ジュンアイ「流川君が好きです。私と付き合ってください」
アイツの告白現場なんて幾度となく見たのに、
(何で、)
「…あんたがオレに付いてこれるなら、付き合ってもいい」
胸が潰されたみたいに息が出来ない。
(何でこんなに苦しいんだ)
女子生徒を見ていたルカワの瞳がふとこちらに気付き視線がカチリと合わさる。
オレは駆け足でその場を離れた。
桜木の姿を目で追っていると下から声が聞こえ意識をそちらに向ける。目の前の女は呆然としている。
「ほんと…?」
「ただ、あんたじゃオレを理解出来ない」
何の感慨もわかなかった。
辟易していた。
何回も呼び出されては時間をとられ答えればその言い方がどうだとか、面倒くせー。
だから誰でもいいから恋人を作れば静かになるかと思った。この誰とも知らねー、顔もよく見てねえ女でもオレの邪魔さえしなければ別にいいかと思っていた。
でも、さっき見た桜木の表情に目を奪われた。
どうしてそんな顔をする?おめーに関係ねーのに。
たまらなかった。
「オレは変わらないし変われねー。バスケが最優先だしあんたに時間を作ってやったりもしない。付き合っても別れることになるし、それこそ時間の無駄」
「それでもいい、私頑張るよ…!」
「頑張るだけじゃ続かねー。オレを理解してオレと同じ熱量がなきゃ」
「ッ…、まるで理解してる誰かが居るみたいな言い方だね。バスケ部のマネージャーさん…?」
「いや、」
女に問われて考える。
マネージャー2人は確かにオレに対して理解もバスケへの造詣も熱量もある。けど、
オレは思い返す。
コート上、心が通じ合ったその時。
苦しくても自分をそして皆を鼓舞し導く姿。
何時も諦めない気持ち。
いつでもどこでもバスケバスケ、オレに言われても止めないほど体力ありあまるバスケバカ。
嬉しい大好きが溢れてるバスケへの愛情。
オレがバスケに注ぐ思いがどれほどか知っててさらにオレを追い越すと宣う。
オレが行くからあいつもアメリカに行くと言う。
オレの前に突然現れた、不敵に笑う赤い髪のどあほう。
「桜木」
そんなの、愛じゃねーか。
「はあ…」
「花道どーした?」
翌日の昼休み。屋上で桜木は昼食を頬張りながら昨日のことを考えた。
あの後ルカワの様子は変わりなく部活に励んだ。その様子を眺めながらコイツ彼女出来たんだよな…と反芻する。てか「付いてこれるなら」って何だよ。おめーに付いてこれる奴なんざオレくれーだろうが!とイライラしてはたと気付く。
(嫉妬してんのか…?オレが?あの彼女に?)
無い!無い!ぶんぶんと頭を横に振ると隣のリョーちんはオレの突然の奇行に目を丸くしていた。
そして自主練で2人になった途端ルカワが傍に来て「おい、ノゾキ野郎」と罵った。はーーー???
「ふざけんな!見たくて見たわけじゃねえ!てめーらが体育館に向かう通り道で告白してんのがワリーんだよ!!」
ルカワに喚いた後冷静になり「つーか、おめー帰れよ。彼女待ってんだろ…」と呟いたら「そんなんいねー」とコイツは言った。
何で?オッケーしただろうが。その後何かあったんか。分かんねーけどルカワに彼女がいない事実に心がじんわり温かくなった。
オレと桜木しかいない体育館でオレが突っかるとこいつは分かりやすく憤慨した。キャンキャンうるせー。その後彼女がどーのと聞かれたからいねーと告げたらどあほうは途端に目を見張り、その直後微かに安堵の表情を見せ今度はオレが面食らう。
それからすぐにそーかそーか結局断られたんか残念だったな〜キツネ君!あの女性は見る目がある!と自分が良いように解釈して揶揄い笑った。断ったのはオレだどあほう。
おめーにさっきの面、見せてやりてー。
気持ちのいい朝だ、心が躍り鼻歌すら出ちまう。
「楽しそーだな」洋平の声に快活に返事をする。
が、校舎に入り教室に向かう最中何やら違和感を感じた。女子の皆さんがオレを見てヒソヒソ話している。気のせいじゃねーよな?
それが昼まで続いてて晴れやかだった気持ちが萎んでいく。心当たりがないから尚更気味が悪い。
「何かよ、女子の皆さんが変なんだよな。オレ何かしたかな…」
すると軍団4人は「あー」と訳知り顔。知ってんなら教えろ!と詰め寄ると昨日のルカワの告白話になった。何でここでルカワ?疑問に思いつつ耳を傾ける。
「その時に流川、花道の名前を出したんだよ」
要約すると、ルカワは告白を一度受けた、ただし条件を満たせば。その後すぐに付き合っても意味ねーと滾々と説明された女子に、そういう人が居るの?と聞かれてオレの名前を出した。それが広まって女子から目の敵にされている、らしい。
「…………………はあーーーーー!?!!!?」
響く声にドタバタと廊下を走る音がする。このうるささは…
その足音はオレの教室の前で止まり勢いよく扉を開けた。
「おいルカワ!」
むくりと体を起こすと桜木が顔を真っ赤にしながらドスドスとこちらに歩いてくる。
胸ぐらを掴まれ「ちょっと来い」と言った後体を翻し同じく音を立てて教室を出ていった。
至近距離で見た桜木の瞳にオレが映っていて自分の表情を自覚する。
それは微かながら欲を孕んだ愉悦。
「ふ…」
口元が自然と緩む。
ああ、餌が自らから舞い込んできてくれた。
結果的にあの女は良い仕事をしてくれた、オレが言ったことをわざわざ広めてくれたのだから。それが桜木の耳に入るのも時間の問題だった。
どあほうがオレを意識してんのまるわかり。
お前はもうオレに食われるだけ。
次の授業はサボりだな。
流川はゆっくりと椅子から立ち上がり、桜木の後を追った。