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突如としてそれは世界各地で発生した。
最初はニュースにも取り上げられないありふれた事件だった。
そんな事件だったため、事件同士を関連付けて考えるような者もおらず、いてもその手の情報に詳しい者が「最近この手の事件が増えている」と感じる程度で、大して重大なことが起きているとは誰しもが考えていなかった。
世界を震撼させることとなった、発端の事件は突然起こった。
ある町で、町中の人間が一人、また一人と昏睡状態に陥り、ついには全員が目覚めなくなったという事件だ。
町に人体に害を及ぼすようなガスが撒かれただとか、何らかが原因で汚染された水を住人が使ってしまっただとか、専門家も素人も大きな事件故に考えを巡らせ、推測や憶測を飛び交わさせた。
世間がそんな中、警察も事件解決に尽力したが、結局は主犯や原因のみならず、被害者達以外の関係者すらも一切分からない。不可解な未解決事件として時が過ぎた。
そんな事件に続くように、
とある廃屋へ肝試しに行った若者が帰ってこず、その若者達を探しに向かった捜査隊すらも一人も帰らない。
番組表の予定に無かったとある番組を見た人達が一斉に亡くなる。
そんな大規模な事件が続いた。
内容が内容なだけに、世界各国の霊能者が頼みの綱とされたこともあった。
しかし、彼らの祈りも空しく不可解な事件は増え続け……。
果てにはそういった事件のフリを騙り、人為的に起こされた事件までもが発生する事態になってしまった。
それらが国際的に大問題として取り扱われる頃、世間ではラテン語で脅威を意味する『メナス- menace -』という呼ばれ方が浸透していた。
メナスは各メディアにも浸透し、国の発表の場でも使われるようになった。
そして先進国を中心に、メナス専門の対策組織が設立されるようになった頃。
各国の偉い地位の人々が生中継を通して、ある発表を行った。
その映像を見た人々の率直な感想を語れば、まず第一に生中継の映像は異様なものだった。
各国、同じではなかったが、発表を行っている人物の横に明らかに人類の常識から外れた生物がさも当たり前のように傍らに待機しているのだ。
天使のように神々しいもの、見るに堪えない異形のもの、ファンタジー小説の中から飛び出して来たかのような空想の生き物のようなもの……。
姿形は様々であった。
そして各国の発表を要約すればこうだ。
「メナスに対抗するには、彼ら…即ちメナスと手を組むしかない」と。
これまでの不可解な未解決事件を引き起こしていたのは彼らだとも話していた。
現状、メナスの引き起こす事件に現在の人類の力と技術で対抗することは不可能だが、人類に協力の意思のあるメナスの力を借りれば脅威を排除できる可能性があるらしい。
現在協力関係を結んだとされるメナスの中には、過去に人間を襲ったことがある者もいるのだそう。
また協力の意思のあるメナスには各々に目的や利害があり、結果的に協力する意思を見せているというだけで協力関係が不要になれば、好きにさせてもらうと宣言している者もいる。
驚異的な力を持つメナスと手を組む……。
それは諸刃の剣とも呼べない程、人類にとって不利な結束であることは確かだろう。
しかし現状、人類に人類を守る術というものが無い中で唯一の救いの手となるのかもしれない。
映像を見た世界中の人々は、希望を、憎悪を、はたまた別の何かを胸中に抱きながら政府の話を聞いた。
『メナス』は人類の脅威を指す言葉として世界に広まってしまった。
そのため、政府は人類に協力の意思のあるメナスの呼び名を改めると宣言した。
『ゲニウス- genius -』……ラテン語で授ける、守護霊を意味するその言葉を、彼らに与えた。
ざっくりと説明すれば、これがここ十数年の間にこの世界で起きた出来事だ。
これから『日本メナス対策本部』に所属する隊員達には、改めて話す必要もない眠くなるような話だっただろう。
これまで、多くの隊員の尽力により解決事件は増え、未然に防げる事件も増えたが依然として危険な事件が起こっては人々が巻き込まれていることに変わりはない。
人類の人口と同じように増加してくれているゲニウス達の協力のおかげで、殉職する隊員が減ってきているものの……やはり、人手はいつも不足がちだ。
そういうわけで、新入隊員も、新入ゲニウスも、我々はいつでも歓迎している。
ようこそ、日本メナス対策本部へ!
まずは現場で、思う存分震えて、暴れてもらうとしようか!
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