【新快/小話】穴の空いた靴下GW中日。
季節外れの夏日となったが、幸いにも一日雨の心配なく、絶好の洗濯日和。
外にアレがウヨウヨ泳いでおり、軟禁を余儀なくされている黒羽は、朝から喜んで大物を片付けた。
ひと仕事を終え、腕を大きく上げ、ぐーっと伸びをする。
時刻はまだ13時半。
昼食後のおやつには些か早いが、
「アイスでも食べてのんびりするかなー」
チョコレートは別腹だ。
黒羽は、パタパタとスリッパを軽快に鳴らし、階段を降りた。
ふと、リビングを覗くと、ソファの背もたれから、家主のヘタが見えた。
ソファに深く背中を預け、脚を組んだ姿勢で、黙々と新刊を繰っている。
「くどー、シーツ干して来た」
「…あぁ、サンキュ」
「その体勢、腰悪くするぞー」
「…あぁ」
「珈琲飲む?」
「…悪ぃ」
「いいよ、俺もキッチン行くし。
あ、工藤。その靴下、穴空いてる」
「ん?……あぁ」
黒羽の言葉に、工藤は一応手元の本から顔を上げたが、さして興味もなさそうに再び目線を落としてしまう。
「ちゃ・ん・と捨てろよ?」
「まぁ、その内な」
これは、歩くのに支障が出るまでは捨てないな。
黒羽は半目でヘタを眺めた。
工藤という男は、大概ナルシストでカッコつけの癖に、人目につかない場所では割とズボラでルーズだったりするのだ。
掃除や片付けが出来ない訳ではないが、元々の性分か、幼なじみ宅に居候していた仮姿時の弊害か、とりわけ自身の身なりには無頓智な所がある。
すっかり本の内容に集中してしまったらしい工藤は、思考を纏めている為だろうか、時折組んだ足先を左右に動かしては、ぺらりと頂を捲っている。
ちらちら視界に入るソレに、黒羽は嘆息し、若草色のエプロンの紐を外しながらソファの内側へと回った。
工藤の足元に膝をつけば、小さく空いた穴から、先日黒羽が削り揃えた、まあるい爪がちらりと顔を覗かせていた。
「ほんと、仕方ないご主人だよな」
ちゅ、と爪先にリップ音を落とし、両足の靴下をくるくると脱がせていく。
キッチンで湯を沸かしている間に、新しい物を持ってきてやろう。
そうだ、ダッツも回収しなければ。
再び立ち上がろうとする手をくんと引かれ、思わず黒羽は工藤の上に乗り上げた。
「あ、の…工藤サン?」
「黒羽、寝た子を起こした責任は取れよ?」
何が工藤のスイッチを押してしまったというのか。
先程まで寵愛を注いでいた本には、誕生日プレゼントとして黒羽が渡した栞が挟まれ、ローテーブルの上で鎮座していた。
此方を見上げる工藤は、にっこりと弧を描いていたが、その瞳は全く笑っておらず、双蒼には確かな熱が宿っている。
「親父ギャグ、かよ…」
太腿に当たる硬度に思わず及び腰になった黒羽だが、工藤の指先が首の後ろに回ると、大人しく瞳を閉じ口付けを受け入れた。
「ん…ぅ…」
角度を変え、深くなっていくにつれ、思考がぼんやりとしていく。
(部屋に上がる前に乾くといいな…)
生理的に潤んだ視線の端で、丸めた靴下が、ころころとソファ下へ転がっていくのが見えた。
外では、真っ白なシーツが、風を受け一際大きくはためいた。