同病相憐れむ「〜〜!! 今日の式、メッチャよかったやんなあ〜〜!!」
「もう百回は聞いたって」
そろそろ深夜と言っても差し支えない時刻だけど、繁華街は今がゴールデンタイムと言わんばかりに煌々と明るい。
勤め人、学生、キャッチに妖術師。様々な人々とすれ違う。素面もいれば、薊が半ば抱えるように肩を組んでいる友人のように泥酔している者もいる。
いつもならここまで酔うようなことはないが今日の友人、柴はタダ酒だからもいつもよりハイペースでグラスを空けていた。
「チヒロくんも大人なってなぁ〜〜!! ほんま、チヒロくんも結婚するようなトシになったんよなぁ……」
「そうだねぇ。チヒロ君も二十歳を過ぎたんだ、好きな人がもできれば結婚だってするさ」
今日は彼らの友人、六平国重の子である千鉱の結婚式だった。生まれた時からずっと見守ってきた子供。ついこの間まで父親の後をついて回っていたように思っていたのに、気づけば成人していただけでなく結婚までしてしまったのだから時の流れはあまりに早かった。
「チヒロくん、ほんまカッコようなって……」
「そうだね。六平より断然かっこよかった」
「せやな……六平もカッコよかったもんなあ」
「それ、六平の結婚式でも言ってたよ」
「そうやっけぇ?」
もう聞き飽きたセリフが終わるにつれて歪んでいく。またか、と呆れてしまうがその度に相槌を打って慰めてやるのは薊の甘さだった。
柴はバレていないつもりだろうが彼が国重、そしてその子である千鉱にも恋をしていたことを薊は知っている。
国重の結婚式の帰りも、今日のように酔っ払いながらずっといい式だった、六平がカッコよかったと繰り返していた。
それに同意しながら共に夜道を歩いて帰り、翌朝には二日酔いで立ち上がれなくなった柴にインスタントのしじみの味噌汁を作ってやったのも薊だ。
「六平もチヒロ君も、ほんっっっまにええオトコやからツレはようわかっとるわあ……」
「そうだねえ」
恋心を持ちながら気持ちを伝えて困らせることを嫌がり、それをお首にも出さずにただ最も近くにいる人間としての役割を果たした柴。
友達の、その子供の幸せを願って自分の気持ちに蓋をし続けた彼。
だが、その真意が気持ちを伝えて拒絶されることが耐えられないからであることも知っている。
友達でいようと断らられるだけならばまだいい。国重も千鉱も柴の気持ちに応えられなくても態度を変えたりしないだろうが、一方的に気まずくなり、疎遠となってしまうことが怖くてずっと言い出せなかった臆病者。
しかし自分も同じように気持ちを隠し続けているのだから、薊には柴を責めることも笑うこともできなかった。
二十数年前も今日も、感動しながらその奥で粉々に砕かれた気持ちに涙する柴に肩を貸している。
その口から相槌は出ても、僕にしておけよという言葉が出ることはない。
弱みにつけ込むようなことをしたくないというのはもちろんだが、それ以上に柴に気持ちが受け入れられないことの方が怖かった。
柴はまた情けない涙声でチヒロが幸せになるようにと繰り返している。
「似たもの同士だな、僕らは」
呟いた言葉は柴に届いておらず、柴の足取りは相変わらず危なっかしい。
「あざみぃ……」
「なに?」
「はきそう」
「」
口元を押さえて身を屈めた柴を人気のない方向に向けようと奮闘するも、薊の靴とズボンは犠牲になった。