ドレスコノノイ♀のキスを見ちゃうハさん惚気は犬も食わない。
そして、他人の色恋になど好んで巻き込まれたい者などいる筈もない。
だから艦長、そんな目で僕を見るな。
確かにアーノルドは魅力的な女性でしょう。今日のドレスも似合っているし、誰かのパートナーだとわかっていても手を出そうとする不埒な輩も現れるかもしれない。だが断じてそれは僕ではない。
パートナー必須などという時代錯誤ともいえる無意味な指定に素直にのってやるのも悔しいが、理事国からの出資だけでどうにかなるほど軍事というものは簡単には回らない。
とりあえずアビーに相手を頼んだが、その時に艦長が誰にも声をかけていないことを疑問に思うべきだったのだ。
誰が本当の恋人を連れてくると思うか。しかも、プラント過激派のパーティーにナチュラルを!危険を事前に回避するのが得意なはずだろうあなたは!と、直接言うのもおかしな話な上、こういう時のコノエ艦長は絶対に僕の言葉になど耳を貸さない。
自身のことは自分で守れとでもいうのか、露出の多いドレスで誤魔化しているが、アーノルドの太腿には拳銃が準備されているであろうことがわかる。そんなことでもなければ背中も脚も見せるようなドレスは着るまい。まだアビーが着ている方が幾分か納得できる。いや、アビーも着ないか。着るとすればラミアス大佐だろうか?
とはいえ、一人にしないためか周囲に牽制するためか、艦長の腕はアーノルドの腰にしっかりと回され、アーノルドも隙間なく艦長にもたれかかるようにして移動している。
恋仲だと分かればそれは弱みを晒しているようなものでもあるが、ずっと一緒にいるのならばそれの方が安全ではある。
見慣れているはずの艦長の笑顔がなんだか据わりが悪い。アーノルドを見る目が優しいのは知っていたが、それだけではないのを初めて見せつけられたような気がする。だが、それを僕たちに見せる必要はないだろう。アビーも困っているようにも見えるが、女性は恋バナが好きとはよく言ったものだ。
会場内でも、艦長はアーノルドの腰を抱き、肩を抱き、自身の近くから離そうとはしない。アーノルドがそれを嫌がる素振りがないのは正直想定外だった。彼女はあまり自身の事を女性扱いされるのを好んでいないように思っていたのだが、当然に恋人は別なのか、それとも任務だからか素直に受け入れているのが不思議だ。まあ、前者なのだろう。アビーも僕の近くを離れようとはしないが、その距離は遠い。僕もこれ以上は近付ける気はない。だから艦長があまりにもずっとアーノルドとの距離を近付けるほどに、僕がパートナーと距離が遠いことが目立つのが嫌なのだ。
「艦長、空気が重いです」
本来、少し離れただけでここまで纏う気配を重くするような人間じゃないだろうあなたは。
「そうか?」
「一緒にいるのはアビーです。特に何も起こらないと思いますが」
「アビーじゃ背中は隠せないからねえ……どうしてあんなドレスを選んだんだろうね……」
「ご自分で選ばれたのでは?」
「そんな余裕があったか?」
「ないですね。正直このパーティーに出ているくらいなら僕ですら寝ていたいですね」
「だろう?あれは彼女が選んできたんだよ……」
いくら付き合いが長く、僕の好きなブランドや女性のタイプや送りたいプレゼントの趣味などを知っているからと言って、直属の上官からの、今現在付き合っている顔見知りの同僚へと向ける重たすぎる愛を惚気られるのは勘弁願いたい。
――あなたの独占欲は重すぎる。
何度伝えてやろうと思ったか。今の艦長はのらりくらりとかわしてはくれなさそうで、蛇は出したくない。
アビーを支えるアーノルドという、女性二人の構図ににやましい視線が集まっている。艦長が言葉を発する前に牽制するのがいいだろう。穏便に済ませた方がいいに決まっている。
「人のパートナーに怪我をさせかけておいて、謝罪もなしに逃げようとはどういうつもりだ!」
「かんちょ――」
声をかけようとしたことを後悔する。
なぜこんな人のいない物陰に艦長がいるのかとは思った。その背中に腕が回されているのを見るまでは。
先ほどまで見ていた青いレースに包まれた細くとも筋肉の付いたことが分かる腕。
いくら物陰とは言え、そこまでしっかりと抱き合う必要はないだろう。艦長どころかアーノルドにすら、色恋に溺れるイメージはなかったが、現実はそうではないということか。
ほぼ見えるのは艦長の頭だけだ。それでもその頭の角度から、二人がキスしていることはわかる。人目を避けていればそれは牽制や主張にはならない。つまり、ただの色恋への耽溺でしかないということだ。
だが、その姿から目が話せなかった。
「アルバート、覗きとは感心しないよ?」
「あれは艦長が見せつけていたのでは?」
「恋人を見せびらかす趣味がないのは知っているだろう?」
「あなたのは牽制って呼ぶんですよ」