ゼスティヴァルの冒頭のみ「吾子(あこ)よ、蜘蛛の子を虐めるでない」
本来であれば被捕食者であるはずの小さな芋虫が、捕食者たる蜘蛛の子の尻に噛み付いている。指先で割って入って蜘蛛の子を解放させ、芋虫を掌に載せると、背を精一杯伸ばし牙を剥いて威嚇してきた。その牙の間には、どの子の一部であったかもう分からない、千切れた脚が挟まっている。
……これは良くない兆候だな。このままでは将来、蜘蛛の子を虐めるのが癖になってしまうのではないか。それは、あまり良くない気がする。なぜかは私の知ったことではないが。
ビューティフル・ネーム
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蘇生するように目を覚ます。つい先程まで、自我は意識の底に沈み、己の身体と空気の境さえ曖昧になっていた。沼に沈澱した泥のようにもたりと崩れていた魂が、鋳型に流し込まれ元の形を取り戻す。
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