チ動説認定記念日/ラファウ編#チ動説認定記念日/ラファウ編
これから死というものが訪れようとしているのに僕の心は恐怖を感じていないのが不思議だ。脳は正常に働いている。
思考停止はまだ。
まだ思考停止してはいない。まだまだ。
芥子の実を使うのは我ながら上出来と言えよう。アレを伝えたら自分が毒を盛られたと思い込むのは自衛思考が働いている証拠だ。それにしても大の大人でも死が目の前にチラつくと狼狽えるんだな。炎に焼かれた人は苦しむ様子も見せず、ただただ眼球を僕の方に向けていただけだと言うのに。いや、もう動かせる筋肉や骨は神経を焼かれて動かせなかっただけかもしれない。もしかしたら僕が見かける前には呻き声を発していた可能性だってある。死というものを本気で考えた事はなかったかもしれない。天国へ行けるように日々の行いを良いものとする。罪を犯してはならない。ましてや禁忌と言われる類など以ての外。数日前までは心の底からそう思っていた。恵まれた環境下でいかに己の才を発揮し社会(世界)に貢献するか。許された範囲内での天文学ならば咎められないで暮らせる。そんなフリをしながら異端者並の罪を秘密裏に行えたならさぞ良かっただろう。そう、僕はまだ子どもで広い世界など知れた事でしかない。成長して思慮深く大人しく過ごしていれば、こうして死と向き合うなど起こらなかったかもしれない。そもそも神学に進む道はどうした?彼(か)の人に出会わなければ迷わずに神学だった筈だ。天文の知識もそこそこに培っていれば、例え天文を学べなくても知識は死ぬ事はないのだ。
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そう
知は死なない
死にはしないのだ
肉体は朽ちたとしても、その得た知というものは受け継がれ開花し時には燃え尽きて、やがて新芽が生まれる
人が生まれて死んで、また生まれるように
神の導きがあれば
いや
神の導き、加護がなくても知という好奇心は自然発生してくるだろう。どこの誰かも知らぬ者が託し受け継がれ引き継ぎ開花させる。それを願って死に逝くのなら後悔などありはしないと感じたけれど、やはりこの世に未練は生まれる。僕の手で未来を変えたい、世界を変えたい、変えた日に立ち会いたい。禁忌と呼ばれた思想は正しかったのだと証明したい。そう願ったら急に死ぬのが怖くなった。
嗚呼。駄目だ。意識が朦朧としてきた。幸いに苦しさは無い。だから芥子の実を選んだのだ。少しでも苦しまずに死にゆけるように。どこかの教会で鐘の音が聴こえてくる。幻影だ。そろそろ死の入口に足を踏み入れたのか。僕は天国に行けるのか?地獄か?そんな事に興味が湧かないが、ほんの少し気になってしまった。もしかしたら天国も地獄も存在していない死後の世界だったならば、と考えたら不謹慎だが可笑しくなってきた。
「あ~あ。もっと生きて宇宙の事が知りたかったな~、トポツキさんにこっそり修正してもらいたかった。死ぬのが怖いという感情を知るなんて」
今更そんな事を思っても遅いし馬鹿げている。己で決めた事だ。悔いは無いといえば嘘になるが、未来に託す事がこんなにも心踊るのは知らなかった。きっと彼の人に出会わなければ一生知り得ない感情だったかもしれない。
「十二歳の誕生日おめでとう」
そうポトツキさんに祝ってもらった日が懐かしい。学友達も祝ってくれたっけ。嗚呼、あの頃に戻りたい。数日前の事なのに酷く前の事の様に感じる。きっと僕の中の出来事が広大過ぎて、まるで宇宙に例えて良いのかもしれない。
十三歳になったらどんな事をしたいかを考えたな。神学について更に深く理解しているのだろうか?それとも編入して天文学で知を得ているのだろうか?異端者扱いとなって投獄されている可能性だってある。
さぁ
知を求める者よ!
オリオンの導きによる頂きに記された奇跡は大河(流星群)の如く予期せぬ場所へ巡り続けるだろう
例え異端と呼ばれても求める事はやめられぬ
神でさえ、それを奪える訳ではないのだ
天地がひっくり返るぞ
美しいものを描いてみせよ
2024/12/21
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#チ動説認定記念日
ラファウ君の語り
チ。は情緒が揺さぶられる作品ですね