大人快新 密着! 黒羽快斗の美味しい生活 うるさい程ではないものの、人のざわめきと気配を感じ、工藤 新一は目を覚ました。
狭いとは決して言えない工藤邸の階下から聞こえるそれらを受け、珍しく今朝は早くから来客らしいと判断。探偵業を営む新一の元にはそれこそ急を要する客が訪れることもあるのだが、今回はどうやらそのての客でもないようだ。
一人では広すぎるベッドから起き上がり、恋人という名の同居人黒羽 快斗の定位置である隣を見れば既に居ない。その場所を手で撫でてみればすっかり冷えていて、だいぶ前から起きだしていたのだろうと分かる。
うーんと腕を伸ばし体をほぐしてから、新一は取りあえず着替えるかとまだ未練の残る優しく暖かな場所を後にした。
すっかりマジシャンとして名の売れた快斗は、今では一年の半分以上を海外で過ごしている。最初の拠点となったアメリカの古い町並みが残る小さな町を始め、今ではベガスやパリからもお呼びがかかる人気者だ。
世界中を飛び回りいくつものショーを精力的にこなす慌ただしい生活の一方で、新年か時には年末から春にかけては大抵日本に戻っていることが多い。
本人曰く、満開の桜を見ながら大事な人と過ごす時間は、一年分の気力を蓄えるのに欠かせない儀式なのだそうで、ここだけは譲れないオフシーズンであると公言もしてある。
だがそう言いながらも結局春の日本公演を行うのだから、あまり休みになっていないのではないかとファンの間では喜びと共に心配されている始末だ。
最初快斗がそんなことを言い出した時、実の所新一は心穏やかではなかった。
その大事な人というのが自分であることは分かっていたが、分かっていただけに快斗のファンからしたら許せないのではないかと恐れたからだ。
快斗に当たった折角の光を自分が消すわけにはいかない。未だにその不安が大きく一歩を踏み出せない新一の為、快斗は『大事なひと』を公言していない。尤もファンの間では故郷である日本のファンということになっているようで、今の所問題にはなっておらずマジシャンKAITOは絶好調だ。
だが一方で、今年はエンターテイメント業界全体にとって不遇の一年となっていた。
世の中のショーというショーが思うように開催出来ないという前代未聞の年となった関係で、元々切り替え素早く先見の明もある快斗は、早々に今年は準備・充電期間の年と位置づけ日本に戻って来ていた。
チームKUROBAと呼ばれる一流のスタッフ達の生活を守る為にだけは色々と奔走していたようだが、それも今まではどちらかというと避けてきたライブ配信やグッズ販売、雑誌の特集記事やTVのインタビューをこなすことで何とか乗り切ったらしい。
そうして今は日本に戻っている快斗だったが、早々に帰国したかと思えば充電どころか探偵業の助手を軽々とこなし、新一の疎かになりがちな食事を始めとする生活改善と健康維持に積極的に奮闘している始末。
「元々マメだったけど、それをまた楽しそうにやるもんだから止めるに止められないんだよな」
新一はそんな風に思いながらも、快斗が用意しておいてくれたシャツとズボンを身に付けた。普段ならこんな風に置いてあることはあまりないのだが、自分以上に新一の見せ方を心得ている快斗の見立てに間違いはないし、新一自身に拘りがないので、用意してくれたのならそれを着るというスタンスだ。
そんなことで普段何かと世話をかけている快斗が喜んでくれるのなら、お安い御用というものである。
「ったく、たまの長期休暇なんだから本当にやりたいことをやれよ」
少し前に新一がそう言ったことがあった。すると返ってきた返事は……
「だからやりたいことをやってんじゃん。最近は放置気味になってる新一のお世話が出来て、新一も何も言わずにやらせてくれてるし! 最高でしょ」
「そ、そうなのか?」
「うん!」
あまりに真っ直ぐな答えに何も言えなくなったのは記憶に新しい。
