時代劇(捕物貼)快新 新年『新年、明けましておめでとうございます!』
時は今から遡ること三百年程前のこと、大江戸と呼ばれるこの場所にも、幾度目かの新しい年が巡ってきました。
ここ、船宿白泉楼(びゃくせんろう)には顔馴染みの人々が集まり挨拶を交わすと、皆で持ち寄った馳走が振る舞われ、新しい年の訪れに顔を綻ばせています。
料理が自慢のこの店は、最近では評判もよく予約なしでは入れないという人気店なのですが、暮れから新年にかけては雇人達の多くが田舎に帰り、今日は店を開けてはいません。
所謂仲間内の宴席なのです。
それでも何だかんだと人は集まり、四つ葉座の座頭である寺井を始め、手妻使いの快斗達座員、貸本屋と探し屋を営む新一とその新一の家に居候中のコナン。
帝丹長屋に住む岡っ引きの小五郎親分とその娘の蘭や手下である光彦と元太。
更には長屋の雇われ差配である安室や、診療所の志保と阿笠の両先生に見習いの歩美。
おまけにその診療所の居候兼用心棒である赤井までが揃っているのですから、大所帯もいいところです。
勿論白泉楼の女将である千影は本店の京都から駆けつけていましたし、四つ葉座公演の後ろ盾である大商人の扇屋と鈴屋に、鈴屋の娘である園子も揃っています。
賑やかで穏やかな、気持ちの良い仲間達が集まる幸せな新年の始まりで御座います。
「よっ貸本屋!飲んでるか?」
既に酔っ払ったような者達もいる中を、見事にすり抜ける器用な体裁きと軽い足取りで新一の元へとやってきたのは快斗です。
「十分飲んでるし、食べてるよ。こんなに賑やかな新年は久しぶりだな」
そう新一が応えれば、快斗は勝手に新一のお猪口に酒を注ぎ足しました。
新一が結構飲めるくちであることを快斗は知っているので、これはいつものこと。
「オレは座員みんなで過ごすことが多いからいつも人数はいるんだけど、確かにここまで大勢だとちと賑やか過ぎるかもなぁ」
この宴の首謀者の一人である快斗は、少々声を掛け過ぎたか?と頭を掻きますが、俺も楽しいし、皆喜んでんだから良いじゃねーかといつになく素直に笑う新一相手にどうやら嬉しさを隠せないようです。
「ねーねー、快斗にーちゃんはいつもだとこの後はどう過ごすの?」
新一の脇にちょこんと座っているコナンが僅かに首を傾け快斗に聞きました。このコナン、まだ若干七歳と幼く持っている湯呑にも温かいお茶が入っています。
「いつもだとやっぱ初詣に行って、その後はお得意様回りだな。けど今回はこの大江戸に出てきて間もないし、お世話になってる扇屋さんも鈴屋さんもここにいるから、のんびりしていられるってわけだ」
「そうなんだ。やっぱり今日もこの後みんなで初詣行くんだよね、いいな」
寂しそうにつぶやく子供の姿をみて、快斗は新一にどうした?という視線を送ります。
「あ~、流石に新年だろ、これからこいつは実家に帰らないといけなくてな」
実家という言い方が何ともいえない響ですが、このコナン、実は住む家がなくて居候しているわけではありません。『世間を知る為』に新一の所に転がり込んでいるのです。
ですから、ゆくゆくは後を継ぐべき家があり家業があります。
まだ当人が幼く、何故かその両親が新一をいたく気に入り絶対の信頼を置いていることから今のような自由を許しているとはいえ、新年の挨拶だけは外すわけにはいかないようで、今夜中に戻るようにと知らせが来ていたのでした。
「成程ね。そっか、こればかりは仕方がないな。正月の間は家で大人しくして、7日も過ぎたらまた帰ってくりゃいーじゃねーか。戻ってこられるんだろ?」
「戻れなかったら逃げ出してくる」
返す言葉は爆弾発言。
