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「ハワイでさ、ちょっと話したいことあるかもしれないんだけど」
「?今でもいいぞ?」
「まだナイショ。あっちで気分が乗ったら言う」
おう、待ってるぜ!────なんて、春日と趙がそんな会話をしたのはいつだったか、おそらくハワイ旅行についてみんなで横浜で計画していたときだ。仲間からあれやこれやと案が出る中、そっと春日だけに聞こえるように語り掛けてきたのをよく覚えている。その趙の、ふざけているわけでもない、いつもと違う眼差しと声色はとても印象的で、こんなこと忘れられるなんて出来るはずもない。
ハワイはとてもよい国だ。紫外線は強いが湿度は低めで過ごしやすいし、ご飯もまあ美味しいし、道ゆく人たちはみんなリゾートさながらの装いばかりで、現実へと醒めさせるような要素がない。街に流れる和やかな民謡も相まって、全体的に時間がゆったり動いているようだ。たまに空に虹が出て、虹を見られたらまた次もハワイに呼ばれる──という迷信もまるで御伽噺みたいで悪くない。すべての人々を平等に解放的な気分にさせる地ではないか。
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