その"なまえ"はーーー初恋だった。
無条件に僕を認めてくれる人がいるなんて。
でも男同士で、本当のこと言えるわけが無い。
ずっと抱えてきたこの想い、みんなにはお見通しで「相談しろ」って怒られた。
消灯後に抜け出して夜空を眺めながら苦しくて悲しくて辛くて、泣いた日もあったけど。
嬉しくても涙が出るんだって初めて知った。
ーーーーーー今日はレインくんの卒業式。
学校で会えるのはこれで最後。
レインくんは神覚者だから、今までよりも忙しくなる。
皆もそれでいいのかって心配してくれたけど、僕は決めたんだ。
僕の意志の強さに「もう、仕方ないな」と困ったように笑いながら協力してくれた。
最初で最後の恋文。
好きです。
これが今の僕に出来る精一杯の告白。
名前も無い。
ただ純粋な愛の言葉。
その一文にどれだけの想いが込められているかは、僕だけが知っている。
ーーーーーー人は誰しも魔力を持っていて、それは痕跡として残る。
しかしこの手紙には全くと言っていいほど魔力が感じられない。
名前を書いていない所を見る限り、よっぽど用心したのだろうと感嘆の息を漏らす。
だが、失せ物探しは出来るだろう。
小さく呪文を唱えるとふわりと蝶の形になって飛んでいく。
いつもなら面倒くさいと、煩わしいと思いながら手紙を飛ばして「すまない」と表面上の断りを入れるばかりだった。
だが、名前も魔力もないこの恋文が何となく気になったのだ。
誰のものなのか知りたくなった。
ただそれだけ。少しばかりの好奇心だったのに。
ひらり、ひらり。
優雅に揺蕩う蝶はふわり、と肩に止まった。
まさか、そんな事があるのか。
「マッシュ・バーンデッド…」
「え、レインくん?」
「あれ、兄様…?」
ドクン、ドクンと鳴り止まない鼓動に血が沸騰するような熱さを感じる。
緊張か、高揚か。
それはレインにしか分からない。
ゾクリ、と背筋を走る悪寒は間違っていないだろう。
目の前の男はギラリと眼を光らせる姿はまるで獲物を狙う鷲のようで。
寮のトップに相応しい雄々しさを掲げていた。
「…マッシュ・バーンデッド」
何かやらかしたのだろうか。レインくんの晴れ舞台の日にこんなに怒っているなんて。
「な、なななななんですか、レインくん…」
ブルブルブルと揺れる身体を摩りながらやっとの思いで尋ねることが出来た。
「…"コレ"の答え合わせを」
「」
ビュン
「……え、」
「ふ、ふふ、」
「マッシュくん、?兄…さ、ま……」
「あぁ、フィン…また後でな」
ボゥッと青い焔に包まれて消えた兄と、有り得ない速さで駆けて行った親友に、呆然とする。
追いかけっこは、始まったばかり。
2人の恋は…。
Continued…