泣き虫な竜蝉の鳴き声が騒がしくなるこの時期、長く続いた梅雨が開け空から燦々と太陽が照りつける日々が始まる。昨年から河川工事を行ったおかげで今年は、川の氾濫による被害も無く、田畑には夏野菜が実り青い稲が太陽に向けて背を伸ばしていた。心配事が無いといえば、嘘になるが季節をまた一つ無事に乗り越えたと奥州筆頭は手元に届く報告書に目を通しながら満足気に頷く。花押をしたため、筆を置くと書簡を受け取った小姓が一礼して執務室を去って行った。
「Hmm……」
煙管を手に一服していると、床を伝っていくつかの足音が向かって来た。やれやれ、と火種を落とした政宗は、煙管を灰皿に置き溜息を吐く。今から目の前に現れる奴らに飛びつかれでもしたら、畳に火種を落としてしまうかもしれない。小さな火種だが、火災に繋がる可能性は大いにある。建てたばかりの城を燃やすことだけは、避けたい。
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