抱かれたい男ランキングでも常にトップ集団にいる恰好良さNo1の男が、このまめまめしさはどうなんだとも思ったが、本人が楽しんでいるのだから良いのだろう。
ただ一方で、もしこんな姿を世間に知られたらがっかりされないだろうかと暗い思考が頭をもたげたり、いやいや案外ギャップ萌えで余計にファンが増えたりするかも? などと今度は妙な落ち着かなさを感じたりしながら階段を下りかけた所で、ようやく思い出した。
そういえば、今日は雑誌の取材が来ると言っていたんじゃなかったか、と。
邪魔をしないようにそっとリビングの扉を開けた新一の目に飛び込んで来たものは、
「あ、おはよう新一! 思ったより早かったね。取材もあったから結構頑張って作っちゃったんだけど朝飯一緒にどう?」
にこやかに笑う快斗と見た事のない人々が何人か。
カメラを持っている人物が混じっているから取材先のスタッフなのだろう。
そしてテーブルの上に並べられた朝御飯というには随分と多い数々の料理。
「すげーな。でも俺が一緒で良いのか? これも取材の内なんじゃ……」
何だか取り込み中のようだと一旦引こうとした新一の前に、一歩進み名刺を差しだしたのは、明るいパンツスーツの似合う快活な女性。
「おはようございます! 私月間Magicianの記者で斉田桜と申します。本日はお料理も 得意と伺った黒羽さんの『美味しい生活』という特集の関係で、密着取材をさせていただいております。ご迷惑をお掛けしますが、普段の黒羽さんをそのままファンである読者に伝えたいと考えておりますので、出来ましたらどうぞ普段通りになさってください」
「はぁ」
普段通りにと言われても、どうすればいいか逆に迷うというか、なんというか。
「だから写真撮ったら斉田さん達も一緒にと思ってたくさん作ったんだ。食べながらインタビューにも応じるからさ。あ、だけど我が大家さんは勝手に写真撮ったり掲載したりしないでくださいよ。このひと人気あるからオレが翳んじゃうし、一応これでも一般人なんで」
朗らかに皆を巻き込みながらもさり気なく釘をさすことは忘れない快斗に、新一は心の中で小さく笑ってしまったものの、自分とのバランスや好感度が上がるであろう衣装を新一の為に用意しておくなど、一緒に写るつもり満々だなとも気づいてしまった。
実は、快斗と新一の仲の良さは既に世間一般にも認められていること。
それは大学時代に知り合った友達で親友というものだが実際は大分違う。知り合ったのは高校時代でお互い怪盗と小学生探偵だったし、今じゃお互い一心同体ともいえる繋がりを自覚する恋人同士だ。
だが、今日は仲の良い親友兼日本にいる事の少ない快斗の大家という設定らしい。
ラジャー。
斉田記者は二人の関係に興味はないのかはたまた達観しているのか、全く疑う素振りも気を悪くした様子も見せずに拳を握りしめ頷いた。
「わかってます。取材に応じていただけた上に黒羽さんお手製の料理まで頂けるなんて、それだけで感動ものですよ。ファンに羨ましがられそうです」
こんな調子の記者だからこそ、快斗が密着取材なんてものも許可したのかもしれないなと新一は密かに納得していた。
「はは、見た目は兎も角味はどうか分かりませんよ? さ、皆さん席について!」
斉田(以下斉) 本日は人気マジシャン黒羽さんの『美味しい生活』と題しまして、お話 を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。早速ですがここに並べて頂いたお料理ですが、どれもこれも美味しそうで、食べるのが勿体無いくらい完璧な美しさなんですが、本当に一緒に頂いてもよろしいんでしょうか?
黒羽(以下黒) こちらこそよろしくお願いします。どうぞ食べてください、気に入っていただけるかはともかく、ちゃんとまともな味がしたと書いてもらわなくちゃ(笑)
斉 ベーコンエッグにサラダ、コーンスープにロールパン。卵は半熟で良い感じに蕩けて焼き加減も最高ですね。それにロールパンは温かい!え、これはまさか朝焼いたんですか!?
