反響二人きりの体育館。
今日は喧嘩をしていない。
周りは安堵の表情でむしろ褒められた。
「………」
喧嘩したくてしてるわけじゃない。キツネがムカつくのは今更だが。
しなくていーならそれがいい。
これが普通なのに…
物足りない。
触れてねーから。
お前の熱が欲しい。
自分の腕をギュッと掴んだ。
「どあほう、これからてめーんち行く」
「はあ?」
カチンと紐を引っ張れば一瞬で灯る部屋。
一息つけるこの場所に今夜は緊張が走る。
ルカワ。
プライベートの空間。
そこだけ明らかに異質。
オレたちはトモダチじゃない。
仲良し、じゃない。
「ガチガチキンチョー男」
「ぬ!」
うるせー!どうしたらいいか分からん…
オレらの今の距離感が分からない。
学校や部活ではキス以外は上手くやれるのに。
オレはこいつに対して今どう思ってる?
キスされても嫌じゃない。
なら。
「………」
キスしてえ。
深く触って欲しい。
ぶんぶんと首を振れば片手が顔に添えられる。
正面のルカワがちゃぶ台に肘をつきながらオレの頬を撫でた。
指が唇に当たる。
意図した動き。
察せない、わけない。
熱を帯びた視線。
カタン。
コップの液体が揺れる。
近付いてくる。
「ダメだ!オレら今喧嘩してねーし…」
喧嘩の延長でしかなかった。
いつも鉄の味がした。
今回は何もないからそれを理由にできない。
「喧嘩しなくても触りてー」
手を重ねられた。
優しく。
身動きがとれない。
静かなキスだった。
あたたかくて心地良い。
鉄の味がしないキスは初めてだった。
口吻したまま畳に押し倒され、必死に。
何度も交わして覚えているのに、
今日はまるで違うモノみたいだ。
求めて求められて。
もっと感じたい。
コクンと唾液を飲み込んだ。
これがオレのファーストキス。
ーーーーー
喧嘩しねー日は物足りなかった。
触れたかった。
どあほうの予定も聞かず家に行くと決めた。
心音が早い。
体育館じゃない場所に違うシチュエーション。
目の前の桜木。
ゆっくり優しく心がけた。
緊張を解すように触れて。
気持ち良さそう。
ここまではなんとかできた。
欲してた。
堪らなくなって覆いかぶさり深く貪る。
我慢できるわけねー。
いつもと違う。
当たり前だが鉄の味はしない。
するのはこいつの…
甘いそれを堪能する。
喉が鳴る音がした。
口腔に溜まったオレの唾液。
桜木は取り込んだ。
言いしれぬ歓喜が渦巻いた。
ーーーーー
銀糸と吐息。
別の場所も反応してる。
セーリゲンショー。
「ファーストキスになったか」
問えば顔を真っ赤にして頷いた。
実際ファーストキスなんてとっくにオレがもらってるけど。
どちらにせよオレであることに変わりはない。
無かったことなんかにさせねー。
苛ついた。
だからわざと噛み付いた。
それが始まりだった。
もっと深く、お前を知りたい。
キッチンに向かう桜木の手を掴んだ。