ですがコナンならば本当にやりそうだと思う者は一人や二人ではないはずです。
この少年はとても賢く、更には規格外の行動が多過ぎるのですから。
「おーおー、過激だねぇ。けどお前ならすぐ戻ってこられるさ、小さな名探偵!」
「そう思う?」
「ああ、子供とはとても思えないこの鉄砲玉を、本人の意志を無視して繋ぎ止めておけるもんか。よし、もし戻さないって言ったら、オレが迎えに行ってやるよ」
快斗の言葉に、沈んでいたコナンの表情が一気に明るいものとなりました。
大人びた所があるコナンですが、今回ばかりは周りが思っている以上に我慢していたに違いありません。
「本当?来てくれる?白鷺小僧みたいに!?」
白鷺小僧とは最近世間を騒がしている盗人のことで、決して人を殺めずその盗みの技は音も無く神出鬼没、盗む相手も市井の人々の苦しみで私腹を肥やす者ばかりという一風変わった怪盗のことです。
「え?いや、あいつは盗むんだろ」
「あ、そうか。じゃ、入口からでもいいや」
そんな輩を引き合いに出された快斗は一瞬面食らったようでしたが、力強く頷きます。
「入口からでもって……。まーいいか。ああ、約束な」
快斗は小さなコナンの指と自分のそれを絡ませ、指切りをして約束しました。
コナンは余程嬉しかったのかあまり指切りの経験が無かったのか、頬を染め自分の指をじっと見つめています。
「快斗!そんな軽々しく約束して。お前こいつの家の場所も知らないじゃねーか」
呆れたように口を挟む新一は、酒を一気に煽りました。
「新一は知ってるんだろ?問題ないじゃん」
「お前なぁ」
困ったような顔をする新一に対し、どうやら機嫌を損ねてしまったようなコナンが口を挟みます。
「やだ」
「は?何がだよ」
「新一にーちゃんが快斗にーちゃんに協力してくれないなら行かない」
「はぁ?俺を巻き込むなよ」
珍しく聞き分けの無いコナンの瞳が潤んできたのを見て、新一は今更ながらしまった言い過ぎたかと思いましたが、それも後の祭りというものです。確かに普段のコナンは子供らしくないところも多いのですが、やはり七歳の幼子、感情が思考を上回る時だってあるのです。
「まだ志保先生と歩美ちゃん手作りのお節料理も食べてないし、親分達と羽根つき勝負もしてないし、蘭ねーちゃんと書初めも園子ねーちゃんとかるた取りもしてないのにー」
「どんだけ約束してんだよ!」
「貧乏なだけで何でも気ままに出来る新一にーちゃんには分からないんだぁー!」
一気に不満爆発。
「何気に失礼だな、おい」
「新一ちょっと止め、コナンの感情が暴走してるじゃん」
慌てて間に入った快斗ですが、新一は微妙に不貞腐れた顔のままです。
「だってよ」
「だってじゃない。普段は兎も角、まだ小さいってこと……あらら、決壊しちゃった」
快斗の言葉にぎょっとした新一がコナンを見ると……時既に遅し。
「新一にーちゃんはぼくのことが邪魔なんだぁぁぁ」
「そんなこと言ってねーだろーがっ!」
普段から大人びていている上に、感情の波をあまり見せないコナンがとうとう盛大に泣きだして、辺りは騒然となってしまいました。
宥めたり、すかしたり、大人達があれやこれやと手を焼き、騒ぎ、心配した後、ようやくことが治まった頃にはすっかり夜も更けていました。
白泉楼の門前を少し回った川沿いで、新一と快斗が安室と赤井と共に並んで夜の道を歩いて行きます。
「ここまででいいよ新一くん。コナンくんはちゃんと僕が送り届けてくるから、君達は心配しなくていいからね」
「はぁ、すみません安室さん」
泣き疲れて眠ってしまったコナンを背におぶった安室は、人の良い笑顔を見せています。
