白昼夢トラウマ魔法 あんこ編
世の中には精神を汚染する魔法が存在する。
トラウマを呼び起こし、動きを止めたり、精神にダメージを与え、悪夢を見せ続けるような、そんな魔法が。
そう、授業で習いました。
『とらうま』というものが一体何を指すものなのか、童にはわかりませんでしたが。
過去に起こった恐怖。思い出したくない感情。暴力、孤独、絶望、色んなものを呼び起こすもの。
…童には『それら』がわかりません。
お人形ゆえ。
なので、童には関係のない話なのだと、どこかそう思っていました。
術をかけられるまでは。
周りの方々も『苦しんでいる』のはわかります。そういう表情をしています。
泣いてる方もいます。
虚空へ攻撃する方もいます。
何かに怯えるように、逃げようとする方もいます。
童は人を幸せにするためにいるのに、こういう時はどうしたらいいのかわかりません。
動けるのは童ゆえ、どうにかしないといけませんが、
ォーーーン……
「?」
こぉーん、おぉーん、
童の核が、振動…?しているのがなんとなくわかります。なにかの反応を示しているかのような。
人の…子供の声…?泣き声のようなものが、聞こえ…いえ、響いてくる、感じがします。童の中から?
この耳は飾りです、音は童の『核』が拾うものです。
それでも声が聞こえます。
この目は魔石です、あくまで風景を映すだけのものです。
それでも脳裏に見覚えのない景色が見えてきます。
この心臓は、特殊な石です、人のように血液も流れていなければ、脈動もしません。
それでも震えているのを感じます。
今いる人とは違う声が聞こえてきます。
今いる場所とは違う景色が見えています。
感触を知らぬ手が胸の奥を温かいと感じます。
これは、この現象はなんでしょう?
童はこの場所を知らないはずなのに見覚えがあります。
白い部屋?あそこに立っているのは、ご主人?
童の知るご主人の姿とは、少し違う…気がしますが。
………手が、人のもの。
着ている服も違うもの。
童ではない誰かの記憶を見せられている…のでしょうか?
童はお人形、生まれた時からお人形でした。
この記憶は誰かに見せられているもの?
童の核に干渉してくるもの?
童にはまだ理解ができません。
人の言う『夢』とはこういうものを言うのでしょうか。
一種の幻覚魔法、にかけられているのかもしれません。精神汚染魔法が童に効かないから。
思った通りに動けません。
じわじわと胸の奥から『怖い』と聞こえてきます。
……何が…何に?童が…?いや童ではないこの誰かが、
チカチカと視界が眩しくなります。
目の前がだんだん真っ白になっていきます。
脳が焼かれるほど眩しい。
目を、開けていられない…
気がつくと、学園にいました。
どうやら精神汚染魔法をかけていた者を捕え、先生方が生徒にかかった魔法を解除して回っているようでした。
童もかかっていたのか、動かなかったのだとか。仕方なく数人に声をかけて運んできたと。
「…精神汚染かはわかりませんが」
「なんだか不思議な夢を見たような気がします」
あれは一体何だったのでしょう。
あの時感じた胸の奥の熱はもう感じませんでしたが、そっと核のある場所を撫でてみました。