黒 そうなんです、と言いたいところですがそれは温めただけです。
斉 黒羽さんからそう言われたら信じちゃいますよ。熱々のコーンスープも美味しいですね、濃厚っていうかコーンの風味があるっていうか。
黒 斉田さんこそ食リポ上手いですね。記者さんにしておくの勿体なくないですか?
斉 黒羽さんこそ本当に紳士でいらっしゃる。誉め言葉に思わずよろけそうです。
黒 あはは、素直な感想なんだけどなぁ。おっと、コーンスープの話でしたね、それは缶詰のコーンに生クリームも使ったお手製のスープなんですよ。本物のコーンを使うともっと風味が豊かなんですが、季節が違いますから今日は缶詰で。
斉 やられた! やはり世界の黒羽は伊達じゃないです
黒 そこ関係ないから(笑)、でもこれはあまりの美味しさにレシピを教えてもらったものなので気持ちは分かります。後でお教えしましょうか?
斉 良いんですか? 出来ましたら読者の方にも是非!
黒 美味しいので是非作ってもらいたいですね。もし挑戦したら感想を編集部まで送ってください~!
工藤(以下工) おい、勝手に決めるなよ迷惑だろ。
斉 いえいえ構いません。記事の最後にレシピを載せるので皆さん是非送ってくださいね。実は本日の『美味しい生活』には、黒羽さんの友人である工藤 新一さんにも特別に参加していただいております。黒羽さんはよく料理をなさるんですか?
黒 新一に聞くとは斉田さん狡い。
斉 これも真実追及のささやかな手段です。
工 彼は海外にいる事が多いのでいつもかどうかは分かりませんが、日本に居る間はよく作っていると思いますよ。たまたま私もその姿を見ることがあったんですが、手際も良いですし、料理を滅多にしない人ではああ上手くはいかないんじゃないかと。
斉 なるほど、説得力がありますね。今日は我々スタッフの分もということで大目に作ってくださって、サラダもレタスにトマト、ポテトサラダと盛りだくさんだし、他にもクロックムッシュや小さなパンケーキにイチゴジャムとクリームを飾ったスイーツもあるんですね。目移りしてしまいそうです。海外生活が多い黒羽さんですが、日本に戻ってきてもどちらかというと普段は洋風の食事が多いんですか?
黒 勿論白いご飯は大好きですし和食も作りますが、夜に白米朝はパンというパターンが多いので自然と洋食になっているかもしれませんね。でも有難いことに海外ではホテルに泊まることの方が多くなってきたので、あまり作ってないんですけど。
斉 その分、日本に帰ってきた時には作る事を楽しむという感じですか?
黒 そうなるのかな。それにマジックは大好きですけど、ときには違う作業をした方がアイディアが浮かぶこともありますから。
斉 料理は新しいマジックを生み出す切っ掛けだったりもするんですね。
黒 かもしれません。工藤さんの家のキッチンは広くて使いやすいので、長期で日本に戻った時なんかはこうして使わせてもらったりもしているんですよ。それにもしたくさん作りすぎても、男2人なら結構消費出来ますからね。
斉 だから今日もここをお借りしたわけですか。作業スペースが広いキッチンは良いですよね、私も憧れます。
黒 そうなんですよ! 片づけそっちのけで無心に突き進めるってゆーか、男の料理って感じでしょう。斉田さん気が合いますね。
斉 それは、料理はするけれど片付けは苦手、という者全ての望みです!
工 二人共、変なところで力説共感してないで現実に戻ってきてください。この後も何か作るんでしょう?
斉 そうでした! ここにある料理だけでも実力は十分なんですが、もう一品何か作っていただけるとか……
黒 ええ。ボリュームがあって、見た目にも楽しい一品を。
斉 それは黒羽さんらしいお料理ですね、否が応でもみせていただかなくては!
