Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    sekise_kise

    @sekise_kise

    スタンプありがとうございます🙏

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 74

    sekise_kise

    ☆quiet follow

    0軸晴博(現パロ)

    第三練習室 14

    順番がめちゃくちゃなのですが、どうしても書きたかった某神社の節分祭りです。
    かなり本編が進みました やった〜!

    ※ホラー
    ※体調不良描写
    ※流血
    ※捏造現パ保憲様
    ※いつにも増してやりたい放題大幻覚


    ご注意ください。

    .







     ざわざわと周囲を満たす喧騒、砂糖の焦げる甘い匂い。無数の屋台から漏れる白熱灯に照らされる境内は、普段のひっそりとした神社とはまるで違って見える。

    「おお……流石にすごい人だな」
    「だな」

     感嘆のような声を上げながら隣を歩く博雅に、晴明がそっと視線を向ける。きょろきょろと辺りを見回す様子は楽しげで、晴明も自然と、頬の辺りが緩むのを感じた。

    「……あっ、ベビーカステラ!懐かしいな」
    「食べるか?」
    「ううん……いや、先にお参りを済ませてからにしよう」

     律儀なやつだ、と内心思う。年に一度の節分祭り。今日ここに来ているほとんどの人間は、きっと信心ではなく、縁日という非日常を楽しみに来ているに違いない。

    「不思議だな……なんだか何もないときと比べて、随分広いように感じる」
    「人の流れが遅いからだろ」
    「まあ、それもあるだろうけどな……いつもの神社じゃないような、知らないところに迷い込んでしまったみたいな……わかるか?」

     何気なく、本当にただ思ったままに、博雅はそう尋ねてみた。
     晴明は──なにも答えなかった。ただじっと押し黙って、博雅の隣をついて歩く。

    「……晴明?」

     なにか、気に障ることでも言っただろうか。博雅が少し不安げに顔を上げると

    「……手でも繋ぐか」

     しっかりと、博雅の目を見つめながら──晴明は突然、そんなことを言った。

    「なっ……なんで」
    「はぐれないように、だな」
    「そ、こまでの人じゃ……」
    「いいから、ほら」

     半ば強引に話を進めながら、晴明が自身の左手を差し出す。迷いつつも、博雅が控えめに右手を伸ばすと、躊躇する隙すら与えぬように、あっという間に絡め取られてしまった。

    「博雅、お前……手まで熱いのか」
    「っ、ばか……」

     立ち上る煙、子供たちの笑い声。
     ゆっくりとした流れに逆らわず、一歩ずつ、小さな歩幅で境内を進む。そんな時間が無性に幸せで、愛おしくて。顔を上げようとした博雅の耳元で──しゃんっ、と突然、鈴の音が鳴った。

     ───えっ

     不審を感じ取ったのと、それが起こったのは同時だった。
     人がいない。ほんの少し前まで、満足に前へ進めなかったほどの雑踏が──一瞬のうちに消えたのだ。いや、消えたのは人だけではない──それに気づいた瞬間、博雅は自身の顔から血の気が引くのをはっきりと自覚した。音がない。この感じは覚えがある。あの時と同じだ。なんで、怖い──!

    「──声を出すな」

     悲鳴が漏れかけた博雅の唇に、不意に何かが触れた。

    「目を閉じろ、何も見るな。いいか、絶対にだぞ……」

     ぎゅっと、右手が痛いほど強く握りしめられる。言われるがままに目を閉じながら、唇に触れたそれが晴明の人差し指だと、博雅は遅れて理解した。

    「いいか、博雅よく聞けよ……ここを出るまで、絶対に手を離すな。俺が先導するから、目を閉じたまま真っ直ぐ歩くんだ」

     早口に、晴明はそう言って聞かせる。焦りで声が掠れそうになるのを、なんとか押さえ込んだ。

    「──何か聞こえたとしても、聞こうとするな。全て無視しろ、絶対に返事なんてするんじゃないぞ……声も出すな」

     晴明の口調、この場の空気。ただ事ではない気配を痛いほど感じながら、博雅は小さく頷いた。

    「よし……いいか、絶対に──手だけは離すなよ」

     最後にそう念を押すと、晴明は博雅の手を引きながら、ゆっくりと歩き出した。足がもつれそうになるのを堪えながら、博雅も慎重に歩を進める。そうして歩き出した一瞬後、博雅の肩が、突破大きくびくりと跳ね上がった。
     
    『──あれれ、行っちゃうよ?』
    『──おかしいなあ、誘い込んだはずなのに』

     声が聞こえた。風の音すらしない空間で。
     人の声でないことだけがはっきりしていた。確かに聞こえてくるはずなのに、声から一切、情報が読み取れないのだ。小さな女の子のようにも、しゃがれた老爺のようにも思える。晴明の手を握る右手に、ぎゅっと力が入る。震えが止まらない。本能的に恐ろしいと感じる、不気味な声だった。

    『──おおい、おおい、行くな、おいで』
    『──縁日であそぼう、お山であそぼう』

     おおい、おおい。呼びかける声が耳元で聞こえるようで、博雅は必死に目を閉じ続ける。聞こうとするなと、何度も自分に言い聞かせながら、小さな歩みを進め続ける。

    『──引き留められない、なぜ?なぜ?』
    『──隣のやつが邪魔してるから』
    『──人間風情め』
    『──人間風情め』

     無感情だった声に、明確な怒りが宿る。悲鳴をなんとか噛み殺した。今や震えは全身を支配し、満足に歩けているかすらわからない。

    『──引き剥がす』
    『──じゃまものは消す』

     声がそう言ったとを聞いた途端、博雅は思わず顔を上げてしまいそうになった。目を開くなと言われていたのを思い出して、なんとか踏み止まる。消すって、まさか、そんな──

    『──しぶといやつ』
    『──人間のくせに』
    『──身体の中を潰すか』
    『──血を吹き出すか』
    『──腕をちぎるか』
    『──目を溶かすか』

