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    鶫雨音

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    鶫雨音

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    ウェディングごっこをするフロカリ。

    #フロカリ
    floccarii
    #凍った涙が溶けるまで
    tillTheFrozenTearsMelt

    予行練習(仮) 休日の朝から、フロイドは珍しくNRCの麓の街に訪れていた。モストロ・ラウンジで必要な材料をサムの店で買おうとしたところ、珍しく品切れしていたため、わざわざ街まで足を伸ばしたのだ。
     NRCから麓の街までは遠く、どれだけ途中で他のオクタヴィネル生に買い物を押しつけようかと思ったことか。運悪くNRCを出るまでにオクタヴィネル生と出会わなかったため仕方なく己の足でここまでやって来たのだ。
     陸生活を始めて二年は経つが、それでもNRCから街まで歩くのは非常に退屈だった。アズールにひどく言い聞かせられてなかったら途中で帰っていたところだ。
     街にある店をいくつか回ってようやく材料を買い集めたフロイドは疲れた足を今度はNRCへと向ける。行きは長い下り坂だったのが、帰りは長い上り坂になるのかと思うとそれだけで疲れる気がした。
     どこかで休んでから帰ろうかと辺りを見回したとき、教会が目に入った。教会の扉は開いていて、中が窺える。
     厳かな雰囲気の中、白のタキシードを着た男とシンプルだが美しいドレスを着た女が牧師の前で神に誓う。それは所謂、結婚式だった。
     フロイドはその神聖な儀式を、なんとはなしに眺め続けていると、花婿が花嫁のべールを上げ、そっと口付ける――ところまでは見届けず。休む気分じゃなくなったフロイドはさっさと帰ることにした。それよりもやりたいことができたのだ。
     長い足を存分に活かして坂道を上る。足がだるいし重たくなる。やっと門が見えてきた頃には足が棒になりそうだった。
     早く部屋に帰って眠りたい。そんな思いを抑えて鏡舎にやって来たところで、目的の人物が目に入った。
    「ラッコちゃん!」
    「お、フロイド! ちょうど良かった!」
     ラッコちゃんと呼ばれて振り向いたのはフロイドが愛して止まない恋人、カリム・アルアジームだ。カリムの両腕は真っ白な布の塊を持って、なぜかオクタヴィネル寮への鏡の前に立っていた。まさにこれから鏡に入ろうとしていたようである。
     オクタヴィネルに何か用でもあるのかと首を傾げつつ近づくと、白い布の塊を見せてくれた。よく見るとそれは薄い網状の布で、端には綺麗なレースが刺繍されている。チュールレースと呼ばれるものだ。
    「これ、宝物庫で見つけてさ。アズールにモストロ・ラウンジとかで使えるんじゃないかと思って持ってきたんだ」
    「ふぅん……」
     少し広げて見せてくれたチュールレースは流石、カリムの宝物庫にあったものらしく、麓の街で見た花嫁が着けていたべールよりもずっと豪奢なものだった。
     カリムこそちょうど良いもの持ってるではないかと思ったフロイドは、フロイド達の近くを通った、買い出しに行くときには全く見かけなかったオクタヴィネル生の首根っこを捕まえ、フロイドの手に持っていた荷物を押しつける。
    「えっ、ふ、フロイドさん?」
    「これ、モストロ・ラウンジまで持ってっといて」
     突然荷物を押しつけられたオクタヴィネル生は困惑しながらフロイドの名を呼ぶ。フロイドはそれに短く返事をするだけで、開いた手で今度はカリムを抱きかかえた。
    「っ!? なんだ、どうしたんだ、フロイド」
    「んー? ラッコちゃん、これからオレと遊びに行こー?」
    「それは良いけど……このレースをアズールに渡してからじゃ駄目か?」
    「だぁめ、それ使うから」
     にんまり笑うフロイドは、さっさと裏庭へと向かう。棒のようになったと思っていた足はいつの間にか回復していて、その足取りは軽い。抱え上げられたカリムは頭上に疑問符を浮かべたような表情をしながら、上機嫌なフロイドにされるがままになるしかない。
     ようやく着いた裏庭で、やっとカリムは降ろされる。人気が全くないそこで何をするんだとキョロキョロと辺りを見回すカリム。小動物のような動きにフロイドはまたにんまりと笑ってしまう。
    「ラッコちゃん、そのレース貸して?」
    「? おう、いいぞ」
     これで遊ぶのか? とカリムはフロイドにチュールレースを渡す。受け取ったフロイドは、適当に畳まれていたそれを広げて、カリムの頭に被せた。それはまるで、麓の街で見た花嫁のベールのようにカリムを包んだ。
    「わっ」
