タイトルまだ考えてません← <side Tomori>
前から耳が聞こえなくなる前兆みたいなのはあって、イヤホンから音楽が聞こえづらくなったり、誰かに話しかけられてもすぐに反応出来なかったりというようなことがあった。私はそのことを受け入れたくなくてMyGOのメンバーとの連絡を極力メッセージにしてもらったり、話を聞く時にちょっと近すぎる距離で聞くようにしていた。なんでかわからないけど、立希ちゃんに近づいたら、顔が赤くなっていた。
読唇術を習得したりしてそれに慣れてきた頃、最悪のタイミングで耳が聴こえなくなった。それはMyGOのみんなで曲を演奏している時だった。頭の中が真っ白になって何も歌えなくなった。ついにこの時が来てしまったのだと思った。
「申し訳ありません。体調が悪いので本日の演奏はここまでとさせていただきます」
そう私は客席に言い残してライブ会場を後にした。
追いかけて来たらしいあのちゃんが私の肩を叩いた。
「どうしたの、ともりん?」
「もう私、歌えなくなっちゃった……」
「どういうこと……?」
「耳、聞こえなくなった」
「えっ……」
言葉を失うあのちゃん。
「うーん……前からちょっとおかしいなとは思ってたんだけど、そんなに深刻だったんだね」
寂しそうな顔であのちゃんが呟いた。
「それならそうと言ってくれれば良かったのに」
「歌でしか、気持ち、伝えられないのに、歌歌えない私に価値なんて無い」
「別に歌じゃなくても手紙とか書けるじゃん」
「でも、なんか……それは熱? が伝わらないと思うから……」
「そっかー、ともりんのあのちゃんラブの歌聞いてみたかったなぁ」
「ごめん……」
「どうしよっか、MyGO……。解散するしかないのかなぁ」
「そう、かもしれない……」
「歌、歌えなくてもともりんに存在価値あるよ。心に絆創膏貼ってくれるしね。あぁ、もちろんそうしなくても価値はあるよ。だから安心して」
あのちゃんが抱きしめて頭を撫でてくれた。その時にあのちゃんの心臓の音が聞こえないことがただひたすらに悲しかった。
<side Anon>
MyGOのみんなに私は事情を説明した。
「なんで燈が……そんなことになるぐらいなら私の耳が聞こえなくなった方が良かったのに……」
りっきーならそう言うだろうと思ってた。
「それはそれで、作曲どうするのよ……」
そよりんがため息をついた。
「耳、聞こえない……」
そう呟いた楽奈ちゃんが両手で耳の穴を塞いだ。耳が聞こえないっていうのは実際どんな感じなのか想像しているみたいだった。
「それで、一生バンド続けるって言ってたけど、どうするっていう話」
「まぁ歌えないなら仕方ないんじゃない」
とそよりん。
「他にボーカル用意してっていうのもなんか違うしな……」
とりっきー。
「燈、今日来る……?」
と楽奈ちゃん。
「あー……今日は来ないかな」
「このまま解散してもつまんねーだけ、みんなつまんねー女になる」
そう呟いた楽奈ちゃんは何か考えてるみたいだった。
「燈に会いたい」
そう言った楽奈ちゃんを連れてともりんの家に言った。
インターホンを押してしばらく待ってみたけど、出てこない。
「うーん……いないのかな」
「忍び込む」
「コラ、ほんとの猫みたいなことするのやめなって」
楽奈ちゃんの首根っこを掴んだ。
玄関からともりんがそっと出てきた。
「燈! いた!」
ビクッと震える燈ちゃんの肩。私はともりん用に用意したスマホの読み上げた言葉を文章に変換してくれるアプリを立ち上げた。
「別に楽奈ちゃん、耳聞こえなくなったからって怒ってないよ」
それを読んだともりんはホッとしてるみたいだった。