     恐ろしい言葉の羅列に、博雅は自分の勘が正しいことを悟った。なんの目的か知らないが、声の主は俺をここに閉じ込めようとしていて──それを妨害する晴明を、今まさに害そうとしているのだ。一瞬のうちに、博雅の心に、ある選択が浮かんだ。今この瞬間、手を離してしまえば──自分がここに残る決断をすれば、加害は止まってくれるだろうか。
     恐ろしい考えが浮かぶと同時に、博雅は、それが実行可能であることに気がついた。自身の手を握る晴明の力が、やけに弱いのだ。それこそ、博雅がその気になれば──振り解けてしまうほどに。

     ───ダメージを受けてる、ってことなのか……?

     だとすればもう、他に選択はないように思える。これ以上はもう一秒だって、晴明を傷つけたくなかった。ゆっくり、握りしめた手から力を抜こうとした、その瞬間──

     記憶が、よぎった。

     記憶、としか言いようがない、頭の中だけで聞こえた声。記憶。けれどそれは確かに、力強く──博雅の心の、深いところで響き渡った。

      ───博雅、俺を信じろ。

     その声を聞くや──博雅はハッと我に帰り、晴明の手を強く握り返した。危ないところだった。あの時、信じると決めたこいつのことを、手放してしまうところだった。あれ、けれどこんなこと、一体いつ言われたのだったか──

    「……もう目を開けていいぞ」

     その言葉に、夢から醒めたような心地がした。
     そっと顔を上げると、そこは縁日の中だった。がやがやと、人々のざわめきが耳につく。

    「……戻った、のか?」
    「ああ。……帰ろう、家まで送る」
    「え、ああ……ありがとう」

     手を引かれるままに、神社の喧騒を後にする。晴明はただ、何も言わず歩き続ける。博雅もなんだか口を開きづらくて、無言でその後をついて歩いた。先ほどのあれはなんだったのか、体は大丈夫なのか。聞きたいことは山ほどあったが──尋ねる機会をうかがううちに、気がつくと自宅へ帰り着いていた。

    「じゃなあ。念のため今日はもう外へ出るなよ」
    「ああ……ありがとう、おやすみ」

     せめて最後に、体の調子だけでも尋ねたかったのに──晴明がさっさと背を向けて行ってしまうから、博雅も引き留めることができない。玄関を施錠し、息を吐いてから──聞きたいことがもう一つあったのを思い出した。あの記憶、確かに聞いたはずのあの言葉は、一体なんだったのだろうか。


     +++++++++++++++


     玄関扉が閉まるのを横目に認め、足早に来た道の角を曲がる。どうやったって博雅の視界に入らない場所まで移動してから──晴明は大きく息を吐き、くず折れるようにその場にうずくまった。

     ───危なかった、危なかった……!

     頭の中を引っ掻き回された気分だ。なまじ人間のことを知っているからタチが悪い。的確なダメージに腹が立つ。胃の内容物が迫り上がってくるのを必死に堪えながら、震える足になんとか力を入れようとする。ああけれど、これはもう──視界が揺れる。ぐら、と身体の軸が傾きかけて──

    「──おっと、まだ気絶するなよ。男を抱き上げる趣味はないからな」

     誰かに腕を引っ張り上げられて、なんとか意識を落とさずに済んだ。

    「……なぜここに?」
    「礼が先だろう……まあいい。あれだけ大規模な異変だ、気づきもするさ」

     それもそうか。晴明は返す言葉を失って、苦し紛れに視線を逸らす。この人くらい自在に力を使えるのなら、当然のことだろう。賀茂保憲は真意の読めない微笑を口元に浮かべながら、肩に乗った黒猫に合図する。

    「いつかの魚の礼に、沙門が乗せてくれるとさ」
    「……ありがとうございます」
    「なんだ、嫌に素直だな。……その様子では、無理もないか」

     率直な言葉に、晴明の表情が悔しげに歪む。全く情けない。自分の未熟さが嫌になる。早く、もっと力をつけないと、このままじゃ──

    「──焦るなよ、晴明」

     晴明の思考を読んだように、不意に保憲がそう言った。

    「焦るな。力を追いすぎた先に何が待っているか──知らないわけではないだろう」
    「……だったらはぐらかさずに教えてください、"前世"のこととやらを」
    「駄目だ」
    「なぜ!」
    「……今一番避けなければならん事態が、お前の暴走だからだ」

     低く、鋭い声だった。力の暴走。それを言われてしまうともう、なにも言い返せない。

    「晴明──自分の心と向き合え」

     項垂れるように下を向く晴明に、保憲が静かにそう諭す。

    「俺から言えることは、それだけだ」


     ++++++++++++++


     今から十二年前、幸せな一般家庭を悲惨な事件が襲った。

     発見したのは警察ではなく、異常な力の渦を感じ取った賀茂家の人間だった。

     男女二名が、胸部から血を流し動かなくなっていた。周囲には、血に塗れた刃物が無造作に落ちていた。

     そして──凶器を握っていたであろう男もまた、苦悶の表情で事切れていた。

     異常だったのは男の体に、外傷と呼べるものがなに一つ残っていなかったこと。


     惨状広がる部屋の真ん中で、年端もいかない少年が一人、死んだように眠っていたこと。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works