「この子がこんなに感情を爆発させた所をみたことがなかったから驚いたけれど、溜めるばかりでは心が参ってしまうからね。もしかしたら良い機会だったのかもしれないよ。まぁ、それだけここに居たかったってことだろうけど」
「でしょうね」
コナンは『行かない』と言ったのです、『帰らない』ではなかったことに気がつかない新一ではありません。まだ幼い子供の小さな我儘を叶えてやりたい気持ちはあったのですが、あちらの家の事情もあります、こればかりはどうしようもありませんでした。
「ただ、きっと家に帰ったら、自分で言ったことを思い出して落ち込みそうだけれどね」
この安室の言葉は何気に新一の心に刺さりました。
おそらく素直になれない新一に対し、わざと言っているに違いありません。
「コナンは変なところ大人びてるからなぁ。気に病まなけりゃいいけど」
快斗までがそんなことを言い出します。そして意味深な視線を新一に向けるのです。
「新一、俺の手はまだ空いているが、何かあるか?」
道中の用心棒役を買って出た赤井までが、小さく笑みをみせてそんなことを言い出し、わざわざ手を出して見せるのですから新一が折れるしかありません。
「三人共分かってるくせに、わざと俺に言わせようとするなんて性格悪くないですか」
「なんのことかなぁ?」
白々しくも快斗がそう言うのに、二人とも無言で圧力をかけてきます。
どうやらコナンは本人が思っている以上に皆に好かれているようでした。
「ったく、多分向こうには豪華な料理が山ほどあるとは思うんですけど、志保と歩美ちゃんがコナンのお土産用にとわざわざ作ってくれた御節料理なんで、持っていってやってくれますか」
新一が差し出す風呂敷に包まれた重箱を、赤井は大事そうに受け取ります。
「ああ、預かろう。それだけか?」
本当に意地が悪いと新一は思いましたが、勿論彼なりの優しさなのだとは分かっています。
「あと、これ。暇かもしれないんで、俺のお気に入りの捕り物帖の綴本です。大事なもんだから絶対返しに来いって、ちゃんと自分で持ってこいって伝えてください」
それだけ言うと、大事な本も一緒に赤井へと渡しました。
「必ず伝える」
真面目な赤井の返答に、とうとう耐え切れず見守っていた快斗が噴き出してしまいました。
「ったく、素直じゃねーな名探偵は。安室さん、コナンが居ない間はオレが新一の面倒をみてるけど、興行が始まったら無理だからそれまでに戻ってこいって、新一と一緒に待ってるからって伝えてください」
別に俺は、とぶつぶつ呟く新一でしたが、完全否定するつもりもないようで、そんな態度を微笑ましく感じたらしい安室は小さく笑みを見せました。
「わかった。新一くんが寂しそうだったと伝えるよ」
「べ、別に俺はっ!」
声を上げる新一を、快斗が後ろから羽交い絞めにしてにっこりと微笑みます。
「ほんと素直じゃないんだから。よろしくお願いします~!」
「分かった。じゃ、そろそろ行くね」
「はい、「お気をつけて」」
新一達は月明かりの中、手に持つ提灯の灯りと共に段々と小さくなる安室と赤井を何となくそこから立ち去りがたい思いで見送っていました。
ですが歩く二人が何やら言い合いを始め、それが何だか終わらないというかどんどん激しくなっているようなのがみえて、今更ながら快斗は心配になってきました。
あの普段温厚そうな安室が言い返しているのです、人選を間違えたのではないか、と。
「あの人達、コナンが寝てるのにずっとあの調子でいくのか?」
「いつものことだから、コナンも気にしないだろ。それにあいつ寝つきいいし」
いつものこと?寝つきが良い?そういう問題か?
