アローンアゲイン、ワンダフルワールドああ、つまりそういうことかと理解した。
気づいたところでこの世界はバグだ。
そして俺はただの観測者だ。
#アローンアゲイン、ワンダフルワールド 0
目を覚ましたら俺は宇宙空間のようなところに居て、とりあえず驚いた。
最後の記憶はあの宇宙からの知的生命体と対峙・会話したところで(あれは類を見ないヴィランだった)俺は脱出しようとして結局失敗した。
そして『甘美な死』に誘われ、宇宙空間に漂っていた。生身で。
?
死後の世界か、と思ったがあのよくわからない生き物はもうどこにもいなくてなんだか体が半透明だ。肌を重ねてみてもするりと透けていく。
地上は、イサミが、みんなが戦闘中で、俺はルルを逃がして、…そして死んだはずだ。
そして俺は宇宙空間にひとり。
往年のロボアニメ的展開。
このまま俺はこの宇宙空間で一生一人孤独に閉じ込められるのだろうか、…助けなんてどこに誰に求めればいい。
ああ、戻りたい・帰りたい。
…——と思ったら目の前の視界が変わった。
『スミス』
『mom!』
「な…。」
泣きそうになるほど懐かしい景色・香り・声・色……子供時代。
ヒーローがプリントされた服を着て母親に抱き着いているのは紛れもない俺と母さん。
……恐る恐るそこにいる二人に触れてみる。…見事にすり抜けた。グッと拳を握りしめた。
意味がない。意味がない。臨死体験ってやつなのか。もう見たくない
…——と思ったら訓練生時代の俺の部屋だった。
部屋には誰もいなかった。
ボタンを押して部屋から出てみる。窓の外に人影、そこに居たのは走っている俺。
ああ、臨死体験か。
オカルトな話は興味ないんだけどな、と頭をぽりぽりと掻いていたらまた視界が変わった。
ああ、いい、別にいい、と何となく手をぱっぱと払えば目まぐるしい勢いで世界が変わっていった。
その中で、いよいよイサミを見つける。
停止。抱き着いてみた。すり抜けた。
——パチ、パチ、パチ、拍手の音。
振り返ればあの宇宙生命体が居た。
「ああ、美しい」
「じゃあ、返してくれないかな、元の場所に」
「いやよ」
急に世界が黒くなった。その中で目の前の敵の白とピンクだけがギラギラ映える。
「私は知っている。本当に行くべきだった道を」
「道…?」
「でもそなたはこの世界で失敗した」
「はぁ」
「ああ可愛い私の人間よ、美しい人間よ、哀れな人間よ。大失敗だ」
と、言う割には目の前のナニカはとても楽しそうだ。
「まぁ、そう睨むな。私の能力だけが生き残ってしまった。そなたのいう—勇気—とかいうやつはこの次元まで届かなかった。足りなかった。もう少しだったのになぁ、一人一人の—勇気—が、足りなかった」
「…取り消せ、今の発言ッ…!」
「でも実際そうなのだからどうしようもあるまい。そして焦るな、ルイス・スミス。そなたは私の権限を奪った。私自身になったといってもいい。其方はこれから、私の代わりに次元を渡り続け死を夢見る。それだけの存在になった」
「はぁ!?」
「ああ、うらやましい。貴様はこれからたくさんの世界を旅する。遠い遠い気が遠くなるほどの時間をかけて私の代わりに死を焦がれ続ける。ああ哀れなルイススミス。私がそれを見れないのはとても惜しい。貴様の魂はいびつで美しかった。甘美で苦く、濃厚で、狂気で——」
「そんなことどうでもいい!もどせ、帰せ!俺を」
「無理だと言っているだろう?私の力はもう残っておらぬ。其方が全部持って行った。ああでも気が遠くなるほど世界を繰り返せば力も溜まっていくかもしれぬなぁ、美しい生命体。いよいよ死に辿り着いたのにその狭間で見れないのを心から悔やむ」
ぽわ、と目の前のナニカは光出した。
「一ついいことを教えてあげよう。ルイススミス。」
「…なんだ」
「ほとんどの道で貴様はここであっけなく死に周りが涙を流して終わりだ。だが、其方とあの青年、そしてルル、この三人の勇気で奇跡が起きる世界もあった」
「…は…?」
「そちらでは貴様が焦がれ続けた真のヒーローにだってなれたのになぁ。ああ哀れなルイススミス。其方はこの世界では観測者。哀れな哀れな観測者。自分では体験できない奇跡に焦がれ、全てが異なった世界に焦がれ、差詩集的には甘美な死に焦がれ続け、幾億流転を繰り返す。ああ。羨ましい…わたし、も、」
そういうと何かは消えた。
待てと掴もうとした手はやはり透けていた。