「んで、まさかバーベキューとは誰も想像してなかったよなぁ」
誌上で楽しそうだがどこか営業的にも見える笑みでポーズを作る快斗に、新一が一瞥をくれながら雑誌のページをめくると、快斗から反論の声。
「オレは料理研究家じゃねーし、あっと驚かし楽しませるのが本業だぜ。斉田さんもスタッフも驚いてたよなぁ。それに楽しそうだったし、問題なし」
それはそうだろう。最初しっかり家庭料理が得意という姿を想像させておきながらバーベキューというのも意表を突いたが、その後家族で楽しめるバーベキューと命名しつつ星や花などの形に野菜を切り抜いていく妙技も、焼きマシュマロの中から現れる別の菓子も『普通』とはだいぶ趣が違う。
尤もスタッフをわかせる手腕はまるでマジックショーのようで、流石世界の黒羽だったし新一も楽しんだ。当然取材も順調に終わり時間も延長することなく、皆満足の内に終了したのだから文句はない。
「それにうまいこと誤魔化してたじゃねーか」
「へぇ、どんなところ?」
新一の言葉に対し、挑戦するかようにニヤリと笑う姿はかつての好敵手の顔。
そんな顔をされれば手加減出来ないのは分かっているだろうに、たまに思い出したようにそんな顔をするのだこの男は。
「日本食の話から、当然お前の苦手なさ……」
「新一! ストップ!」
「早々にリタイヤじゃねーか」
「そこはいーの、はい次!」
魚の話に流れそうなところを上手く回避してた、な。
まぁこの部分は誤魔化したというより予防線を張ったとするべきか。
「お前がここに居る理由や、この先外へ二人で一緒に食材を買いに行ったとしても、わざわざ理由をつける必要がなくなったな」
むふという言葉が似合いそうな満面の笑みを見せる快斗を見ながら、新一はどちらかというと俺の為なんだろーけどなと心の中で呟く。
まだはっきりと公表していない二人の関係。
快斗は問題ないと言ってくれるのに、ここまでの彼の努力を無駄にしてしまいそうで怖気づいている新一を責めるでもなく、寄り添うように考えてくれる。
今回のことだってわざわざ工藤家でやる必要はなかったのだ、確かに普段からここに入り浸っているから使い勝手は良いだろうし見栄えも悪くないとは思うが、黒羽家だってまだ存在しているのだから。
「なぁ、快斗。俺はお前に……」
「新ちゃーん、オレの一番の喜びは新一と一緒に過ごせること。そりゃ喜びを大勢で分かち合うのは楽しいことかもしれないけど、新一が堅苦しい思いをするんじゃ本末転倒でショ」
「それは……」
「オレは新一を手放す気はないからね。マジックは大好きで大事なものだけど、ハードなショーを精力的にこなせるのも、新一が居てこそなんだから」
「んなことねーよ、お前の努力の賜物だろ」
快斗の努力をずっと傍で見て来た新一だからこそ言い切れるし、正直な言葉だ。
「だけじゃないよ。こうして一緒に楽しい時間を過ごして、ひとつになって気力も心も満タンにしてもらってさ、更に鋭い慧眼でマジックの甘さを見抜いてもらってるからこそ、乗り切れるしレベルも保っていられる。新一は陰の功労者ですからね、感謝してるしこれからも大切にしなくちゃ」
別に頼まれたからじゃない、俺がやりたいからやっているだけ。
そう言えばきっとそんなことはないというだろう快斗に、ちょっとだけ照れくささを感じた新一は、再び記事へと目を向けた。
「でもこの記事結構受けも良いんだろ? 日本公演への宣伝になるといいな。それより料理番組へのお誘いの方が先か? お前の作るもんは美味いから評判になるかもなぁ」
「今回は特別。オレの料理は新一への愛あってのものですから、料理番組には向かないよ。それに斉田さんにも明かせないメインディッシュもあることだし」
「そうなのか? どんな料理だよ」
うーんと少しだけ唸った快斗が、ちらりと新一の方を意味ありげに見てくるのを、新一は何故か挑戦的に感じた。
「新一になら教えてやってもいいけど。オレの好物だからなぁ、食べてもいい?」
「何だよ、既に作って隠してやがったのか? どうせ俺には作れないくせにとか思ってんな。そりゃ俺はお前程器用じゃねーけどな。聞くくらい良いだろ」
「そんなこと思ってないって。それどころか新一と一緒じゃなきゃ駄目だろ! とすら考えてる」
ということは、過去に一緒に作ったことのある料理か?