新一の言葉は快斗にとって今一つ理解出来ないものでしたが、この名探偵がそういうなら何とかなるのだろうと考え直しました。快斗は意外と、新一の言葉を信頼しているのです。
「けど、安室さんが行くのは差配さんだし、コナンの実家と繋がりもあるみたいだからなんとなく分かるんだけどさ、どうして新一は一緒に行かないんだ?」
コナンを預ける程の信頼を得ているのですから、先方と仲が悪いとも思えません。
「自慢じゃないが、俺はコナンの両親、はっきり言えば伯父である父親の方にえらく気に入られていてな」
「はぁ……」
良い事じゃん、だからなんだ?と快斗が思っていると、
「下手に近づくと、俺の方が戻れなくなる」
「なんじゃそりゃ。コナンってゆー立派な跡取りがいるじゃん」
「まだ小さいからな。伯父さんは真面目にしていれば良い人だし、能力もあるんだが、さっさと自分は隠居して俺に丸投げとかコナンの相談役にとか言い出し兼ねない無茶苦茶な人なんだよ」
「コナンの子供らしからぬ言動含め、なんか納得」
些か突飛な話ではありましたが、新一が漏らすため息の大きさで、更に話の信憑性が増すというものです。
「それに俺の母親は伯父の姉に当たるんだが、ちょっと不遇でさ。そうなったのは自分のせいだと未だに気にしてるんだ。そんなことは全くないし、今は幸せなんだから関係ないのに」
「なんか複雑そうだな。悪ぃ、身内でもないオレが余計なことを言ったかも」
ほんの軽い気持ちで聞いた何気ない質問でしたが、自分を始めどこの家にも色々と複雑な事情があることを知らない快斗ではありません。少し遠慮がなくなっているのかもしれないと反省しきり。
「別に良いさ。それだけコナンのことを大切に思ってくれてるってことだろ。ありがとな」
「礼を言われる程のことじゃない。なんかお前ら二人共放っておけねーんだもんなぁ」
「俺もかよ」
「そーそ。謎を解き明かし、隠された真実を見つけ出すことにかけては向かうところ敵なし、並ぶ者なしの名探偵のくせに、意外と生活能力が欠けてんだもん新一って」
「どこがだよ」
わざとらしく溜息をつく快斗に対し、素直には頷けない新一です。
出会ったのはごく最近ですが、年の頃も同じなら頭の回転も速く簡単には勝てない者同士。親しみを感じ、共にいることが楽しく嬉しいとは思っているものの、何となくまだ張り合っていたい部分もあるのです。
「どの口が言うかねぇ。そもそも貸本業の店主代理をコナンに任せている段階で駄目だろ」
それは近所の者達にも知れ渡っている事実なので、今更反論も出来ません。
「けど、まぁ去年はオレも世話になったことだし、ほい」
「お、卵焼きじゃねーか!……まさかコナンのお節から抜いたんじゃねーよな」
差し出された包みを開けた瞬間輝いた新一の目が、一気に探るような瞳に変わりました。
「その疑いの眼はやめろ。ちゃんと宴会場から持ってきたんだ。お前この騒ぎが起こってからあんま食えなかったろ」
よくみているものです。
おまけに相変わらず手が早いし、どこに隠していたのやら。
「んじゃ遠慮なく」
何もここで食べなくても……と思った快斗でしたが、中に戻ればまた皆に囲まれゆっくりも出来ません。それは楽しいことではありましたが、邪魔されず二人きりでというのも悪くないかもしれないと思いなおした快斗です。
「待てよ、こっち。舟の中で落ち着いて食えって」
「舟の中?ああ、宿の持ち舟の中か。勝手に使って良いのかよ」
「ちゃんと片付けておきゃ問題ないだろ。それにこんな高級な舟、滅多に入れないだろ」
快斗は川岸、白泉楼専用の桟橋に繋いである舟へと新一を誘いました。
舟遊び用の舟は一応屋根もありますし、何か暖を取る物もあるはずです。
どうせならとこっそり酒に火鉢まで持ち込んだ舟の中は、やはり少し寒かったのですが新一にとっては物珍しい場所であったようで活発に動き回り楽しそうな様子。
「確かに俺は舟遊びなんて豪勢なもんとは縁がねーからな。へぇ、こんな風になってんのか」
「そーいうとこは素直だな。けど何にでも興味を持つんだな貸本屋は」
喜んでもらえて良かったと思う反面、相変わらずの態度に思わず笑みがこぼれる快斗です。
「おめーだって人の事は言えねーだろーが、手妻使い」
