごときに手を差し出す日が来ようとは。自分の行動に新鮮な驚きを感じつつ相手の反応を待つ。
     芋虫は突然のこちらの態度の変化に怪しむそぶりを見せた。が、次第に心を開き、素直に私の指先に擦り寄って……くるはずもなく。
     ギチリ、という小癪な音を立てて、芋虫にしては立派に生え揃っている全ての歯を私の指先に突き立てた。
    「……ほう。良い度胸をしておるな」
    「?! プイ!プキュッ!」
     元気があってよろしい。だが、躾は初めが肝心であろう? 
     噛まれた指先から糸を出し、とりあえず芋虫の身体を縛り上げ、蓑虫(みのむし)のように指先からぶら下げてやった。ギイギイと不満げに鳴く声と、プイプイと甲高く鳴る警告音は合わさると実にうるさく、不快な組み合わせだった。だが、どこか心が踊る心地もした。
     心踊るついでに、指先をクルクルと回して遊んでやるとよりやかましく、甲高い声で鳴いた。打てば響く。これはなかなか、良い玩具を手に入れたかもしれない。
     一部始終を見ていた蜘蛛の子らが、不安そうな足取りでそろそろと私の後ろをついてくる。その健気で慎ましく、可愛らしい足音を聞きながら、私は来た時よりだいぶ軽い足取りで古城へと戻るべく歩き出した。
     
    (続)
     
    ****

    ……という感じで始まるゼスティヴァルです。
    しばらく発語できないのをいいことに、ヴァレンティノくんが生前の自我を保ったまま芋虫生活を強いられたり、蛹になったり、羽化したり。
    ハズビン本編よりだいぶテンションが低いゼスティアルさんが、ヴァレンシアティノくんを虐めたり育児したりすることでちょっとイキイキしたり。
    (オリジナル含む)他の上級悪魔たちと⚪︎⚪︎⚪︎の⚪︎⚪︎⚪︎を巡ってバチバチしたり。
    くっついたりいちゃついたりは一切ないので糖度は全くないですが、「これはゼスティヴァルだったな」と思ってもらえるようなラストにしたいと思っています。
    当初の想定よりとんでもなく長くなりそうなのですが、完成の際はもしよかったらお付き合いいただければ幸いです。(4万字くらい……?)
    近々全文公開できるように今頑張ってます!
    うめい 拝

    ※この小説のアイデアはトンボさん(Xのアカウント→@tonboiii)
    さんの素晴らしいポストからお借りいたしました。大感謝です。
    → https://x.com/tonboiii/status/1777360680892662026s=46&t=6rZ9XEcIuZkgaGaZ9YHXng

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