甘い指「ん?なんか美味しそうな匂いがする」
一緒に歩いていたヒビキが、そう言ってふいに立ち止まった。
「んんー、何だろう。バター、砂糖、それとチョコが焦げた匂い……」
口の中でブツブツ言いながら、ヒビキはふらふら〜っと営舎の角に向かって漂ってゆく。
「おい。時間に遅れるぞ」
一応そう声をかけた。
怒られるのはしょっちゅうだし、始末書の書き方も慣れたものだが、守れるルールは守るべきだ。
始末書の事を考えた拍子に、ふと頭の隅に上官の顔が浮かんだが、すぐに意識して掻き消す。
「おいっ、ヒビ……」
関係ないような時にまで、その顔を思い出してしまった自分にイラッとして、ついそこにいる人間に当たってしまいそうになった時。
建物の角から背の高い人影が、ぬぅっと出てきた。
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