ミラクル シンフォニィ(新刊一部) 背が高くて顔も良くて頭もいい。いいところが揃っているのに唯一、口や態度が悪くて一言多く発してしまうために日向と月島はぶつかることが多かった。
身長も周りとの接し方も、まるで正反対の二人だが、正反対だからこそ、その存在が気になりその気持ちは日向の中で大きく膨らんでいった。
けれどその気持ちが恋だと日向は全く気付かず、月島が誰かといる姿にモヤモヤしたり、たとえ他愛もない話だとしても女子と話しているのを見かけると気になって仕方がなくなっている自分がいることに気付いた。
日向はそんな自分自身にもイライラして、月島と嫌味の言い合いになることが増えていった。本当はそんな言い合いなんてしたくないのに、どうしても売り言葉に買い言葉ではないが月島の言葉に言い返して言い返されて…最後は澤村や田中に止められる。
そんな日々が続いていたある日、そういった言い合いやゲリツボを押されたりするようなことがぱたりとなくなり、月島から距離を取られていると感じるようになった。
目も合わない、話しかけようとしても誰かに話しかけにいってしまったり、捕まえて話をしてもすぐに会話を切ろうとされる…そんなことが続いた。
それがたまらなくて山口にそれとなく…誰のこととは言わずに話すようになった。最初は黙って聞いていた山口も、少ししてこれはいわゆる恋バナなのでは…ということに思い至り、
「ねぇ、日向。それは…その…その子のことが気になって仕方ないって…ことだよね?もしかして、恋、してるとか?」
そう日向に問いかけた。日向は一瞬意味が分からないという顔をして、顎に手を当てながらそう言われたことと、妹の夏がクラスの誰々くんがかっこいいと言っているのを聞いたことを合わせて、日向は自分のこのモヤモヤした気持ちは月島を好きだからなのかと気付いた。
恋愛なんてしたこともなく、本当にこの感覚が恋だということもよくわからなかった。でも自分が思っていること全てが当てはまっていて日向は顔を真っ赤にさせた。
けれど恋をしていると自覚すると、最近の月島の態度を思い返しているうちに、この気持ちが月島にバレていて嫌がられているのかもしれないと思った。だから前のようなやりとりがなくなったのかもしれない。
もしこの気持ちを月島が気付いていたら、今までのように言い合ったり、勉強だって教えて貰えなくなる。
何よりもバレーをしていく上で、この後の二年間、同じチームにいて今まで通り、月島とやっていけるのかわからずまた胸が苦しくなった。
それにこの先、もし月島に好きな人や彼女ができたら…それを知る時がくる。その時に自然な態度でいられる自信なんてなかった。
「おめでとう」
なんて、きっと言えない。
月島の隣に自分以外の誰かが立つなんてこと、想像するだけで悲しくて辛くて嫌な気持ちになった。
同性の自分が好きだと伝えて両想いになれるなんて思っていない。
だって「普通」ではないから。
月島も恋愛の対象は異性だろう。いつも嫌味を言ってくる態度からみても、好かれているとは思っていない。嫌味を言わなければ好きかと、そういうことではないけれど、恋愛という感情を持ってくれているなんて想像もつかない。
「告白する前から失恋かぁ」
昼休みの屋上で誰に言うでもなく、雲ひとつない空を見上げて出た声は少し震えていた。
「へぇ、君、好きな人いるんだ」
久しぶりに聞く、耳に心地よくてそして大好きな声に驚いて振り向いた。