背後から抱きしめた体。肩に口づけ、前に回した手で腹を撫で回す。緊張してるのか、体に力が入っているのが何だか可愛らしい。
「あの、デカラビア…」
「なんだ」
「いつまでこれをやるのかと思って」
首筋に顔を埋めれば、ぴくりと反応を見せた。胸筋の形をなぞるように触れ、弱い力で胸を揉む。むにむに、と張りのある肉の感触が心地よい。ぷっくりとたった突起にいつ触れようか、もう少し揉んでいたい気もする。
「んっ、なんなんだ…」
「お前の体に触れるのが好きなんだ」
ここまで許されるのは自分だけだから。ソロモンとだってこんなことにはならないだろう。
「…そうか、趣味がわるいね」
うなじや背中に吸い付き噛みついて痕を残す。白い肌に残った咬み傷が赤く映える。
「フォルネウス…」
「なに?」
「好きだ」
フォルネウスが口を開いて閉じて、また開いた。だが声を紡ぐのはまだ躊躇っている。散々に時間をかけてようやく言葉を紡いでいくが。
「…そう」
言葉にするのを止めた。何か言いたいことがありそうだったのに。途中で止まられると余計に気になる。
「お前は、俺をどう思ってる?」
「さぁ、どう思っているだろうね」
俯くと白いうなじが晒されて堪らない。噛み付くとぴくりと小さく肩が跳ねた。はぁ、と知らずに溢れた溜息がじっとりと熱気を孕んでいた。
「聞きたいんだ、どうしても。お前に好きだと言われたい」
前に言われたのはいつだっただろうか。なかなか愛情表現をしてくれない。そういうところが余計に執着を強くする。いつまで経っても手に入った気にさせないから、焦がれるばかりで。
「そんな胸揉みながら言われてもな」
「いいだろ。意外とでかくていい」
「女の子のとこにでもいったらどうだ?」
「なんだ、ヤキモチか?」
「そう思っていたいんだろう」
ばっさりと切り捨てる言葉に気分が下がる。望む言葉がわかるくせに、本当におとなげない。こういう男を好きになったのは自分とはいえ、苦々しい。仕返しにうなじに噛みついた。
「……」
「やれやれ、面倒な子だね。嫌いだったらこんなことしないだろう」
「フォルネウス」
振り向いて唇を塞ぐ、そのまま押し倒されれば背中にベッドの柔らかさを感じる。沈みこんで、スプリングが軋む嫌な音に顔を顰めた。
「…またそうやって」
「誤魔化されてくれるだろう?」
「ずるいやつ」
「嫌いになった?」
嫌われる想像など1ミリもしてない声で、揶揄うように言うのだから意地が悪い。だが俺だって、フォルネウスを嫌う自分を、愛想をつかした姿を、少しも想像できない。これから先も死ぬまでこの男に焦がれたままで、月に手を伸ばすような恋をするのに。
「…嫌いになれたら、楽だっただろうな」
絞り出した声にフォルネウスが笑う。
「可愛いひとだな、キミは」
くすくすと小さな笑い声の振動が肌から伝わる。
「笑い事じゃない」
「可愛いって言ってるのに」
「馬鹿にしているんだろう」
「まさか」
目を細める。感情が読めない、俺をどう見ているんだろうか。
「キミがそうやって、ボクのせいでおかしくなってるのが好きなんだよ」
言葉を失う。自分が今どういう感情なのかもよくわからない。
「デカラビア」
縫い止めるように指を絡める。フォルネウスの体温に目を細めた。手の大きさは結構違うんだなとか、指先は冷たい、なんてどうでもいいことばかり頭を支配する。
「きらいじゃないんだ」
「は、っ?」
フォルネウスが身を屈める。その整った顔が近づいてくる。唇が触れる一瞬だけためらってから、押し付けられた柔らかなそれ。
「そばにいればいい、これから先も、ずっと、飽きるまでは」
飽きるまで、はどちらのことか。
体を起こそうとするフォルネウスを引き留め、そのまま引き倒して上下を入れ替えた。
「わっ」
あっけに取られたブルーが瞬いた。縛り付けるように手首をシーツに縫い留めた。
「好きだ」
何度繰り返したかもわからない言葉を、飽きもせずにまた呟いた。
「お前が、」
祈るように首筋に顔を埋め、額をすり寄せる。猫が甘えるような仕草にフォルネウスが笑い声を上げた。
「フォルネウスが好きなんだ」
「うん、あぁ…うん、知ってるよ」
「フォルネウス」
ぎゅっと握り返す手に胸が熱くなる。
「すき」
息を呑む。柔らかな声に、顔を上げた。
「言わせたかったんだろう?」