愛の午後 柔らかな日差しが部屋に降り注ぎ、時折小さな雲が太陽を薄く遮り、草木を僅かに揺らす程度の風が吹いている。こんな日は何をしても気持ちの良い日だ。どこかに出かけるのも良し、家で家事に勤しむのも良し、家で何もせずに寝てしまうのも良し。無論、恋人同士がゆっくりと逢瀬に浸るのも、だ。
「よし、出来たっ。見てよこれ、この前の」
そう言って立香は、隣に座って本を読んでいるダンテスに、自分のスマホの画面を見せた。ダンテスは本から顔を上げて、差し出された画面を覗き込む。すると、ほんの僅かに顔を綻ばせたかと思うと、立香の後頭部に手を寄せ、瞼にキスを落とした。立香は軽く目を細め、小さく笑う。
「成程。さっきから何をしているのかと思えば、…おまえらしい」
「こうするとわかりやすいでしょ。今度また印刷してまとめるつもりなんだ」
「精励なことだ」
「…ん、」
立香がしていたことは、数日前に行った水族館デートの写真をスマホ内のアルバムにまとめることだった。立香は楽しい思い出はどれだけあってもいいから、とよく写真を撮る。そうしてある程度溜まれば、現像してアルバムに一枚一枚纏めていく。それに感化されたのかは不明だが、それを知った後、ダンテスのスマホのデータには立香の写真が倍増した。
「この赤ちゃんペンギン、他の子よりもすこしおっちょこちょいで可愛かったけど、少し不安だったなぁ」
「そうか」
瞼にまた一つ、キスを落とす。
「アザラシがいっぱい集まってて面白かった。すぐに散らばっちゃったけど」
「そうか」
瞼にまた一つ、キスを落とす。
「あ、帰りに食べたアイスだ。分けっこで食べれたの良かったな。美味しかったし、うれしかった。エドモンはどう?」
「無論、言うまでもないだろう。俺は全てを刻み続け、しかして他でもないおまえとの時なれば。数瞬の忘却も許しはしない」
ダンテスはそう言うと、また瞼にキスを落とした。立香は少し顔を赤らめて、ダンテスを見つめて声を震わせる。
「…そこばっかりキスしてていいの?」
「…おまえは、」
ダンテスは思わず目を見開いたものの、すぐさま表情を切り替えた。蠱惑的な顔を作り、後頭部の手はそのままに。空いている左手を立香の顔に近づけ、親指を唇に添わす。至近距離でのその行為に、立香の顔は益々赤らんだ。
「どこにして欲しい?」
「うぅ……わかってるくせに…っ!」
「当然だ。おまえの瞳は、お前のそこよりも余程雄弁だ。だが、分かるだろう立香。俺は、おまえの言葉を欲していると」
立香は顔を逸らせない。ダンテスの瞳だって、口よりも余程分かりやすくて、今も逸らすことは許さないといわんばかりに、真っすぐに射抜いている。立香への欲を、想いを、愛を隠すことなく。熱くて、焦がれて、溶かしてしまいそうなほどに。
立香は意を決して、唇に触れる指を小さく、ほんの一瞬だけ舌を出してぺろ、と舐める。そして顔を湯気が出そうなほどに真っ赤にして、羞恥で瞳を潤ませて、消え入りそうな声で囁く。
「…ここ。でも、ちょっとじゃ、いやだ。…いっぱい欲し、んっ…!」
「……ン、全くおまえというやつは。加減を知れ。抑えが効かん」
「別に、いいから…。こうされるの、嫌?」
「まさか」
ダンテスは立香を抱き寄せて立ち上がり、立香の耳元に顔を寄せた。
「Je suis fasciné par tout ce qui te concerne.」
今日は何をしても気持ちの良い日だ。愛する人の想いが、いっとうよく見える。