でやえ、出会うはぱちぱちと枝がはぜて、ゆらゆらゆらと光は揺れて辺りはなんだかどこか懐かしい香りで、大事なあの子は火であぶられた大きなマシュマロをほおばりきった(少しやけどしたとべーっと舌を出した仕草も大変可愛らしい)。
——豪華客船は日々いろんなイベントが開催されている。
なんせ180日もあるのだから、夜は街へと下りられない為ありとあらゆるイベントが催されているのだ。
今日は【星空を眺めながらキャンプファイアー】イベントDAY。
小さな台が設置されてパチパチと炎が燃える(希望者にはマシュマロがもらえる)。
さてぱちぱちとはぜる心地よい音を聞きながらイサミは一人考え事にふけっていた。
そろそろ攻めの体制に回ろうかと思っていたのである。
あれよあれよと気づけばみんなにいいからいいからエンジョイしてきな!と乗せられた豪華客船の暮らしにも慣れてきた。
いろんな街を見ていろんな人に歓迎されていろんな人に声を掛けられたり感謝のハグをされてヒーロー視されたのも慣れてきたし、街に降りない日だって船の中の一日のルーティーンだって慣れてきた。結局は横にスミスとルルがいるのだからなんかもう慣れた。
そして慣れると人間は次に行きたくなるものである(イサミは元来そういうタイプではなかったが見事にこの色とりどりの生活に影響された)。
「さてそろそろ寝る時間だぞルル」
とスミスが時計を見て言った。
「やだ」
「だめ」
この可愛らしい攻防戦も慣れた。
「こう見えてルルは成長してるのである!エーイ!ズガタカイ!ヒカエオロウ!!!!」
「…why」
「葛城さんに教えてもらったのか。あ、こら肩を出そうとしない」
「やだ!サクラフブキカッコイイ!」
「渋いな。」
イサミはスミスと一瞬アイコンタクトを取った。これで本日のルルの寝かしつけ当番はイサミに決まった。
イサミはだんだんこの生活が楽しいと思い始めている。
このまま続けばいいと思っている。
だがそれを叶えるにはクリアにしておきたい議題がある。
パチパチと火の粉が美しい空に消えてく。
「——さっきルルが言ってたあれはなんなんだ?」
ルルを寝かしつけてきた後イサミが元の席に戻ったら律儀にスミスはイサミの好きな銘柄の酒を持って待っていた。
「ジダイゲキ………なんだろうな…ジャパンの…クラシックな…ヒーローもの…にあたるのか…?」
手にした瓶をグイっと一口。それはキンキンに冷えていて、ルルの寝かしつけ時間も記録してるのかこいつ…とイサミは少し思った。
「ヒーローもの!?」
「…違うかもしれない」
「…どうしてそう君は俺を翻弄するんだ」
「ちゃんと見たことがない」
「それでも少しは知ってるんだろう」
「じいさんかショウグンがなんか…解決する」
「例えば」
「知らねぇ」
「もしかしてイサミは」
「——お前と話したくないかもな。ああ、ジダイゲキのことが知りたかったら毎日デッキで日光浴してる麦藁帽の葛城さんに聞け」
「……は?」
フリーズしたスミスを一瞥してからイサミは酒を一口煽った。そしてぱちぱちと爆ぜてく火を見た。美しい星空、波の音、木が燃えるいい匂い、空へと消えてく火の粉、ゆらゆら揺れる美しいひかり。
目の前の炎は小さくて人工的なものであるが、すこし前イサミはもっとすごいキャンプファイアーを見た。あの夜は大変美しい夜だった。…そして人生で一番、と言ってもいいほど開放的な夜だった。自分があんな風になるなんて、自分があんなに心から安堵?安心?期待?歓喜?…高揚?したのは初めてだった。心地よい夜だった。…もう一度、なんてはしたないとを思うほど。…それははしたないことか?と自分に何度も問うほど、良い夜だった。
イサミの目の先では相変わらず火が揺れている。
見た目は変わったが相手は一緒だ。
火は人を高揚させるという。太古からの言い伝え。
そしてイサミはあの夜をもう一度と火に当てられてそんなことを考えている。
問題は横の男である。相変わらずフリーズしている。
もう一杯イサミは手にした酒をあおってスミスを見ながら自分の唇を親指の爪で刺した。
イサミは自分が口下手なのを知っている。
だったもう火に当てられて本能に任せるしかないのである。
結果。
もめた。
次の【星空を眺めながらキャンプファイアー】イベントDAYは1週間後、雨天中止である。
「……どうすればよかったんだろうな」
「ニュウヨクシーンが必要だったとおもう!」
「そんな訳あるか。…て、待て葛城のじいさんと何見てんだ」
「ルル、おブギョーサマになりたい。スミスさばく。最近9時にはもう寝ろ言う!」
「……………俺もなりたい。」