デガ小刀から伝い落ちた血液が、ディルックの手を汚していく。赤色だ。ディルックと、己の父親の髪の色によく似た鮮やかな赤色が、薄暗い明かりの下でもなぜかよく見えた。正当防衛だった。けれど、それなら仕方ないと割り切れるほど、ディルックは非情になれていなかった。男の身体がずるりと滑って、物のように勢いよく地面の上に倒れ込む。見開かれたまま瞬き一つしない瞳と目が合って、気付いたら駆け出していた。手のひらに散った血液がとっくに乾いてもなお、あの生温い体温が頭から離れない。父親を手に掛けた時によく似た温度だった。
「こっち座れよ。もう閉店だろ」
「まだ最後の客を帰してない」
「俺はいいんだよ。なんなら一杯奢ってやろうか?」
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