    「オレねぇ、朝からアズールの命令で麓の街まで買い出しに行ってたんだよぉ。ウミウマくんとこで品切れしてたせいで」
    「そうなのか? 麓の街って遠いだろ。それなのに偉いなフロイド!」
    「もっと褒めてぇ」
     レースを被ったまま、フロイドを褒めようと手を伸ばしてくるカリムに合わせるように屈んで、頭を撫でてもらう。ある程度撫でてもらったところで、「でさ」と本題に入る。
    「麓の街で結婚式やってたんだよねぇ。たまたま見かけてさぁ」
    「結婚式か! それはめでたいな!」
    「他人の結婚式とか興味ねぇし途中で見んのやめて帰ってきたんだけど、良いこと思いついてさぁ」
     良いこと? 首を傾げるカリムにフロイドは「そうそう」と頷く。
    「結婚しようよ、ラッコちゃん」
    「結婚」
    「そう、結婚。なに、オレと結婚すんのいや?」
     ぽかんとフロイドを見つめていたカリムは、フロイドの言葉を数秒掛けて理解し、そして考え込む。そんなカリムの姿に、フロイドは少しむっとする。
     そこは即答で結婚したい、でしょ。そう言いたげに、レース越しにカリムの頬をつつく。するとカリムは少し困った顔をして、
    「うーん、持参品はまだ用意してないぞ」
     などと言った。どうやらフロイドとの結婚が嫌なわけではなく、準備ができていないから考え込んだようだった。フロイドは、あは、と楽しげに笑う。
    「まだ学生だから本物は無理だけどぉ、結婚式ごっこならいいでしょ」
    「結婚式ごっこ? それならいいぞ!」
    「やったぁ、やっぱラッコちゃんノリいいねぇ」
    「で、どっち式でやるんだ? 熱砂の国か? それとも珊瑚の海の結婚式か?」
     そう問うてくるカリムに、フロイドはハッとした。国が違えば結婚式の流れも違う。どっちにしようかと二人で悩んで、結局、フロイドが見たというこの地域の結婚式にしようということになった。カリムにレースを被せたのも、フロイドが見た結婚式を参考にしたものだったのだし。
     二人でマジカメを取り出し、ここで行われる結婚式がどう行われるのか調べた。
    「陸での結婚って指輪が必要なの? めんどいね」
    「海にはないのか?」
    「手びれがある人魚もいるからないね~」
    「それもそうか。それにしても地域によってこんなに変わるなんて面白いなぁ」
     カリムは楽しそうにマジカメの画面を覗き込む。相変わらずレースを被ったままだ。その姿は欲目だろうと街で見た花嫁以上に綺麗で、どこか儚さがあった。
     マジカメをしまうと薄いレースのベールに包まれたカリムの腰を、フロイドはそっと抱き寄せた。そしてお互い見つめ合う。
     ごっこ、なのに、なぜか緊張を覚えた。カリムの夕日よりも赤い瞳を見ると、柄にもなく心臓が高鳴った。
    「なんだっけぇ、えーっとぉ。フロイド・リーチは病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも、妻? 夫? であるカリム・アルアジームを愛し、敬い、慈しむことを誓います」
     途中で詰まりながらもマジカメで調べた誓いの言葉を言い切る。次はカリムの番だと見下ろすと、カリムは目を大きく見開いて頬を赤くしていた。随分と照れているようだ。とても可愛い表情だが、なぜだろうと首を傾げる。
    「ラッコちゃん?」
    「い、いや、うん。オレも、オレもフロイド・リーチのこと、愛し、敬い、慈しむことを誓います!」
     随分と飛ばされた誓いの言葉だったが、フロイドは嬉しくなった。腰から手を離し、カリムの顔を覆っていたレースを上げて、直接頬に触れる。誓いのキスのために。街で途中まで見たようにそっと、ただ触れるだけのキスをカリムの唇に落とす。
     ふに、と柔らかい感触。その感触が好きで、むにむにと唇で十分なほど楽しんでからようやく離れた。
     それにしても先ほどからカリムが照れ続けていることが気になる。唇を離れた後もレースの端を掴んでもじもじしている。
    「どしたの、ラッコちゃん」
    「ぅ……その、フロイドにカリムって呼ばれたのが、びっくりして」
     耳まで赤くしてもごもごと口籠もるカリムに、そういえば誓いの言葉で「カリム」と呼んだことに気付く。普段は「ラッコちゃん」としか呼んでいないからカリムは驚いてしまったのか。そう思うと、カリムが可愛くて仕方なくなる。
     耳元に口を寄せて、今度は意識して「カリム」と呼ぶ。するとますます顔が赤くなって、顔どころか耳まで赤くなった。
    「フロイド! からかってるんだろ! 分かってるんだからな!」
    「えぇ~、これくらいで照れちゃうラッコちゃん可愛いんだもぉん」
     真っ赤になって怒るカリムに、フロイドはにやにやと笑いながらいつから呼び方をカリムに変えようかと考えた。
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