実技面での新一の助けは当然期待薄なので、何か気合の入るような記念日的な時に作ってもらったとか?
思い出そうとするも、ほとんどヒントが無い今の状態では限界がある。
「それは、どんな味だ?」
「めちゃめちゃ美味い。おまけに甘い!」
スイーツ系だったかー!
それでは甘党の快斗はともかく、自分には分からないかもしれない。
成程、あの意味深な表情は、もちろん一緒に食べた方が美味しいが、新一とでは同じほどの共感は得られないかな? という意味だったかと新一は少し残念に思った。
だがそんなに快斗が気に入っているのなら、何かの時には作…… れないかもしれない が、どこかから手に入れ、プレゼントするのもありかもしれないと思いなおす。
「そっか。甘いものじゃ俺にはあまり分からないかもしれねーが、お前が好きで気に入ってる食い物なんだろ、教えろよ」
「では、ご期待に応えましてお教えしましょう。でも仕上げが残ってるんだよね、新一協力してくれる?」
随分と仰々しいなとは思ったが、サプライズ好きな快斗のことだから何か考えがあるのかもしれないと乗のってみることにする。
「OK、俺は何をすればいいんだ?」
すると、にっこりと笑顔を見せた快斗が新一の腰に手を掛けもう一方の腕で脚を払うようにしたかと思うと新一の視線がぐるりと動いた。所謂お姫様抱っこというやつだ。
「お、おい」
「協力してくれるんだろ。何よりも甘くて美味しい、工藤 新一を実食!」
「は? 何言って、おい、ばか、止めろって」
抵抗するも軽々と持ち上げられた新一はそのまま快斗によって階段を上り、寝室へと運ばれるとベッドの上に大切に置かれた。だが簡単に逃がすつもりはないらしく、新一の手足はしっかり快斗の体で押さえられていて、これはどうやら美味しく頂かれるしかないらしい。
なんとも悔しいような、嬉しいような。
「密着! な」
「意味は間違ってねーが、使いどころ間違ってるだろ」
「いやいや、だって『黒羽 快斗の美味しい生活』だろ? だったら、一番上等でいくら食べてももっと欲しくなる美味しいものは、新一しかいないに決まってるじゃん。」
「決まってねーし」
「決まってるんデス!」
ちくしょうやられた、とは思うが惚れた弱みというやつで仕方がない。
快斗は一見尻尾をぶんぶんと盛大に振っている大型犬のようで……
でも瞳には激しい熱と色気が乗っていて、見ている新一の方がその熱に当てられくらくらと眩暈がしそうだ。
高まる興奮と熱量は、おそらく快斗には筒抜けだろう。
何より既に快斗によって幾度となく高められている新一の身体は、快斗の魔法の手に誘われただけで快楽を拾ってしまう。
現にたったこれだけのことで体は高まり、もう引き返せない所まできている。
けれど、このままやられっぱなしなのも悔しくて。
「仕方ねぇな。頑張ってる快斗には、褒美をやるよ」
「それを許してくれる新一も一緒に気持ちよくなってね」
精々虚勢を張ればそんな言葉を首筋で囁かれ、一気に持って行かれそうになる。
もう快斗の触れる息遣いだけで新一の身体は痺れてしまって、目の前が真っ白になりかけた。
「さっさとこいよ。料理の仕上げがあるんだろ」
「新一ってば最高!」
新一専属のシェフ快斗によって、神秘のベールは剥がされ、甘く艶やかなスイーツが暴かれてゆく。
「新一、ゆっくり味わわせて」
それは甘美で、美しく、激しく、狂おしい。
そして何より、一度味わってしまったら、その魅力からは逃れられないもの。
熱く蕩けそうな快楽の中、素晴らしいディナーと共に最高の夜が更けてゆく。
完