「そりゃ好奇心は新たな手妻の種だからな、けどオレは京に居たんだぜ。あそこじゃお得意さんのお呼ばれで、花見の宴や花火見物、紅葉狩りに雪見酒と、季節の折に触れて舟にも乗ったしご馳走も頂いたことがあるけどな」
「へいへい、そーですか」
からりと開けた障子の向こう、天に輝く月は少し欠けてはいるものの明るく水面を照らしています。
「月見酒ってのも悪くはねーが、冬の川岸は寂しくていけねーや。でも春になったら、この先の桜も咲くんだろ。そん時は一緒に船からの花見酒と洒落こもうぜ新一」
「そりゃいい、ここから遡れば丁度いい桜の名所が拝めるぜ。ってことで、お前のおごりだからな快斗」
そんな事を言いながら、ぱくりと最後の卵焼きを口に含んでご満悦な新一に、快斗はこいつらしいと吹き出しました。
「流石新一、折角の風流さが消し飛んだな。おまけに生活感無い割には、意外とけち臭いこと言うんだよな」
「おい」
「分かった。誘ったのはオレだからな、酒も肴も任せとけ」
「おう、頼んだぜ。あ、あとお前の手妻の新作もな!」
「はぁ?あれはオレの生活のたつきなんだから、そうほいほいただで見せられるかよ」
「俺の目を欺けたら、観客には滅多な事じゃ見破れねぇ。出し物としても当たるのは間違いなしだろ」
口では色々なことを言いますが、新一も楽しみらしく機嫌も上がっているようで、見ている快斗も思わず口元が緩んでしまいました。
「よ~し、良いだろう、勝負といこうか名探偵。オレが勝ったら何でも一つ願いを叶えてもらうからな」
「俺が勝ったら?」
「鰻を腹いっぱい食わせてやろう」
「よし、乗った!」
ふと気がつけば、祭囃子のような笛の音が遠くから流れてきます。
どうもそれは近くの神社からのようで、今夜ばかりは明るく明かりが灯されている参道にはおそらく人々も集まっているのでしょう。
何となく、本当に何となく、快斗の内にもう少し二人きりの時を楽しみたい衝動が沸き起こりました。お互いそれなりに人気者同士、おまけに事件と謎ときたら片時も離れず新一を魅了し続けるのですから、ゆっくりなどしていられません。尤も新一自ら飛び込んでいってもいるのですが。
こんな静かな夜は、本当に珍しいことでした。
「なぁ新一、折角だ。目も冴えてるし、このまま二人で初詣と洒落こまねー?」
「俺は良いけど、座のみんなで行くんじゃねーのか?」
そんな流れになるとは思っていなかった新一でしたが、こちらももう少し二人で居たいとは思っていたのです、ただあまり我儘も言えないだろうと考えていたのでした
お得意様はまだ居ないと言っていた快斗ですが、今人気の手妻使い、それも役者もこなす二枚目です。ここでの興行はまだ短いとはいえ、挨拶する場も訪れる人々もきっと多いだろうと思っていたからです。
「あんだけ飲んでたら昼まで起きてこないだろーしさ、何となく新一と二人で行くのも『おつ』かなってな」
「何だそれ。男同士で『おつ』もないもんだ。けどお前も結構飲んでたはずなのに、ちっとも変わらねーのな」
「新一もだろ。で、どうする?それとも少し寝てくか?」
「張り込みと比べれば全然楽だし、まだ眠くねぇし」
「なんか比べる対象がおかしいだろ、それ」
微妙な顔を見せる快斗に、からからと笑って応える新一です。
「どーせコナンも居ないしな。案内してやるよ」
「そりゃどーも」
もう少しここで時間を潰して、それからゆっくりと出かけようと話はまとまりました。
誰に気兼ねすることなく、のんびりと酒を酌み交わすこんな時間は貴重で、そして楽しい。
だからもう少しだけ一緒に。もう少しだけ二人きりで。
お互い口には出しませんでしたが、実は思うことは同じだったのです。
勿論それも、知っているのは天に輝く月ばかり、だったのかもしれませんが。
ですがもう一方で、
コナンには悪いけど、少しだけ満喫させてもらうぜ
と密かに考えている新一と、
神社で事件に巻き込まれませんよーに!
と密かに願う快斗でした。
まだ謎多き二人ではありましたが、どうやら少しづつ距離は縮まり信頼から友愛に変わりつつある様子。
それでもまだ何かと張り合ってゆくのでしょうが、それはまた次回のお話。
ここまでのお付き合い、まことにありがとうございました。
本年もよろしくお引き立てのほど、よろしくお頼み申しあげます。
では、今宵はこれにて!
完