8月七灰原稿進捗③四.拝啓
二つ折りにした便箋を名前しか書いていない封筒へ入れる。
きっちりと糊付けで封をしたら、同じ封筒だけが入った引き出しへと仕舞う。
机の浅い引き出しの中には、出す宛てのない手紙が増えていくばかりだ。
それでも。
私は、筆を執ってしまうのだ。
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帳が上がると、七海の頭上に青空が広がった。
砂埃を払うように呪具を軽く振る。そこそこの呪霊だったが、想定していたよりも早く祓えたようだ。古びた雑居ビルの階段を降りると補助監督は少し驚いた表情で出迎えてくれたが、七海は「お待たせしました」といつも通りに声をかけた。
呪術師へ出戻って一年。
あのパン屋を出て五条へ連絡を取ってからの日々はとにかく慌ただしかった。卒業ぶりに顔を合わせた五条に「いつかこうなると思ってたよ」と笑われながら、呪術師へ復帰する手続きを済ませた。勤め先へ退職届を出した時は上司から随分と引き留められたが、もう決めたことなのでと押し通した。(入ったばかりの新人には悪いとは思ったが、かなり細かく引き継ぎをしておいたので大目に見てもらいたい)
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